6. あの日の僕ら2 ㉑~㉕


-㉑ 暴露-


 流石にこれ以上は黙っている訳にも行かないと思った龍太郎はいい機会だと思い真実を美麗に伝える事にした、しかしその為にはある事実を暴露する必要があった。


龍太郎「美麗、ずっと隠しているつもりは無かったんだが父ちゃんと母ちゃんには夫婦以外での関係があるんだ。」

美麗「夫婦以外の関係ってどういう事?」


 そこに偶然居合わせた王麗が口を挟んだ。


王麗「父ちゃんと母ちゃんはここで中華居酒屋をしている裏で警察として動いていて、実は上司と部下の関係でもあるんだよ。父ちゃんは警視総監で、母ちゃんは警視。」

龍太郎「実は今日も暴走車事件の取り調べに行ってたんだ、父ちゃんと母ちゃんが行方を追っているある人物に関係があるって聞いてな。」


 龍太郎は美麗の指紋が付いてはいけないと手袋を渡して犯人から押収した手紙を差し出した、手紙を受け取ると美麗はゆっくりと開いた。


美麗「読んで良いの?」

龍太郎「ああ・・・、ただ機密書類だから静かに読めよ。」


 美麗は開いた手紙をゆっくりと黙読し始めた、手紙にはこうあった。


この手紙を受け取った君へ


 君がずっと金に困っているのは明白だ、この札束が欲しければ駅と警察署の近くにあるレンタカー屋から車を盗みロータリー周辺を走り続けろ。

 勿論、信号が赤でも無視して走れ。私の言う事が聞けないならその金は返して貰う、今の君にはとても出来ないと思うがな。


 パソコンで作成された手紙の下部に記載された名前を見た美麗は驚きを隠せなかった、手紙を持つ両手が小刻みに震えていた。


美麗「貝塚・・・、義弘・・・。」

龍太郎「そうだ、守達が通っていた高校で散々好き勝手したあいつだよ。今は行方不明とされているが、父ちゃんと母ちゃんはずっとあいつを追っているんだ。学生達と親しくしている理由はあいつらが好きだからってのもあるが、内部の情報を密かに手に入れる為だ。」

王麗「守君のお母さんがちょこちょこ弁当を買いに来ているだろ、あれも実は荷物の中に紙を忍ばせてお互いに情報を交換し合っていたんだよ。」


 目の前で展開される話について行けていない美麗は、2人を急いで止めた。


美麗「待ってよ、話が早すぎて訳が分からない!!」

龍太郎「そうだな・・・、すまん。じゃあ今美麗に言える最新の情報を言おう、実は好美ちゃんが亡くなったのも義弘が関係しているんじゃないかと踏んでいるんだ。あいつには理事長時代から贈収賄の罪があるからな。」

王麗「亡くなる少し前にあの工場で起こったトラック大量消失事件も関係ない訳じゃないって思っていてね。」


 スラスラと話す2人の前で美麗は表情を曇らせた。


美麗「ねぇ・・・、1つ聞いて良い?」

王麗「可能な限り答えるよ、どうしたの?」

美麗「亡くなった好美は報われるのかな、安全対策は「わざと」外されたって事だよね?」

龍太郎「俺達はそう踏んでる、きっと守や好美ちゃんの無念を晴らしてやる。」


 脳内を好美との思い出が走馬灯のように駆け巡った美麗は涙を流し始めた。


美麗「パパ・・・、ママ・・・、好美を・・・、私の大切な友達を必ず助けてあげて。」

王麗「こっちにおいで、美麗・・・。」


 美麗は母の温かな胸に抱かれた、龍太郎は2人を包む様に肩を抱いた。


龍太郎「俺達は決して義弘を許したりはしない、勿論目的がどうであれ、工場長の我原 悟もな。」


 ほぼ同刻、目の前で守が一瞬体を震わせたので不信に思った真帆は心配した。


真帆「どうしたの、守兄ちゃん。」

守「何でも無い、風邪・・・、引いたかな・・・。」


-㉒ 夫婦が故に-


 数年前、美麗がまだ学生だった頃に龍太郎は義弘が自らの派閥に属する株主の重岡により釈放された事を聞いてから王麗と2人で密かに関連する事件について調べていた。

そんな中で「貝塚義弘、山小屋から突然消失」という例の記事が新聞や雑誌を賑わしていたので美麗が好美と徳島に向かっている間、自ら話題となった山小屋へと赴いていた。

 何処からどう見ても「廃屋」としか言えないその山小屋には記事の通りコンビニで買ったと思われるお握り等の食べかすが放置されていた、どうやらここで義弘が生活をしていたのは間違いない様だ。

