6. あの日の僕ら2 ㊶~㊺


-㊶ 手紙が教えてくれた可能性-


 披露宴会場で本日の主役の2人と共に笑いあり涙ありの宴が行われていた、余興として桃と美麗が新郎新婦席の2人の為にカラオケボックスに通い詰めて練習したと思われる最近でもベタだとされている某女性シンガーのとある曲を歌っていた。


香奈子「2人とも下手すぎー!!」


 高砂で腹を抱えて笑う香奈子と裕孝、練習では上手に歌えてはいたのだがどうやら緊張を和らげようと酒を呑みまくったので2人共顔が赤くなり酔いが回っていたのだ。

 最後の両親への手紙の時、2人共片親ずつだったのでウェディングプランナーの提案で2人から隆彦と光江への手紙となった。光江の離婚など懐かしきエピソードや、コンビニや病院での感動の再会について書かれた手紙の内容を聞いて母と父は涙を流していた。新郎新婦も同様に泣いていたらしい、「感謝と歓喜の涙」と言うやつだろうか。

 守は感動の涙と共に終わった披露宴から有志での2次会への会場へと先に向かった、新郎新婦が会場に選んだのは勿論皆の集合場所とも言える「松龍」だ。

 手紙の内容、特に最後の1文が気になったので龍太郎が何か知っているだろうと踏んだ守は店主に結愛からの手紙を見せて質問した。


守「龍さん、今時間大丈夫?」

龍太郎「ああ・・・、少しだけなら。裏庭に来いや。」


 2次会の為の特別料理を作っていた龍太郎は1段落したので裏庭に守を連れて行き、煙草を取り出して燻らせ始めた。


龍太郎「どれどれ・・・、もう1度見せてくれるか?手書き・・・、の様だな。」


 結愛直筆と思われるその手紙を受け取った龍太郎は守に質問した。


龍太郎「守、この手紙は誰から受け取ったんだ?」

守「会場の従業員さんからだよ、確か「結愛社長から手紙を預かっているのですが」と言って俺に渡して来たんだ。」

龍太郎「そうか・・・、その従業員の名札は見たか?」

守「ごめん、ただその人名札してなかったんだ。」

龍太郎「じゃあ、従業員ってどうして分かったんだよ。」

守「制服だよ、周りと同じ制服を着ていたんだ。」

龍太郎「そうか・・・、待ってろ。」


 龍太郎は携帯を取り出して挙式と披露宴の会場を経営する会社へと電話を掛けた。


龍太郎「もしもし、私警視総監の松戸と申します。1つお伺いしたいのですが、そちらの従業員の方が名札をせずに業務をされる事はあるのでしょうか?」


 偶然だが電話に出たのは、その会社の社長だった。


社長(電話)「有り得ないと思います、朝礼時に従業員同士で制服チェックをさせていますので。チェック項目に「名札がしっかりと付いているか」という物もございますから。」

龍太郎「そうですか・・・、分かりました。いや特に何も、ご協力ありがとうございます。」


 電話を切った警視総監は守に結果を伝えた。


龍太郎「どうやら・・・、会場の人間じゃないみたいだぞ。」

守「そうか・・・、じゃあ、誰だったんだろう・・・。」

龍太郎「それは良いとして、これがその手紙なんだな?」

守「ああ・・・、ここが気になってよ。」


 守は自分が気になっている部分を指差した、それを見た龍太郎は一服した。


龍太郎「結愛は面倒な社長だな・・・。守、今から言う事は秘密にしてくれ。」


 店主は裏庭と店内の出入口を全て閉めてベンチに座った。


龍太郎「良いか、そこに書いてあるのは紛れもない真実だ。お前もこの前、街はずれで原因不明の竜巻が起こったのは知っているよな?」

守「確か・・・、物凄く大きかったって聞いたけど。」

龍太郎「そうだ、結愛と光明はその竜巻に巻き込まれて1度死んだ人間なんだ。貝塚財閥の意向で表沙汰になっていないが、今は乃木建設の社長が結愛の代わりをしているらしい。」

