6. あの日の僕ら2 ⑥~⑩


-⑥ あの時の言葉-


 二手に分かれた4人はそれぞれ反対の方向へと向かって行った、光明の作った隠しカメラを悟に知られない為の作戦を完璧に遂行するべく、この行動は必須とも言えた。

 親会社「貝塚財閥」の副社長である光明からすれば「貝塚技巧」の工場内の全貌は頭に入っていたので今更見学は必要無かったのだが、少しでも友に協力する為に守と悟が完全に見えなくなるまで演技を続けていった。


悟「こちらから作業場に入って行きます。」


 悟自ら作業場への引き戸を開けて守を中に案内した、全体的に吹き抜けになっている工場では数人の男女が作業をしていた。

 因みに聡の協力の上、光明が守の衣服に仕掛けた小型のマイクを通して2人の会話や周囲の音声が光明と聡に聞こえる様になっていた。これは居場所が被らない様にする為の行動で、怪しまれない様に守には決してマイクを通して声を掛けない様に伝えてあった。

 下から細い通路だけに見え、全体的にむき出しになっていた2階部分には流石の悟も反省したのか、防災用のネットが張られていた。


守「ここで好美が・・・、こいつが好美を・・・。」


 そう思った守は一瞬拳を強く握ったが、学生時代のあるエピソードと龍太郎の言葉が守を引き止めた。

当時、悪学生として有名だった成樹に殴られた守がその後龍太郎から受け取ったビールを煽ると、中華居酒屋の店主は煙草に火をつけて燻らせ始めた。座敷で楽しそうに呑んでいた好美達と違って俯く守の表情は決して明るい物では無かった、龍太郎は煙草の煙を深く吸い込み一気に吐き出した。


龍太郎(回想)「守、1つ聞かせてくれるか?」

守(回想)「うん・・・。」


 俯きながら守は小さく頷いた。


龍太郎(回想)「お前、本当は悔しかったんじゃないのか?成樹を殴る事で好美ちゃんを守ろうとしたけど出来なかったから悔しかったんじゃないのか?」

守(回想)「くっ・・・。」


 声を必死に殺す守に龍太郎は続けた。


龍太郎(回想)「でもな、俺はお前の事を誇りに思っているんだ。どうしてか分かるか?」

守(回想)「いや・・・。」


 守が俯いたまま首を小さく横に振った時、龍太郎の放った言葉が重くのしかかった。


龍太郎(回想)「あのな、お前からすればうちの母ちゃんが止めたからだとは思うが「殴らなかった」からだ。行動するには勇気がいるが、やめるにはもっと勇気がいる。ただお前があの時成樹を殴っていたら今頃警察の世話になっているのは守、お前だ。その様子を見た好美ちゃんがあの様な屈託のない笑顔を見せ続けてくれると思うか?お前は殴る事で大切な物を守ろうとしたつもりだったと思うが、自分から大切な物を失おうとしたんだぞ。」


 龍太郎の言葉に目を大きく開いた守、恋人としての「大切な宝物」を失いかけていた。

恋人であった守にしかできない、大切な役割・・・。その時、座敷からあの明るい声が。


好美(回想)「守、何でそんな所でしょぼくれた顔してんの?こっちで呑もうよ。」


 あの時の好美の屈託のない純粋で太陽の様な笑顔、そして龍太郎のくれた言葉。それを思い出した守はゆっくりと拳を開いて手を降ろした。

 いつか目の前の男に復讐する、ただ今はとにかく我慢だ、心にそう誓って・・・。

 光明から全てのカメラを仕掛けたという連絡を受けた守は作戦を察知される事の無いように順当に見学を終えた、そして工場から少し離れた所で説明を受けた。


光明「今回仕掛けたカメラは副所長室に隠したHDD、お前が働いていた喫茶店のモニター、そして貝塚財閥の社長室へと繋がっているんだ。結愛が工場長の様子を確認したいと言っていたからな、これで逃げ道は無くなったと思うぜ。」