 その数日前に龍太郎は王麗にあるお願いをしていた、上司と部下として調査をしているにも関わらず夫婦関係や主従関係は変わらない様だ。


龍太郎「母ちゃん、すまん(調査を頼む)。」

王麗「何さ、また醤油が無くなった(しょうもない調べもの)かい?もう懲り懲りだ(父ちゃんが言うなら構わない)よ。」

龍太郎「いや葱油(重要案件)だ・・・、いつもより多めで頼む(母ちゃんにしか頼めないんだ)よ。」


 因みに何故か最初の一部分だけ暗号化されているこの相談は、松龍の調理場で行われていたがカウンターの客や夏季限定のかき氷要因でのバイトとして店を手伝っていた花梨は全くもって2人の会話の内容に気付いていない、何故なら2人にしか理解できない暗号を交えている為と調理場から聞こえて来る中華鍋で炒め物を作る音が聴覚を遮っていた為だ。

龍太郎はわざと火力を強めにして大袈裟に鍋を振り、激しく音が鳴るようにお玉を鍋にぶつけていた、勿論出来上がった料理に影響の出ない程度に。

 それよりか、目の前で調理をしている2人がまさか正体を隠して義弘について調査をしている警視総監と警視だとは誰も思わない。


龍太郎「貝・・・、技・・・、の・・・、トラッ・・・、件って・・・、れるか・・・?」


 炒飯でも作っているのだろうか、換気扇や鍋の音が激しすぎて全くもって内容が入って来ない、こりゃあ客や花梨が会話を聞き取れないのも納得できる。


王麗「父ちゃ・・・、分かっ・・・、ど・・・、全・・・、きこ・・・、な・・・。」


 実は2人の間ではこれで会話が成立しているのだそうだ、長年連れ添った間柄が故に出来る事なのだろうか。そんな2人の会話を遮る様に花梨が調理場に入って来た、かなり焦っている模様だ。


花梨「女将さん、苺とブルーハワイの氷蜜が無くなったよ!!早く!!」

王麗「もう花梨ちゃんったら・・・、無くなる前に言えっていつも言っているじゃないか。父ちゃん、あんたが近くにいるんだから出してやんな!!」


 この様に花梨が氷蜜の予備を求めて来る事が、周囲の人間に2人の会話の内容が知られていない何よりの証拠だ。


龍太郎「花梨ちゃん、構わないから少し多めに持って行きな。」


 重要案件の話を機密にしておきたい龍太郎は氷蜜の入ったボトルをいつもより数本多めに手渡した、それを王麗はきっちりと見逃さなかった。


王麗「父ちゃん、女の子がそんなにいっぱい持って行ける訳が無いだろう。あんたが持って行かなきゃ無理だよ!!それとあんたが持って行くなら他の味も持って行きな!!」

龍太郎「母ちゃん・・・、相変わらず人使いが荒いぜ(また後で話す)・・・。」


 上司兼店主兼旦那の目的を知った王麗はわざと龍太郎を一度外に出した、機密情報を出来るだけ外に漏らさない為と暫く花梨が調理場に戻って来なくていい様にする為だ。

 暫くして、時計が14:00を指した頃だ。客足が落ち着いた事を確認した龍太郎は一度昼休みを取る事にした、花梨への賄いを作った後に暖簾を店の中に戻して「営業中」の札を「準備中」にひっくり返した。