守「でもこの前、ここで飯食ってたじゃねぇか。」

龍太郎「本人が言うには異世界に行って魔法使いになったらしい、実は俺も訳が分からなくなってるんだ。」

守「もしかしてその異世界に好美が・・・?」


-㊷ 早すぎる再訪と新事実-


 通常営業を止めて店自体を貸し切りにした龍太郎は普段のメニューではなく新郎新婦の為に特別に「満漢全席」の様な物を用意する事にした、本人は嫌だったらしいが致し方が無いので王麗が父である特級厨師・張朴に依頼して手伝って貰っていた。


龍太郎「けっ・・・、じじいに来させるほどの事じゃねぇだろ。」

張朴「師にむかって何を言うとるか、相も変わらず可愛げのない弟子じゃな・・・。さっきもわし1人に調理を押し付けるし・・・。」

王麗「もう・・・、2人共折角の宴なんだから喧嘩しないでよ・・・。」

龍太郎「仕方ねぇか・・・。」


 店主は調理をしながら辺りを見廻した、先程まで裏庭にいた守しか見当たらない。


龍太郎「守、そう言えば他の連中はどうした?特に美麗(みれい)なんだが・・・。」

守「もうすぐ来ると思うよ、俺先に来ただけだから。美麗(メイリー)なら桃と一緒に来るんじゃないか?2人でずっと呑んでたし。」

龍太郎「ずっと呑んでたって?あいつ・・・、手伝いの事忘れてやがんな。」

守「余興で緊張してたらしいぜ、俺で良かったら手伝おうか?丁度暇だから構わないよ。」


 龍太郎はこの日使う円卓上の写真を守に見せた。


龍太郎「すまんがこの写真の通りにあそこに置いてある道具を並べてくれないか?」

張朴「すまんな守君、バイト代は弾んどくよ、儂の馬鹿な弟子がな。」

龍太郎「馬鹿とは何だ、くそじじい。早く作れよ。」

張朴「じじい使いが荒いの・・・、修業を終えて結婚したばかりの頃とは大違いじゃ。」

守「まあまあ、取り敢えずあれを並べるんだね。」

龍太郎「すまんが頼むわ。」


 守が横に添えられた手袋をはめて円卓上に什器等の道具を丁寧に並べていると外から聞き覚えのある女性と男性の声が、しかも結構最近。


女性「お前な、昨日の内に書類済ませとくって約束だっただろうがよ。」

男性「俺の所為じゃねぇよ、後からリンガルスさんが追加して来たんだよ。俺じゃなくてお前のサインが必要な書類ばっかりだから何も出来なかったの。」

女性「願書へのサインはまだ日にちが大丈夫だろうが、ダンラルタ王国からの分がまだ来てないんだぞ。」

守「あの声・・・。」


 守は聞き覚えのある声の主を確認する為に出入口に向かった、やはり最近はずっとスーツ姿の「あの2人」だ。


守「結愛に光明!!」

結愛「悪い悪い、光明が「仕事が終わらない」って呼び出すもんだからさ。挙式は無理でも披露宴は出席しようって急いで終わらせて来たんだよ。」

光明「幼馴染の結婚式だからな、やっぱり出席してやりたいじゃん。」

守「気持ちは分かるんだけどよ、お前らって確か・・・。」

結愛「何だよ、俺達の何を聞いたってんだよ。まさかお前・・・。」


 守にぐっと近づいて来る結愛。


結愛「俺達が最近になってやっと英検3級に合格したのを知ってたのか?!」

守「え・・・、英検3級(中学卒業レベル)?大企業の社長と副社長が?今更?」


 まさに「五十歩百歩」だが準2級(高校中級程度)を取得している守は思わず吹き出してしまった、きっと例の事を隠そうとしてジョークをかましているんだろう。守がそう思った瞬間、結愛が胸元から名刺サイズの合格証を取り出して見せつけた。


