第20話 後編 デート大作戦、その2

「鎌瀬君、優斗が来たよ」


「いよいよ……か」


 物思いにふけっている場合じゃないな。集中しよう。


「ごめん、サチちゃん。待った?」


「ううん。大丈夫だよ」


 ついにハーレム主人公である優斗が待ち合わせの場所に現れた。

 いよいよデートが始まる。


 ここが人通りの多い繁華街だという事は、俺たちが尾行してもバレにくいという訳だ。

 やれることは多いだろう。


「おお、サチちゃん。かわいい服だね!」


「ふふ、ありがと!」


 しばらくの間、じっとサチの服を見つめる優斗。

 ったく、優斗め。じろじろと見やがって。

 本当に何を考えているのか分からん奴だ。

 俺は牛乳を飲みながら、二人の様子をじっと観察していた。



「ねえ。『サチたん』って呼んでもいい?」



「ぶはっ!?」


 思わず牛乳を噴き出してしまった。

 あの変態紳士! なんてことを言いやがるんだ!


「あ、あはは。えっと…………うん、いいよ」


「やった! それじゃあ行こう! サチたん!」


 優斗の奴、サチをドン引きさせやがったぞ!?

 まさかあの変わり者のサチをドン引きさせられる奴がこの世にいたとは……。


 おめでとう、優斗。お前が最強だ。

 最強の変態紳士だ。


「まずは映画だったよね。鎌瀬君、どうする? 映画館の中まで入って見張った方がいいかな?」


「そうだな。念のためにそうするか」


 何が起きるか分からない。映画館の中までついていった方が安心だ。

 とりあえず、映画の当日券を買っておく。


 そのまま、二人は映画館へ入っていった。

 俺とアリスも後を追う。


「ふふ、楽しみだね。私、この映画、見たかったんだ」


「そ、そうだったのか」


 妙にテンションの高いアリス。

 どうやら彼女自身がこの映画を見たかったようだ。


 アリスは隣の席だ。

 周りの皆の視線が、美少女であるアリスへと向かっている。

 正直、ちょっと肩身が狭い。


「わっ。すごいよ! ねえねえ、鎌瀬君! 今のシーン、見た!?」


 バシバシと俺の肩を叩きながら、映画に釘付けになるアリス。

 映画館ではしゃぐなんて、完璧にマナー違反だが、周りはそんなアリスをほっこりとした表情で見ていた。


 印象は悪く映っていないらしい。これも主役補正の一種か。

 俺が同じようにはしゃぐと、確実につまみ出される。

 黙って優斗とサチを観察しよう。


 上映終了。結局映画が終わるまで、特に何も起きなかった。

 心配は杞憂だったか。


 映画館を出た二人は遊園地へ向かう。

 ここからが作戦の本番なのだが……。


「はあ~楽しかった。ねえ、映画、すごく面白かったね!」


 興奮冷めやらぬアリスは俺の肩を揺さぶって、感想を語る。

 アリスさん、目的を忘れていませんか?


「私は誰かと映画を見たことがなかったから、新鮮だよ!」


「は? 一回くらいは、ファンの奴らと見に行ったりしているだろ?」


「ううん。なんか、私のプライベートに入るのは、禁止にしているんだって。私のことを大事にしてくれているんだ。いい子達だよね」


「マジか……」


 その言葉を聞いた俺は周りを見渡した。

 とりあえず、知り合いは誰もいないようで一安心だ。


 ファンでさえ禁止にしているアリス様とのお出かけなんて誰かに見られたら刺されかねんぞ。

 ちなみに、俺も誰かと映画を見るなんて行為は初めてである。


「私さ、いつも町の見回りをしているから、こういうのは初めてだったんだ。楽しいね!」


 さらに興奮したアリスは、俺と腕を組んでくる。


 あれ? なにこれ。

 なんかダブルデートみたいになっていないか?


 道行く人々の視線を感じる。

 皆がアリスの美貌につい目を向けてしまうみたいだ。


 同時に隣にいる俺を見て「何であんな奴と?」みたいな目も向けられている気がする。


「ちょ、ちょっと隠れながら二人を追うか。目立つとまずい」


 あくまでこっそりとつけているのだ。

 いくら人通りが多いとはいえ、このままでは優斗に尾行に気付かれてしまう可能性もある。


 俺たちは目立たないように物陰に隠れて二人を追った。

 その様子を子供たちが見ている。


「ママー。なんかすごく綺麗なお姉さんと、すごく変なお兄さんが隠れているよ」


「しっ。見ちゃいけません!」


 ……せっかく隠れたのだが、どっちにしても目立つような気もする。

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