龍太郎「花梨ちゃん、お疲れ様。テレビでも見てゆっくり休んでくれ、母ちゃん・・・、ちょっと・・・。」

花梨「叔父さん、座敷で宿題していい?」

龍太郎「偉い子じゃないか、勿論良いよ。喉乾いたらジュース、飲んで良いからな。」


 龍太郎は王麗を連れて裏庭に向かった、やはり王麗には話がしっかりと通じている。


王麗「父ちゃん、貝塚技巧のトラック消失事件について詳しく調べてどうするんだい?」

龍太郎「ちょっとだけだが嫌な予感がするんだ、義弘が釈放されてからが怪しくてな。」

王麗「まさか工場長も・・・?」

龍太郎「ああ・・・、可能性は十分にある・・・。」


-㉓ 向こうから来た-


 2人が裏庭で相談していると、店の電話が鳴り出したので王麗がベンチから立ち上がった。


王麗「ちょっと電話出て来るね。」

龍太郎「おう、頼むわ。」


 裏庭で1人になった龍太郎は煙草に火を付けてゆっくりと蒸かし始めた、店主が昼間の優しい風に当たりながら煙草を燻らせていると店内から王麗の声が聞こえて来た。


王麗「はいもしもし、松龍です。今お昼休みを頂いているのですが・・・、はい・・・。あ、ご予約ですね。大丈夫ですよ、お名前お願いします・・・、はい・・・、そうですか。」


 美麗と一緒で長年に渡り予約の電話を受けているので慣れた口調で受け答えしてメモを取る王麗、ただ今回の電話では少し嬉しそうな口調で話している様だ。


王麗「お時間はどうしましょう、19:00ね?勿論大丈夫ですよ、お席のご希望は御座いますか?あ、お座敷で・・・。ちょっと確認しますね・・・。」


 龍太郎は少し違和感を感じた、いつもは席の希望など聞かないのだが・・・。


龍太郎「このパターンは・・・、まさかな・・・。」


 王麗の電話は続いた、少し時間を延ばす様にしている様だ。


王麗「お待たせしました、お座敷大丈夫ですのでね、お電話番号お願い致します。はい・・・、はい・・・、ありがとうございます。呑み放題お付けしますか?」


 これもおかしかった、食べ吞み放題を付けるかどうかは店に来てから聞く事になっているからだ。


王麗「両方で・・・、分かりました。では19:00にお待ちしております、ありがとうございます。」


 龍太郎は裏庭に戻って来た妻に話しかけた、予約の電話にしては不審な点があったが龍太郎が想像していた通りの理由だったらしい。


龍太郎「どうした、長かったみたいだがもしかして逆探知でもしてたか?」


 裏庭の近くにあるノートパソコンには独自の逆探知システムがインストールされていた、勿論この事は夫婦2人以外は誰も知らない。秘密のフォルダに入れているのでこのパソコンを時々使う美麗も同様だ。


王麗「そうさね、念の為やっておいたよ。」

龍太郎「でもよ、「普通の予約」じゃあ逆探知なんかしないし席の希望なんて聞かないだろ?」

王麗「それが「普通の予約」じゃないんだよ、貝塚技巧の従業員らしき人が予約の電話をして来てね。」

龍太郎「でも席の希望を聞いたのはどうしてだよ。」

王麗「下手したら事件についての情報を聞けるかもしれないだろ?隠しマイクを仕掛けておくのさ、前からやっているだろ。」

龍太郎「久しく使って無いから忘れちまってよ、すまん。あれって俺もイヤホンを付けても良かったっけ?」

王麗「勿論だよ、あんたが聞かなきゃ意味がないだろ。」

龍太郎「確か・・・、録画も出来たっけか?」

王麗「本当にあんたは忘れん坊だね、よく警視総監なんかになれたもんだよ。」


 営業が再開して数時間後の19:00数分前に例の予約客が店を訪れた、勿論席に隠しマイクが仕掛けられているなんて思ってもいない。王麗が自らマイクを仕掛けた席へと案内した後に2人はこっそりとイヤホンを右耳に付けた。


王麗「こちらの御座敷をご用意させて頂きました、どうぞお使い下さい。えっと・・・、今から呑み放題を始めさせて頂いても宜しいですか?」

客①「はい、お願いします。」

王麗「こちらが呑み放題のメニューです、最初のお飲物はいかが致しましょう?」

客①「俺は瓶ビールで。」

客②「あ、俺も・・・。」

王麗「では瓶ビールとグラスを2つずつお持ちしますね、ではごゆっくりとお過ごしください。」


 王麗がビールを取りに行くとイヤホンから早速客達の会話が聞こえて来た、しかしビールを待つ間は事件に関する会話をしていなかった様だ。


-㉔ 先輩と後輩-


 夫婦は貝塚技巧から来た2人の客の言葉を一言も聞き逃すまいと全神経の7割以上をイヤホンを付けた右耳に集中させていた、目の前のカウンターで晩酌をしている客の言葉を聞く逃す位だ。