守「分かった、俺も偶に見に行くよ。後は頼めるか、工場長の顔を思い出すと腹が立って来てな。」

光明「おう、そうなっても当然だよな。任せておけ、動きが見え次第連絡するからな。」


 悟への復讐を誓った守が家に帰ると、玄関前には圭の姿があった。


圭「本当にごめんね、全部私の所為だよね。」

守「圭は全然悪くない、気にしないでくれ。ただずっと、俺の味方でいてくれるよな?」


-⑦ 懐かしい仲間-


 守の言葉を聞いた圭は、学生の頃の自らの気持ちに正直になったが故の行動を反省したのか少し抵抗しながらも守の肩にそっと手を置いた。

 圭の手の温かさが無くなった恋人のものに似ていたのか、守の目にはずっと我慢していた熱いものが浮かんでいた。


守「くっ・・・。」

圭「だ・・・、大丈夫?」


 足の力が一気に抜けた守は地べたに座り込んでしまった、小刻みに体が震えている。心の片隅にずっとしまい込んでいた好美への「大好き」と言う気持ちがまた再び溢れ出し始めたのだ。


守「悪い・・・、まともに歩けそうにないから少し肩を貸してくれるか?」

圭「勿論良いよ、私で良かったら何でも協力するから。」


 声を殺しながら涙を流していた守は圭の力を借りて静かに家へと入って行った、廊下をとぼとぼと歩いて奥のリビングに入ってすぐの場所にあるソファに腰を下ろした。

 1人では何も出来そうになかった守は隣にいる圭の存在が本当に嬉しかったのか、思わず圭を強く抱きしめて涙ながらに訴えた。


守「圭・・・、俺どうすりゃいいんだよ!!全然分かんねえ・・・、俺は好美の為に何が出来るんだよ!!」

圭「あの工場長に復讐するって誓ったんでしょ、それに守は1人じゃない。結愛や光明が味方になってくれているんでしょ、安心して。それに私もいるから。」


 守は話が全く見えなかった、どうして喫茶店での事を圭が知っているのだろうか。


守「お前・・・、あの場所にいなかっただろ?どうして?」

圭「真帆が言ってたのよ、森田真帆。ほら、昔そこの空き地で私の2歳下の親戚と遊んだ事あったでしょ。」


 ずっと前の小学生時代の夏休みの事だ、当時まだあどけなかった守が朝から正や光明達と近くの空き地で鬼ごっこや缶蹴りをして遊んでいた時に圭が一回り小さいショートボブの女の子の手を引いてやって来た事があった。


圭(当時)「入ーれーて。」


 守達は缶蹴りの缶を元の位置に戻して圭の元へと向かった。


守(当時)「良いよ、でもその子誰?」

正(当時)「初めて見る子だね。」

圭(当時)「隣町に住んでいる真帆ちゃん、私の親戚なの。この子も一緒に遊んでいい?」


 勿論と言わんばかりに守達は真帆を歓迎した、どんな遊びでも大人数でやった方が楽しいからだ。決して仲間外れにする事はなかった。


真希子(当時)「もうお家の人が心配するから皆帰りなさいね。」


守達は夕方に真希子が声を掛けるまでずっと遊んでいた、お陰で夏休みの宿題がなかなか進んでいなかったが全然気にしていなかったという。


守「あの時の真帆ちゃんか・・・、でも久しく会って無いけど・・・。」

圭「何言ってんの、喫茶店で働いてたでしょ。守の事放っとけなくてプリンあげたって言ってたよ。」


 圭の言葉を聞いた守はじわじわと思い出した、聡のいる喫茶店で働いていた初めて会ったはずの女の子の髪型がどこか懐かしいショートボブで名札に書かれた苗字が「森田」だったのだ。

 圭が懐から携帯を取り出して何処かにメッセージを送った数秒後、勢いよく玄関が開いて誰かがリビングへと向かってくる音がした。音の正体は勿論、噂の真帆だった。


真帆「守兄ちゃん!!真帆の事思い出してくれた?!」

守「ああ・・・、思い出したよ。プリンありが・・・。」


 守がお礼を言おうとした瞬間、真帆が勢いよく抱き着いて泣いた。まるで秀斗との再会を果たした時の美麗みたいだ。


真帆「会いたかったよ・・・、守兄ちゃん・・・。一緒の高校行く約束したのに忘れちゃったの?真帆、高校でずっとお兄ちゃんを探したんだよ、どうしていなかったの?」


-⑧ 懐かしい顔に-


 突然だが話は守達が中学生だった頃に遡る、当時地元の中学校に通う守達が3年で高校受験を控える中、同じ中学校に真帆が入学して来た。その頃も、そして今も変わらず幼少の頃のショートボブを貫いていた。