守「結愛・・・、そうやって出す奴じゃねぇぞ・・・。」

結愛「仕方ねぇだろ、苦手な英語を久しぶりに勉強してやっと取ったんだぞ。それにしても誰も居ねぇじゃねぇか、何してんだよ。」

守「まだ準備中だよ、美麗が来てないから人手が足りてないんだ。」

結愛「じゃあ俺達も手伝ってやるよ、なぁ光明。」

光明「当たり前だろ、龍さんだって早く終わらせて酒宴を楽しみたいだろうし。」

龍太郎「良いのか?大企業のお偉いさんに何か悪いな・・・。」

結愛「困った時はお互い様だろうがよ、これを運べば良いのか?」

龍太郎「ああ、冷めちゃいけないからそこにある蓋を閉めといてくれ。」


 社長達が料理を運んでいると後から真帆と真美が店にやって来た。


真美「そこにいるのってあの「結愛」さん・・・?」


-㊸ 双子の相違点-


 目の前にいるスーツ姿の女性に驚きを隠せない双子の妹はその場で数秒程停止した後に目を輝かせ始めた、未だ現実を信じる事が出来ずにいた。


真美「あの・・・、貝塚財閥社長の結愛さんですよね?」

結愛「そ・・・、そうですけど・・・。」


 ぐいぐいやって来る真美に思わずたじろいでしまう結愛、何故か「大人モード」のスイッチが入ってしまった。


結愛「待って、君って確か喫茶店で働いてた守の彼女の・・・。」

真美「それは姉の真帆なんです、私達双子でして。私は妹の真美です。」


 すると出入口に姉の姿があった、彼氏が先に会場を出た事を知らなかったのでずっと顔をきょろきょろさせていた。ただどうしてこの2人が招待されたのかは分からないが。


真帆「守!!何で先に帰っちゃったの?!寂しかったんだから!!」

守「悪かったよ、龍さんに用があったから急いでたんだ。」

真帆「だからって真帆に一言も無いなんて酷い、ちょっとこっち来て!!」


 守が真帆に近付くと真帆は守の両手で顔を挟んでキスをした、寂しい思いをした分濃厚に交わした。


真帆「やっぱり・・・、大好き・・・。」

結愛「お前ら人前でよくやるぜ・・・。」


 結愛の声に反応した真帆は急に大人しくなった。


真帆「あ、この前の社長さんですよね。新しいオレンジジュース入ってますよ。」

結愛「助かるよ、君ん所のジュース美味いんだよな。」


 何気ない会話を交わす2人に割り込む様に真美が結愛に色紙を渡した。


真美「社長さん、サイン下さい!!」

結愛「やっぱり読モもしてみるもんだな、もう俺もすっかり有名人だよ。」

真美「読モってどういうことですか?」


 憧れの社長本人の前で目を丸くする真美。


真帆「すみません、真帆と違って真美はファッション雑誌は全く読まないんです、経済とビジネス系の雑誌ばっかりでして。」

真美「「今活躍する女性若社長」の取材記事読みました、いつか真美も貝塚財閥に入社したいです。」


 真美は懐から結愛の取材記事が載っている雑誌も取り出した、どうやら宝物として持ち歩いている様だ。


真美「お願いします、これにもサイン下さい!!」

結愛「嗚呼・・・、それなら・・・。」


 いつも通りの黒いスーツで写っているので龍太郎に白のマジックを借りて漢字で「貝塚結愛」と崩して書いた。


結愛「会社で会えるのを楽しみに待ってるからな・・・。」


 結愛が少しの罪悪感を持ちながら真美と握手を交わす中、聞き覚えのある排気音(エキゾースト)が鳴り響いた。


王麗「この音はまさか・・・。」

守「母ちゃん・・・。」


 2次会の準備を守や貝塚夫妻のお陰でやっと終わらせる事が出来た王麗が店の外に出た、駐車場には見覚えのある紫のスルサーティー。


王麗「真希子、どうしたんだい。あんた車置いてから来るって言ってたじゃないか。しかも走りに行った訳でもないのにこいつなのかい?目立つったらありゃしないよ。」

真希子「それ所じゃないのさ、ほら着いたよ。」

美麗「やったー、「紫武者(パープルナイト)」に乗っちゃったー。」


 そう、真希子は酒に酔った美麗を会場から送って来たのだ。母は頭が上がらなかった。


-㊹ 赤かった、そしてまたやらかした娘-


 今日の主役以上に宴を楽しんだ娘を見た母は少し引き笑いをしながら連れて来てくれた「紫武者(パープルナイト)」に感謝した、美麗が宴を楽しんだ事は主役の1人である香奈子が誰よりも証明していた。