カウンター客「龍さん、そろそろお愛想して。龍さん?龍さん、聞いてる?」

龍太郎「ああ、悪い。注文か?」

カウンター客「頼むよ、ずっとイヤホンで何聞いている訳?」


 王麗は龍太郎が嘘が苦手だったことをつい先ほど思い出した。


龍太郎「ボートの実況を聞いててな、若松の⑫レースが荒れると思って買ったんだよ。」

カウンター客「どれどれ・・・、俺も見てみようかな。」


 まずいと思った王麗は急いで助け舟を出した、今夜若松ではレースは行われていない。


王麗「父ちゃん何言ってんだい、今日買ったのは蒲郡だろう。自分で買った舟券も忘れちまったのかい?」

龍太郎「そうだった、色々と買ったから忘れてたよ。」

王麗「忘れる位って事はあんた買い過ぎなんだよ、それで負けたらどうするつもりだい?」


 カウンターの客は携帯を取り出して蒲郡競艇のホームページをチェックした、どうやら⑫レースは1番人気で終わりそうな模様だ。


カウンター客「龍さん、何を買ったんだよ。ベタじゃないか、勿体ない事をしたな。」

龍太郎「くそぉ・・・、1万やられたわ・・・。」

カウンター客「取り敢えずお愛想して。」

龍太郎「そうか、ビールと唐揚げと・・・、フカヒレね。えっと・・・、5千・・・。」

王麗「父ちゃん、うちにそんな高級なもんいつ入荷したんだい。唐揚げと瓶ビールでしょ。」


 龍太郎と王麗の会話は勿論嘘だ、捜査と店が忙しすぎて今日は舟券など買えてはいない。王麗は思い出したかのように例の座敷席へと瓶ビールを持って行った。


王麗「お待たせしました、瓶ビール2本ね。」

客①「女将さん、ありがとうね。」

王麗「あらあんた、ヤケに嬉しそうな顔をしているじゃないか。」

客①「聞いてくれる?今日俺の誕生日なんだよ、それでコイツが酒奢ってくれるって言うから来た訳。良い奴だろ、泣かせてくれるよな。」

客②「いやいや、世話になっている先輩に感謝したいだけっすよ。」


 どうやらこの2人は貝塚技巧で働く先輩と後輩の関係らしい、良い機会だと思った王麗はこの誕生日を利用する事にした。


王麗「そうかい、じゃあ私からのお祝いと言っちゃなんだけど注がせて貰えるかい?」

先輩「ありがとう、嬉しいよ。」


 王麗は先輩のグラスにビールを並々と注ぎながら切り出した。


王麗「それにしてもあんた達の会社大変なんだってね、大丈夫なのかい?」

先輩「そうなんだよ、トラックが消えたり人が死んだりしてんのに次の日から普通に仕事しているなんてありえないと思うんだけどな。それにさ、未だにトラックも戻ってきてないから色々と不便なんだよ。」

王麗「そうかい・・・。まぁ、今日は折角の誕生日だから嫌な事忘れて呑んでおくれ。」


 王麗がその場から離れると先輩が夫妻が待っていた言葉を放った、どうやら隠しマイクと誘導が功を奏した様だ。


先輩「そう言えば女将さんの言葉で思い出したんだけどさ、お前聞いたか?消えたトラックの被害総額。」

後輩「いや、俺は聞いてないっすね。確か14台だったんでしょ?」

先輩「うん、14台で7000万らしいぜ。」

後輩「そうなんすか?あのトラック、思ったより安いっすね。」

先輩「工場長がケチだからな、備品もとにかく安い物ばっかりで揃えているだろ?それが何よりの証拠だよ、怪我なんて日常茶飯事なのに絆創膏も無いなんて有り得ないよな。」


 先輩のある言葉に夫婦は反応した。


夫婦「7000万・・・、やはり工場長も・・・。」


 やはり、夫婦の予見通り工場長には裏事情があるらしい。


-㉕ 釈放後の様子–


 次の日の朝から龍太郎と王麗は行方不明とされていた義弘が暮らしていたと噂される山小屋へと向かった、暗い木々の中にひっそりと立つその山小屋は何処からどう見ても廃墟としか思えなかった。


