6. あの日の僕ら2 ⑪~⑮


-⑪ 贖罪として-


 真帆は守をギュッと抱きしめ泣き続けた、数年もの間大好きな人に会えなかったから当然の事だ。


真帆「昔の事なんてどうでもいい、約束なんてどうでもいい、だって真帆の目の前に会いたかった守兄ちゃんがいるんだもん。大好きだよ、守兄ちゃん。」


 大抵の男なら思わず嬉しくなる一言だが、未だに好美への想いが心の中に残る守は返事に困っていた。守にとって真帆はただの幼馴染で、決して思いを寄せる恋人ではない。


守「ごめん・・・。」


 守は真帆を引き離した、その行動により真帆は心に大きな傷を負った。


真帆「どうして・・・?」

守「俺には亡くなった好美っていう恋人がいる、俺は好美が最初で最後の恋人だって思ってた。今の俺は新たな恋に踏み出せそうもない、ごめん・・・。」


 失意の念に駆られた守はソファに座り込んだ、真帆の気持ちを裏切ってしまった罪は決して軽くはない。すれ違いとは言え、守はあの時ちゃんと西野町高校に通う事を伝える事が出来なかった事を反省した。


真帆「さっきも言ったじゃん、昔の事なんてどうでもいい!!ずっと・・・、ずっと・・・、会えると信じて、気付いて貰えると信じてこの髪型にしていたんだよ。」


 確かにそうだ、女の子が幼少の頃からずっと同じ髪型にしているなんてよっぽどの事だ。


真帆「今目の前に大好きな守兄ちゃんがいる、それだけでいい!!」

守「真帆ちゃん、俺には何が出来る?せめて、今までの償いをさせてくれ。」

真帆「なら・・・、なら・・・、守兄ちゃんを1日独り占めしたい!!」


 守は少し動揺した、空の向こうにいる好美に申し訳なく思ったからだ。しかし真帆を裏切り何年も何年も待たせてしまったのは真実だ、真帆の願いを叶えなければならない理由としては十分といったところか。

 守は圭の方に一瞬振り向いた、圭は少し悔しそうだったが渋々首を縦に振った。


圭「仕方ないね、真帆に譲るか。」


 ただ守は決して圭の物では無い、というよりは誰のものでも無い。強いて言うなら好美の物なのだろうか。


真帆「真帆嬉しい!!今までの事、全部忘れても良い位嬉しい!!」

守「でも・・・、俺には好美が・・・。」

圭「もう過去の恋よ、いつまで引きずってるつもり?」

守「俺にとって好美は何よりも大切な存在なんだ、好美のいないこの世界に生きる価値なんてあるのかよ!!」


 圭は涙を流しながら守に強くビンタした、そろそろ目を覚ますべきかと思ったからか。


圭「守・・・、いい加減にして!!そうやって、ずっとウジウジする事を天国の好美さんが望むとでも思う訳?!」


 圭の言葉が守の心に突き刺さったか、先日読んだ好美からの手紙を思い出した。


好美(手紙)「実は守が他の女の人とキスしていたのを見ちゃった時、本当に悔しかったけどよく考えれば私達の関係はそれ位で崩れない物だったもんね。」


 好美への想いを大切にしつつも、手紙という形で好美が背中を押してくれているならと思った守は真帆のお願いを聞き入れる事にした。


守「分かったよ、明日も休みだから真帆ちゃんと過ごす事にするよ。」


 守の言葉に嬉しくなった真帆はもう一度守を抱きしめて涙した。


真帆「嬉しい、この瞬間をどれだけ待ちわびたか・・・。でもそんなのどうでも良い!!」


 次の日、待ち合わせ場所である駅前のロータリーに守は早めに到着した。少し時間があるのでぶらつこうかと思ったのだが、一歩踏み出そうとした時に後ろから真帆の声がした。


真帆「守兄ちゃーん、何処行こうとしてんの?」


-⑫ 試着-


 2人は待ち合わせ場所からゆっくりと歩きだした、別に恋人同士と言う訳でも無いので歩幅を合わせたり手をつないだりと言う心遣いは全く持って無い。

 朝早い時間帯が故か、そこら辺中通勤中のサラリーマンやOL、そして通学中の学生達が右往左往していた。

 そんな中、互いに休みだった2人は一先ず緑色の看板で有名な全国チェーンのカフェに入った。珈琲の良い香りがそこら中に広がる中、2人は珈琲やサンドイッチ、そしてクロワッサンを頼んで屋外のテラス席へと向かった。