 幼少の頃から見慣れていたショートボブを見かけた守と真帆はほぼほぼ同時に互いの存在を認識したのだという、実は真帆が密かに守に対して想いを寄せていたが故に、守に自分だとすぐに気づいて貰える様にする為ずっと同じ髪型をしてきたそうだ。

 桜の花が舞い散る中学校の体育館で、丁度真帆達1年生の入学式が終わった時だった。式を終えて友人と共に教室に戻ろうとする守に、大声で真帆が話しかけた。


真帆(当時)「守兄ちゃん!!」

守(当時)「ん?」


 聞き覚えのある言葉をかけては来たがすっかり成長した真帆の声に守は一瞬違和感を感じていた、しかし制服を着た見覚えのあるショートボブの女の子が守に向かって手を振りながら近づいて来る所を見て幼少の頃よく遊んだ真帆だと分かったらしい。


真帆(当時)「ここの中学校に通ってたんだね。」

守(当時)「もしかしてあの真帆ちゃんか?!」

真帆(当時)「そうだよ、いつも遊んでた真帆だよ!!一緒に缶蹴りした真帆だよ!!ねぇ、今日一緒に帰らない?」

守(当時)「俺は良いけど、真帆ちゃん家は逆方向だろ。」

真帆(当時)「ちょっと寄りたいところがあるの。」


 守を見つけてキラキラと目を輝かせている真帆の表情は本当に嬉しそうだった、少し不安に思っていたこれからの中学生活が守の存在を知ったお陰で見違える様だった。

 ただ、守は別の方向から鋭い視線を感じていた。そう、笑顔の可愛い女の子と話す守を見た友人達が嫉妬していたのだ。


友人①「おい守、あの子もしかしてお前の彼女か?」

守(当時)「そんな訳ねぇだろ、俺モテた事ねぇもん。」

友人②「そう言う割には見せつけてくれるじゃねぇか。」

守(当時)「馬鹿言ってんじゃねぇよ、教室戻るぞ。」

友人①「顔赤くしやがって、こいつめ。」

友人②「やっぱり顔が良い奴は違うね。」

守(当時)「アホか!!」


 守達が教室に戻ってから暫くして、担任が教室に入りホームルームが始まった。


担任「今から進路希望調査の用紙を配ります、希望する高校名を記入して下さい。まだ決まっていない場合は上の方にチェックを入れて空欄にしておいて下さい。」


 守は迷いなく地元の県立高校の名前を書いた、念の為3校希望を出した。ただその中に「西野町高校(後の貝塚学園)」の名前は無かった。

 担任の下に用紙が回収されるとホームルームが終わり放課時間となった、守は真帆との待ち合わせ場所である校門へと向かった。


友人②「おー、例の彼女と待ち合わせか?」

守(当時)「だからちげぇっての!!」


 2人の会話を割く様に遠くから真帆の声がした、振り向いてみると体育館の時の様に真帆が息を切らしながら守の方へと走って来ていた。


真帆(当時)「守兄ちゃーん!!」

友人①「「守兄ちゃん」って、妹か?」

守(当時)「連れの親戚だよ、ガキん時によく遊んでた時から「守兄ちゃん」って呼ばれてたんだよ。」

真帆(当時)「もしかして、私の話してたの?」

守(当時)「うん、昔遊んでた事をな。」


 守と真帆はその後近所にある駄菓子屋へと向かった、そこはお好み焼き屋も兼ねており、中では数人が飲み食いを楽しんでいた。2人はラムネと駄菓子を数点買うと外にある青いベンチに座って食べ始めた、爽やかなラムネの味が疲れを吹き飛ばしてくれた。