王麗「父ちゃん、気味が悪くてどう見ても人が住んでいたなんて思えないよ。私、何か寒気がしてきたんだけどね。」

龍太郎「敢えてこういった場所を選んだんだろう、でないと行方を眩ませることなんて到底出来ないからな。ほら母ちゃん、見てみな。」


 龍太郎は少し遠くの方向を指さした、よく見てみるとコンビニのおにぎりの食べカスが捨てられている。何故か全部「ツナマヨ」だったのが少し気になったのだが。


王麗「あいつ、魚が好きな奴だったかね。」

龍太郎「ここに釈放されてすぐだったはずからほぼ無一文だったんじゃないか?これがやっと買える物だったんだろう。」


 それにしても不可解な事が一点あった、食べカスと一緒に何故か重箱が放られていたのだ、しかも1つだけではなく何個も。ただその数個もの重箱に共通して言えるのは全てが綺麗だった事だ、米一粒も入っていた形跡が無い。


王麗「おかしくないかい?お握りを買うのがやっとの奴がお重の弁当なんて食べていたとは思えないよ。」

龍太郎「お重だからって食い物が入っていたとは限らんだろう。」

王麗「それって・・・、まさか・・・。」

龍太郎「ほぼビンゴで間違いないようだな。」


 如何にして釈放されたばかりの義弘が生活してこれていたかが見えてきた時、山小屋の隅でとんでもない物を見つけてしまった王麗は思わず叫び声を上げてしまった。


王麗「あんた!!大変だよ!!」

龍太郎「母ちゃん、ここにいるのが周りの連中にばれたらどうするつもりだよ。」

王麗「それどころじゃないよ、あれ・・・。」

龍太郎「何だってんだよ・・・、って嘘だろ・・・。」

王麗「父ちゃん、これどこからどう見ても。」

龍太郎「ああ・・・、間違いなさそうだ。」


 2人の目線の先に転がっていたのは何と孤独死したと思われる義弘の遺体であった。


龍太郎「異世界に行っちまったっていう馬鹿げた噂も出ていたがやっぱり嘘だったな、もし本当だとしても証明できる奴がいない。現に目の前に転がっている義弘本人が証明しているんだからな。」

王麗「でも父ちゃん、遺体以外に見つけないといけない物があるだろう。一先ず遺体については署長に言っておくのが一番なんじゃないのかい?」

龍太郎「そうだな、俺達の正体を知る数少ない人間だからな。あいつに任せておけば大丈夫だろう、ついでに母ちゃんが気になっていることも調査させてみるか・・・。」


 龍太郎は携帯を取り出して署長の元へと電話した、ただ他の署員が出たので一先ず松龍の店主として電話をかけた事にした。


龍太郎「あ、もしもし。松龍の松戸ですが、署長さんはおられますか?今日の弁当の事聞いていませんでしたので。」


 勿論嘘だ、龍太郎と署長の間では「弁当」とは「緊急連絡」を意味する暗号だった。署長は1度も松龍で弁当など買った事はない。しかし、それがまずかったらしい。


署員(電話)「署長ですか?今日は天丼を食べていましたけど。」


 「あいつめ・・・。」と思いつつ龍太郎は何とか誤魔化すことにした。


龍太郎「そうですか、昨日ご予約の電話を頂いていたんですがね。」

署員(電話)「あらま、本人忘れっぽいですからね。あ、丁度昼休憩から帰ってきましたので替わりますね。」


 少しの間保留音が鳴り響いた後に署長に替わった。


署長(電話)「申し訳ございません、お待たせいたしました!!」

龍太郎「馬鹿野郎!!正体がばれたらどう責任を取るつもりだ、周りに誰かがいる時はいつも龍さんと呼んで普通に接してくれって言っているだろうが。」

署長(電話)「そうだったね、悪かったよ、龍さん。」

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