真帆「今日、何しよっか?」


 突然決まった事なので別に予定が決まっている訳では無い、しかし実際に行動しながらこの後の予定を一緒に決めるのも楽しみの1つと言っても良いのではないだろうか。

 しかし、今でも好美以外の女の子と出かけるイメージが無かったから守は全くもって案が浮かばなかった。


守「真帆ちゃんに任せるよ、何がしたいとかある?」

真帆「真帆、守兄ちゃんと服見に行きたい。」

守「う・・・、うん・・・。」


 守は少し抵抗した、初めて好美と出かけた時も衣服を買いに行った事を覚えているからだ。でも背中を押してくれた好美の気持ちには少しでも応えたいという思いがあった。

 守は念の為に財布と相談し始めた、一応財布の中には十分な資金が入っていた。しかし、あの時みたいに奮発する必要があったのだろうか。


守「まぁ・・・、良いか・・・。」


 守はこう呟きながら財布をポケットにしまった。


真帆「何が良いの?」


 どうやら守の独り言は真帆に聞こえていたらしい。


守「何でも無い、行こうか。」

真帆「うん・・・。」


 真帆は少し寂しそうな顔をしながら店へと向かった。

 店へと入ると、真帆は数点ほど手に取って姿見を見ながら合わせていった。守は今度こそ失敗するまいと必死について行った、前回は別の場所で服を見ていたので好美に怒られた事を覚えていたからだ。


真帆「守兄ちゃん、真帆試着したい。」

守「勿論良いよ、しておいで。」


 真帆は手に取った数着ほどを持って試着室へと入り、数分程ゴソゴソと動いた後に守に声を掛けた。


真帆「守兄ちゃん、目の前にいる?」

守「うん、いるよ。」

真帆「新しい服を着た真帆の姿見てくれる?」

守「勿論、見るよ。」

真帆「守兄ちゃん・・・。」


 真帆は試着室のカーテンを開きながら意味深げに聞いた。


真帆「ずっと真帆と一緒にいてくれる?」


 真帆の目には涙が浮かんでいた、これは心からの告白だった。


真帆「守兄ちゃん・・・、大好きだよ・・・。もう真帆から離れないで。」


 守は数秒程考え込んだ、やはり心の片隅に好美がいる守は少し抵抗を覚えていた。やはり新しい恋には踏み出せそうにない。


守「真帆ちゃん・・・、俺・・・。」

真帆「やめて!!これ以上は聞きたくない!!お圭にも言われたんでしょ、もう過去の恋愛じゃん、いつまで引きずるつもり?!」

守「うん・・・。」

真帆「お願い、少しずつでも良いから真帆の事好きになってよ。一番でなくても良いから。」

守「悪い・・・。」


-⑬ 何も失いたくない-


 少し気まずく、暗くなってしまった雰囲気を何とかしようと2人は店を出て屋外へと出た。外の空気を吸いながら散歩でもしようという事なのだろうか、店を出ると2つ先の交差点の向こうから何となく良い匂いがして来る。空腹により匂いに気づいた真帆は守の腕を引いて近辺にあるのぼりを指差した。