 そんな中、真帆が切り出した。


真帆(当時)「ねえ、守兄ちゃんは今年受験だよね。」

守(当時)「う・・・、うん・・・。」

真帆(当時)「何処の高校に行くか決めているの?」

守(当時)「一応・・・、地元の高校希望だけど。」

真帆(当時)「じゃあ真帆もそこに行くから一緒に通学しよ、約束だよ!!」


-⑨ 離れた理由-


 ラムネと駄菓子を存分に楽しんだ高校生たちは、各々の家路についた。1つ先の通りにある交差点で二手に分かれて帰って行った。

 まだ昼の2時だったのでゆっくりと景色を楽しみながら守は家までの道を歩いた、無意識に笑顔がこぼれて自然に鼻歌や口笛が出ていた。

 守が家に到着し、玄関の鍵を開けて引き戸を開けると奥からテレビの音が漏れていた。


守(当時)「あれ?母ちゃん、今日休みなのかな・・・。」


 普段、母の真希子はパートの仕事に出ているはずの時間帯なので音がはずは無かったのだが今日は違うみたいだ。

 廊下を歩くと、リビングの入り口から真希子がテレビを見ているのが見えたので守は一先ず一言声を掛けた。


守(当時)「母ちゃん、ただいま。」

真希子(当時)「ああ、守。お帰り、あれ?あんた今日お昼までじゃ無かったのかい?思ったより遅かったじゃないか。」

守(当時)「ああ、ごめん。久々に真帆ちゃんに会ってね、一緒に駄菓子屋に行ってたんだ。」

真希子(当時)「真帆ちゃんって、あの圭ちゃんの親戚の子かい?子供の時からずっと髪型が変わらない子だね。」

守(当時)「母ちゃん覚えてたのか、すごいな。」

真希子(当時)「あんた、まさかあんな可愛い女の子の事を忘れてたとか言わないよね。」


 何故か言葉に圧がある真希子、守は少したじろぎながら答えた。


守(当時)「ちゃ・・・、ちゃんと覚えてたさ。」

真希子(当時)「本当かい?まぁ、いいか。それにしても寄り道して駄菓子屋だなんて、今の学校は随分寛大なんだねぇ、まっすぐ帰れって言われなかったのかい?」


 何故かやたらと詮索してくる母、守はこれはただ事じゃないと察知してリビングに入りソファに座った。


守(当時)「全然、それに母ちゃんも昔寄り道とかしたろ?」

真希子(当時)「そりゃあね、母ちゃんも昔はよく渚と寄り道して商店街にある肉屋のコロッケを買ったもんさ。それはそうとあんた、ちょっと話があるんだ。取り敢えず着替えてからまたここに来てもらえるかい?」

守(当時)「嗚呼・・・。」


 守はそら来たと思いながら自室に戻り、制服から部屋着に着替えた。話が終わり次第やろうと思っているので、鞄から数学の問題集を取り出しておいた。

 守がリビングに戻ると真希子は先程と同じ体制で座っていた、息子に緊張感を持たせない為なのだろうか。


守(当時)「母ちゃん、来たけど何?」

真希子(当時)「ああ、待ってたよ。急なんだけどさ、1つ聞いても良いかい?」

守(当時)「うん、何?」

真希子(当時)「あんた・・・、受験面倒くさくないかい?」

守(当時)「そりゃあ、確かに否定はしないけど。」


 一母親の台詞とは思えないが、受験生の守からすればとても嬉しい一言だった。


守(当時)「でも母ちゃん、何でそんな事聞くの?」

真希子(当時)「あのね、あんた「西野町高校」って知っているかい?」

守(当時)「確か私立の大きな学校だよね。」

真希子(当時)「あそこで良かったら入試免除になるよ、どうだい?」


 いきなり意味不明な事を言い出す母、夢を見ているのかと疑った守は頬を抓った。


真希子(当時)「ははは・・・、夢だとでも思ったのかい?あのね、母ちゃんあそこの理事長とちょっとした知り合いでね、守の事を話したら入学金に授業料、それに入試まで免除してくれるって言ってんだよ。どうだい、行かないかい?」

守(当時)「うん、行く。」


 実は真希子が理事長の経営する会社の筆頭株主なので入学金や授業料が免除になったのだった。何よりも家計の助けになる、守は真希子がただのパートで投資家だという事を知らなかったから当然の答えだった。そして入試免除と言うのが嬉しい、しかし真帆にどう説明したら良いのだろうか。その答えが分からないまま月日が流れ、卒業の日を迎えた。


真帆(当時)「次会うのは高校でだね、守兄ちゃんはど・・・。」

友人「真帆ー、すぐにこっちに来てー。」


-⑩ 真実を知る-


 卒業式の後、友人に呼び出された真帆は守の制服から第2ボタンを引きちぎり大事に持ちながら友人の元へと向かった。本当は守が行く予定の高校を聞いた後、告白するつもりだったのだがどうやら次の機会になりそうだった。