王麗「すまないね真希子、緊張していたからってこんなに赤くなるまで呑むなんてね。」

真希子「構わないさ、運転は趣味みたいなもんさね。」

王麗「お礼と言っちゃ難だが、2次会ではいっぱい呑んでおくれ。」

真希子「勿論そのつもりさ、じゃあこいつを置いて来るね。」


 真希子は再び排気音を響かせて家に帰って行った。


香奈子「それにしても美麗強いね、あんなに吞んだのに。」

王麗「そりゃそうさ、居酒屋の娘だからね。(中国語)あんた、父ちゃんの手伝いすっぽかしたね。父ちゃんキレてたよ・・・、今月と来月のお小遣い天引きだね・・・。」

美麗(中国語)「げっ・・・、嘘でしょ・・・。」


 勿論冗談である、ただ手伝う事を忘れていた事を反省させる為に言っただけだが効果は抜群らしい。


王麗(中国語)「じいちゃんまで来ているって言うのにどういうつもりだい。」

美麗(中国語)「余興で緊張してたの、仕方ないじゃん。それにもうほぼ素面だもん。」


 ふと王麗は店のカラオケで美麗が余興の練習をしていた場面を思い出した。


王麗(日本語)「あれ?そう言えば一緒に余興をしてた桃ちゃんはどうしたんだい?」


 美麗とは打って変るかのように香奈子と裕孝の肩を借りてふらふらと歩く桃。


王麗「あらあら、美麗と呑み比べでもしたのかね。烏龍茶でも持って来るから挟みな。」


 王麗は踵を返して調理場に戻った、右手で美麗の右耳を引っ張りながら。


美麗(中国語)「痛いよ、何すんの!!」

王麗(中国語)「反省させるためだよ、あんたまたやったね・・・。」


 そう、生前の好美と香奈子の引っ越しを手伝った時の様に美麗がまた王麗のトラックでドリフトしたらしく、実は地元の走り屋同士での会話はその噂で持ちきりだったのだ。


王麗(中国語)「あんた今度は山でやったんだってね、真希子に聞いたよ。事故したらどうするつもりだったんだい、それにタイヤがちびっているじゃないか。これは峠を走る用の車じゃないの、ビールを運ぶ用。あんたのはあれ!!」


 王麗が指差した先に紺色のカフェラッテが1台、興奮した美麗は日本語に戻った。


美麗(日本語)「納車されたんだ!!やった!!ちょっと乗ってこようかな。」

香奈子「美麗車買ったの?凄いじゃん・・・。でも今は駄目だって!!」


 まだ酒が抜けた訳では無い上、今から2次会が始まるというのに何を考えているのだろうか。そんな美麗を、鍋を洗い終えた父が出迎えた。


龍太郎「美麗・・・、かなりお楽しみだった様だな・・・。」

美麗「その声はパ・・・、パパ・・・。」


 王麗から演技する様に言われていた店主は少し重い口調で深くため息をついた。


龍太郎「はぁ・・・、終わってしまった物は仕方ないがお前の代わりに守と結愛ちゃんが手伝ってくれたんだぞ。礼言っておけよ。」

美麗「えっ・・・、読モの「YU-a」さんが?!」


 すると出入口から「YU-a」本人が声をかけた。


結愛「龍さん、全部運び終わったぜ。あっ、美麗!!今頃帰って来たんか、何て奴だ!!」

美麗「ごめんなさい、つい楽しくなっちゃって。」

結愛「桃、女将さんから烏龍茶だぞ。香奈子ちゃんはお色直しな。ほら、早く入れよ。」

香奈子「え?ここでもお色直しがあるの?」


 烏龍茶を飲んだ桃はすっかり元気を吹き返し、チャイナ服に着替えた香奈子が出て来た。


結愛「さて、2次会を始めますかね!!改めて裕孝、香奈子ちゃん、おめでとう!!」


-㊺ 涙雨か祝いの雨か-


 今回の2次会では敢えて高砂を作らず、回転テーブルでゆっくりと飲食を楽しめるようにした。いつもの松龍での楽しく酒を呑む香奈子、ただ自らが着る衣装が恥ずかしさを覚えさせていた。