真帆「守兄ちゃん、お腹空いた。向こうの公園にキッチンカーが来ているんだって、行ってみない?ほら、お酒の屋台もあるみたいだよ。真帆、ケバブでビール呑みたい。」


 偶然にも2人は歩きで来ているのでビール片手にケバブ等の料理を楽しもうという事になった、汗が滲む程の今現在の暑さでは一番欲しくてたまらない組み合わせだ。

 ただ2人には1つ気になる事があった、先程からパトカーのサイレンが鳴り続けていたのだ。


真帆「何だろ、うるさいね。」


 真帆の言葉を聞いた買い物帰りの女性が声を掛けた、見た目50代位の感じだ。


女性「あれね、信号無視を続けてる暴走車がまだ止まって無いんだって。」

真帆「何それ、怖いですね・・・。」

女性「まぁ心配しなくても良いんじゃない、この歩道歩いていれば大丈夫よ。」


 そんな中、遠くのパトカーからスピーカーの警官の声が響いていた。ただ何処からか頼りなさを感じる台詞なのだが。


警官①「そこの車、止まりなさーい・・・。えっと・・・、止まらないと・・・、お前のアイス食べちゃうぞ・・・!!」


 勿論そんな言葉で暴走車が止まる訳が無い、ただスピーカーからは別の警官の声もした。どうやら、先輩警官らしいのだがこっちも何となく頼りない。


警官②「馬鹿かお前は、アイスは駄目だろう。ほら、止まらないとお前の・・・、ラムネ飲んじゃうぞ!!」

警官①「先輩もじゃないですか、ラムネって何なんですか。」

警官②「暑い時はラムネだろ、俺はそうだぜ。」


 警官達の頼りないやり取りを響かせている中、街中の警察署では美恵と文香が調べものをしていた。特に美恵は気になる事が数点あるらしく、長年のパートナーである文香の力を借りる事にした。


美恵「文香、ちょっと良い?」

文香「何、どうした?」

美恵「好美が働いていた工場の我原 悟って何処に住んでいるか分かる?住民票が見つからないのよ。」

文香「この前偶々聡さんのカフェに行ったんだけど、一緒には住んでいないみたいよ。それで私聞いてみたんだけど、今の居場所は分かって無いんだって。それもそうとさ、この盗難の被害届が出てるこの写真のやつなんだけどどっかで見た事あるのよね。」

美恵「私も最近見たような、本当にごく最近。」

文香「そう言えばさ、少し引っ掛かる事があるんだけど。例の工場ってずっと前運搬用のトラックが一気に消えたって事件があったじゃない、あの事件の時期って何かと被る様な気がしてならないのよ、美恵さんは分かる?」

美恵「そうね・・・、ちょっと待って。」


 美恵は分厚いクリアファイルを取り出して数ページ捲って文香に見せた。


美恵「ほら、この時期じゃない?ピッタリだもん・・・。」

文香「怪しいわね・・・、調べがいがあるわ・・・。」


 そんな中、2人の近くの警察無線から応援要請が出た。

 美恵と文香が覆面パトカーで要請に応えて警察署を出た頃、守と真帆はキッチンカーが止まっている公園まであと交差点1つという所まで来ていた。どうやら腹を空かせる為、時間をかけてゆっくりと歩いていた様だ。目の前の歩行者用信号は「青」。


真帆「信号「青」だよ、早く行こう。」


 右からの爆音に気付いた守はこの光景に既視感を感じた、しかし直接自分に関する物ではなかった。ただ考える間もなく守は真帆の腕を掴んで歩道へと導いた、その後数秒もしない間に例の暴走車が信号を無視して通り過ぎて行った、腕の中で真帆は泣いていた。


真帆「守兄ちゃん、ありがとう・・・。真帆、守兄ちゃんとまたお別れするかと思った。」


-⑭ 暴走行為の裏には-


 2重の恐怖から真帆はずっと泣き崩れていた、もうキッチンカーでビールどころではない。そこにこの地域にずっと住んでいるが故に2人と仲良くなっている美恵と文香が駆け寄って来た、一体どれほど足が速いのだろうか。それとも警察署の近くでずっと暴走行為が行われているのだろうか、もし後者だったのならこの辺りの警察はかなり舐められていると言えるのではないだろうか。