 守も地元の公立ではなく私立の「西野町高校」に通う事をこの日に伝えるつもりだった、なので校門前か先日の駄菓子屋でずっと待つつもりだった

 そんな中、校庭中に爆音が響き渡った。そこにいた全員が音の方向を見ると紫色のスポーツカーが土煙を上げて走っていた。

 皆と同様に爆音に驚いた真帆は汗をかきながら音の方向を見た。


真帆(当時)「何あれ・・・。」

友人(真帆)「あれ、「紫武者(パープルナイト)」じゃない。ほら、「赤鬼」と一緒でここら辺で有名な走り屋。」

真帆(当時)「あれがそうなの?初めて見た。」


 そう、真帆は「紫武者」を見た事が無かったのだ。幼少の頃、真希子が愛車にカバーを被せていたのがその理由だった。

皆が紫のスポーツカーに憧れの視線を向ける中でただ1人、守は嫌な予感がしていた。


守(当時)「ま・・・、まさかな・・・。」


 そのまさかだった、母の真希子が愛車で卒業式に来ていたのだ、しかもド派手な着物で。真希子の車は校門前に立つ守の目の前に止まった。


真希子(当時)「守、早く乗って。そこら辺の奴らがじろじろ見るもんだから急いで帰るよ。」

守(当時)「母ちゃん・・・。これで来るからだろ、流石に目立つって思わなかったのか?」

真希子(当時)「仕方ないじゃないか、いつものバンが修理中なんだから。ほら早く乗って、またじろじろ見られているから。」

守(当時)「真帆ちゃんを待っているんだよ、まだ県立じゃなくて西野町高校に行く事を言ってなかったからさ。」

真希子(当時)「そんなの後で言えば良いだろ、それより買い物に行くから手伝っておくれ。」

守(当時)「おいおい・・・、まさかこれで行くのか?流石に1回帰ろうぜ、それに母ちゃん着物だろ?!」

真希子(当時)「今はこれ以外足が無いんだから、ほら行くよ。」

守(当時)「ったく・・・。」


 守は仕方なく車に乗り込んだ、これがきっかけで「紫武者」が守の母親だとバレてしまった様だ。

 守が車に乗ってから数分後、息を切らしながら真帆が戻って来た。しかし辺りを見廻しても守の姿は無い、その真帆に守の友人が声を掛けた。


友人(守)「もしかして守を探してるのか?」

真帆(当時)「はい・・・、守に・・・、いや守さんは何処にいますか?」

友人(守)「あいつなら「紫武者」に乗って帰って行ったぜ。」

真帆(当時)「何で守さんが「紫武者」に?」

友人(守)「俺も今知ったんだけどさ、あいつの母ちゃんが「紫武者」だったんだよ。」

真帆(当時)「え?!真希子おばちゃんが?!」


 衝撃の事実を知った真帆は一先ず落ち着きたいので例の駄菓子屋に行き、ラムネを飲んだ。きっと高校で会えるからそれまでショートボブを保っていれば良いかなと思いながら。

 数年後、真帆は必死に勉強して守と約束した地元の高校に入学した。


真帆(当時)「やっとだ・・・、やっと守兄ちゃんに会える。」


 そう信じながら数日に渡って校内を探し回った、しかし守の姿は無い。そこで、ある夜に親戚である圭に連絡を入れた。


真帆(当時)「もしもしお圭?今守兄ちゃんって何処にいるか分かる?」

圭(当時・電話)「守なら今私と貝塚学園にいるけど。」

真帆(当時)「え・・・?何で・・・?約束・・・、したのに・・・。」


 圭との電話で真実を知った真帆はその場で泣き崩れた、ずっと待ってたのに、我慢したのに、そして頑張ったのに会えないなんて酷すぎる真実だった。


真帆(当時)「真帆、もう我慢出来ない・・・。守兄ちゃんの声が聴きたい・・・。」


 しかし、その時には圭との電話は切れていた。それから真帆は一晩中号泣した、守への叶わなかった想いが一気にどっと押し寄せたのだ。そして今に至る、真帆はより強く守を抱きしめた。もう離さないと言わんばかりに、しかし守は心の中にまだ好美が強く残っていたので真帆の想いを受け止めきれずにいた。

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