香奈子「どうしてチャイナ服な訳?これって美麗の役割じゃないの?」

美麗「私も普段からそこまでがっつりとしたものを着るのは無いかな・・・。」


 理由は1つだけ、勿論龍太郎の趣味だからである。もしも自分の店で結婚式の披露宴やその2次会を行う事になったら花嫁に着てもらおうと用意していたのだった、ただ男性用の物を用意していなかったので少し違和感があるが。

 少し顔を赤らめる今日の主役を遠目に見ていた真帆がその姿を羨ましがっていた。


真帆「香奈子お姉ちゃん良いな・・・、真帆も守とあんな感じで結婚したいな・・・。」

守「う・・・、うん・・・。」


 チャイナ服姿の香奈子に学生時代の好美を重ねてしまっていた守、理由は他でも無く松龍でアルバイトを始めたばかりの頃の好美と出逢って守の恋が始まったからだ。

 ため息をつきながら紹興酒を呑む守を見た真帆が守の服を掴んで振り向かせた、恋人の表情は少しながら嫉妬心を感じさせた。


真帆「どうして真帆を見てくれないの、今の彼女は真帆なんだよ!!」

守「ご・・・、ごめん・・・。」


 再び紹興酒を口にする守、真帆は服を掴む手の力を強くした。


真帆「また好美さんの事を考えていたの?真帆は好美さんみたいにはなれないの?」


 真帆は体を小刻みに震わせ、大粒の涙を流し始めた。守は号泣する恋人にどう言った言葉をかければ良いのか悩んでいた。一先ず・・・、顔を近づけた・・・。


守「悪かったよ、そうだよな・・・。今の彼女は真帆、俺は真帆と新たな一歩を踏み出したんだよな。」

真帆「そうだよ、忘れちゃだめだって言ったじゃん!!」

美麗「守君、こんなお祝いの席で泣かせちゃ駄目でしょ!!・・・ってあらら。」


 守とキスを交わす真帆の涙の雫が床に落ちた瞬間、出入口から雨の音がしてきた。真希子は出入口から少しだが強まる雨を眺めていた。


真希子「あらあら、お祝いの日に雨だなんて・・・。」


 そんな真希子の言葉を聞いてそっと横に立つ結愛。


結愛「大丈夫ですよ、これは何処かで読んだ話ですけど結婚式は雨の日にした方が縁起が良いらしいですよ。」

真希子「そうかい、じゃあこれは神様からの祝いの雨って訳だ。」


 すると店のカラオケから1990年代に流行したバラードが流れ始めた、マイクを持つのは龍太郎だ。


龍太郎「改めて2人共おめでとう、俺からも1曲プレゼントさせてくれ。」


 しかし歌いだしの直前で曲が止まってしまった、リモコンを持っていたのは妻の王麗。


龍太郎「何すんだよ、母ちゃん。」

王麗「あんたは馬鹿かい、いくら雨でも披露宴に失恋ソングは駄目じゃないか!!」

龍太郎「いってぇ・・・、母ちゃんは今日も強いぜ」


 まるで漫才の様に息ぴったりの2人、会場は爆笑に包まれた。そのお陰で真帆も笑顔を取り戻した様だ。

 実はこれ、遠くから守と真帆の様子を見かけた松戸夫婦がわざと行った事で、楽しいはずの宴で悲しい表情をしていたからだ。

 2人は紹興酒をお代わりして今日の為に用意された特別料理を楽しんでいた、今回は小皿に自分で料理を小皿に取るバイキング方式を取っていたので洗い物も少なく、自動洗浄機と乾燥機にかけるだけだったので夫婦も宴を楽しんでいた。


裕孝「さてと・・・、たまには俺も・・・。」


 そう言ってマイクを取ると、新郎はリモコンを受け取って番号を入れ始めた。裕孝が歌うのは珍しい事なのでその場の全員がドキドキしていた・・・。

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