文香「真帆ちゃんじゃない、怪我はない?守君も大丈夫?」


 歩道に倒れ込む2人に手を差し伸べてゆっくりとだが起こそうとする文香、ただ2人は真帆をかばった守が少し擦りむいた以外はほぼ無事だったので自力で起き上がった。


美恵「守君、あんたやるじゃない。もしかして真帆ちゃんは新しい彼女だったりして?」


 好美を亡くしたというがあるが故に少しいやらし気な口調で質問する美恵、守は傍らの刑事の質問を払いのける様に答えた。


守「ち・・・、ちげぇよ・・・。ただの幼馴染だっての。」

真帆「えっ・・・、真帆はまだ「ただの・・・、幼馴染」なの?」


 未だに1人の女として見られていない事を知った真帆はまた再び目が潤んだ、正直今日何回目だろうか。本当、守は罪作りな男だ。


守「そうだ、そう言えば暴走してたの「わ」ナンバーのレンタカーだったよ。」

美恵「えっ、守君ナンバー見えたの?」


 走り屋である真希子から車での被害に遭った時は真っ先に相手のナンバーを確認する様にと学生時代から教え込まれていた事が役に立った様だ、守は必死に思い出した。


守「確か5ナンバー車で「25-12」だった様な・・・。」

美恵「「25-12」?!文香、あの写真!!・・・って何であんたも一緒に泣いてんのよ。」

文香「ごめん・・・、あれだよね・・・、ちょっと待って。」


 美恵の食らいつき様が異様な位だったが故にたじろいでいた守をよそに、目の前の刑事は何故か真帆の横で泣く相棒の方を振り向いて声を掛けた。

 長年の相棒である先輩に頼まれた文香は震えながら胸ポケットから1枚の書類と写真を取り出して確認した、2人の様子を見るにどうやら確証が持てたらしい。


美恵「やっぱりね・・・、ビンゴだよ。」

文香「美恵さん、やったね・・・。」

美恵「守君、あんたお手柄だよ。後でちょっとだけお話聞かせてね。後文香、涙拭きな。」

守「ああ・・・。」


 真帆が無事で何よりと思う守の傍らで未だ泣き続ける真帆、先程衣料店で発した告白とも言える言葉はかなり本気だった様だ。真帆の言葉から本気度が文香にも伝わったらしい。


美恵「真帆ちゃんずっと泣いてるけど大丈夫な訳?まさか・・・、あんたが泣かせたの?」


 守は美恵の質問に少し圧力を感じた、真帆の中で本当の答えは「イエス」の様だが守をかばってこう答えた。


真帆「守兄ちゃんは悪くないもん、悪いのはあの車だもん!!」

文香「そうよね、あれは誰だって怖いよね。何言ってんのよ、美恵さん。」

真帆「こうなりゃヤケ、守兄ちゃん屋台行くよ!!」


 美恵による事情聴取を終えた守の腕を強く引くと、真帆は息を荒げながらキッチンカーや屋台が集まる公園へと向かって行った。

 ほぼ同刻、やっと暴走車の犯人が捕まった。ずっと走り続けていた車は桃の叔母である芳江が副業として営むレンタカー屋から被害届が出ていた盗難車らしい、男性巡査に腕を掴まれ動きを封じられた犯人の下に女性刑事2人が到着した。


美恵「大人しくしなさい、人に迷惑掛けてただじゃおかないよ。」

文香「そうよ、あんた女の子に怪我をさせようとしたんだからね。速攻でブタ箱にぶちこんでやる、覚悟なさい!!」

犯人「待てよ、俺は金で雇われてやっただけなんだよ!!」

美恵「待てと言われて待つ馬鹿が何処にいんの・・・、って・・・、え?金で雇われてやっただって?誰に?」


 犯人が耳打ちで雇い主の名前を伝えると美恵は大きく目を開けて驚いた、何故今頃になって「あの名前」が出て来たのだろうか・・・。


-⑮ 既視感と涙の正体-


 数分前の事、息を荒げて守の腕を強く引く真帆の様子を見て辺りを見廻した美恵は、近くののぼりや仄かに匂ってくる料理の香りからキッチンカーがすぐそこの公園に多数止まっている事を知り、懐の財布から2000円を取り出して2人を呼び止めた。


美恵「ちょっと待って、これ持って行きな。守君には重要情報をくれたお礼、それと真帆ちゃんには怖い想いしたと思うから少ないけどヤケ酒代。」

真帆「ありがとう美恵おば・・・、お姉さん、でも良いの?」

美恵「良いのよ、個人的にお小遣いあげたくなったから何も言わずに持って行って頂戴。」

守「ど・・・、どうも。」


 守からすれば大したことをしたつもりは無かったので素直に受け取りづらかったが、すぐにそんな事など気にならなくなってしまった。

 目的の公園に入ると先程から微かに匂って来た香りが一層強くなった、多数ののぼりと共に沢山のキッチンカーが並んでいて真帆が目を輝かせていた。


真帆「守兄ちゃん、早く早く!!」

守「う・・・、うん・・・。」


 興奮により真帆の力が一層強くなったので守は一瞬躓きかけたが何とか追いついた、並んだキッチンカーの近くに到着すると真帆は早速吟味を始めた。


真帆「何にしようかな、何から行こうかな・・・。」


 真帆の「何から」という言葉に少し嫌な予感がした守は一先ずビールを買いに行く事にした、それを見かけた真帆は自分の分もと頼んでまた吟味をし始めた。

 公園内にはテーブルが多数並んでいて、多くの客が飲食を楽しんでいた。守はすぐ近くに空いているテーブルを見つけるとそこに真帆のビールを置いてゆっくりと呑み始めた。

 それから数分後の事だ、守の目には驚愕の光景が・・・。


守「げっ・・・、マジか・・・。」


 真帆が大量の料理を乗せた皿を運んで来た、ほぼほぼホテルのビュッフェ感覚と言った所か、正直言っていくらかかったか想像したくはない位だ。しかし、驚くのはまだ早かった。真帆が皿を置いた瞬間に放った言葉に守は開いた口が塞がらなくなってしまったのだ。


真帆「これで・・・、足りるかな?」


 周りの全員から「十分だろ」と言わんばかりの視線を感じた守は一先ず真帆を座らせる事にした。


守「冷めちゃったら勿体ないから食べようよ、それにビールもぬるくなっちゃうだろ。」

真帆「そうだね、ごめんごめん。」


 真帆は守と乾杯すると購入した料理を肴にビールを楽しみ屈託の無い笑顔を見せた、そんな真帆の顔を見ながら守は「さっきの既視感は何だったんだろう」とふと思った。守がふと感じた「既視感」には何故か涙が滲んでいる気がした、ただ守は目の前で恋人が事故に遭うという経験をしていないので不思議で仕方なかった。

 1人何処か悲しそうで浮かない表情をしている守に真帆が声を掛けた。


真帆「どうしたの?守兄ちゃん。」

守「ん?いや・・・、考え事をしてただけ。」


 その時、とある2人が手を繋いで笑っている場面が脳裏に映し出された。


守「そうか・・・、秀斗と美麗(メイリー)だ・・・。」

真帆「美麗(メイリー)って松龍の美麗(みれい)お姉ちゃんの事?」


 真帆も守と同様に幼少の頃から学生時代にかけてずっと松龍に通っていたので、圭と同様に美麗とも仲良くしていた。

 今思い出すと美麗は目の前で事故に遭った秀斗の葬儀に来なかったのだが、ずっと部屋で塞ぎ込んで1人泣いていた事を後から好美から聞いていたのだ。

 そう、あの「既視感」や滲んでいた涙は全て美麗の物だったのだ。真帆は美麗の涙により救われたと言っても過言ではなさそうだ。

 一方その頃、男性巡査に犯人を任せて美恵と文香は覆面パトカーで署に戻っていたのだがパトカーの中で美恵はずっと顔を蒼ざめさせて震えていた。


文香「美恵さん、大丈夫?さっき犯人に何て言われたの?」

美恵「名前よ・・・、奴の名前よ・・・。まさか奴がこの事件に関わっているなんて。」

文香「奴って、まさか・・・。」

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