第21話 主役は負けヒロインが羨ましかった?

 遊園地に到着。デート大作戦もいよいよ佳境を迎える。

 サチと優斗は、このまま夕暮れまで遊ぶ予定だ。


 その後は公園に行って弁当を食べる。

 そして告白である!


「まずは、お化け屋敷か」


 お化け屋敷に入るサチと優斗。当然、俺たちも後をつける。

 中に入ると、お化けが襲ってくる。結構な迫力で、よくできたものある。


「おお、なんと麗しい美少女だ。尊い」


 しかし、お化け達はアリスを見た瞬間、なぜか一斉に彼女を拝みだす。

 お化けの皆様も主役の神々しさに魅入られてしまうらしい。

 いや、仕事しろよ。


「む? こいつはしょぼそうなやられ役だな。呪ってやる! キシャアアアアア!」


 対照的に俺に寄ってくるお化けさん達は、異常にやる気満々であった。

 どうやら、やられ役に対しては強気になれるらしい。

 嫌らしいお化けさん達だ。


「こら! 弱い奴を集中攻撃するのは、許さないぞ!」


 アリスの正義感に火が付いたのか、彼女は片手で庇うように俺の前に立つ。


「おお、美しい。申し訳ありません。二度と弱そうなやられ役は狙いません」


「……弱そうは余計だ」


 なんだこれ。お化け屋敷ってこんなのだっけ?

 主役とやられ役が共に行動したら、こんな珍現象が起きるって事か。


 そのままサチたちはお化け屋敷を出て行く。

 向こうは特に問題は無かったようだ。


「鎌瀬君。なんか、全然怖くなかったね」


「そりゃ、お前は拝まれていただけだからな」


 次はジェットコースターだったが、なぜか俺はシートベルトが外れて落ちそうになった。


「うおおおお! 死ぬ!?」


「鎌瀬君、危ない!」


 ギリギリでアリスが手を掴んでくれたので、何とか事なきを得た。

 どうやら、アリスといるだけで俺は不幸に襲われ続けるらしい。

 まあ、結果的にはアリスが助けてくれるので、安全ではあるが……


「その、ごめんね? もしかしなくても、私のせいだよね?」


「気にすんな。これもやられ役の仕事だ。慣れたもんだよ」


 『やられ役』の俺がピンチになって、『主役』のアリスが助ける構図ってわけだ。

 アリスと遊びに行ったことなんて無かったから、これは予想できなかった。


 ま、誰とも遊園地に遊びに行った事なんて無かったけどな! 

 別の奴と遊んでもこうなるのかね。


「ねえねえ、サチたん。この遊園地って、事故が多いみたいだよ。さっきジェットコースターで、人が落ちそうになったんだって。怖いね」


「あーそれって……ううん。なんでもない。本当に怖いね」


 優斗とサチは俺たちについて話題にしている。

 サチの方は俺の仕業だと気付いていたらしい。さすがに勘がいい。


 さて、そろそろ頃合いである。

 奴らも『いい雰囲気』となって来たんじゃなかろうか?


「ねえ、優斗君。お腹空かない? 公園に行って、お弁当を食べようよ」


「いいね! さすがサチたん!」

 

 そうして町外れの公園へと向かうサチと優斗。

 いいぞ、うまい誘導だ。 


「今日はありがとね。お弁当作って来たんだ。一緒に食べようね」


 公園についた優斗たちは、さっそくサチの作った弁当を食べ始める。


「おお! おいしい」


「ふふ。よかった」


 この弁当はサチの会心作だ。味は間違いないだろう。


「いい感じだね」


 俺とアリスは少し離れたところで、二人を観察している。

 思った以上に良い雰囲気だ。


「ふう、喉が渇いたな」


「お茶かな? はい、どうぞ」


「おお、ありがとう」


「あ、次はこれが食べたいんだね。自信作だよ。ふふ」


 そうして手際よく進めていくサチ。


「サチさん、すごいね。相手の心が読めるみたい」


「ああ、天然っぽいところがあるから分かりにくいが、あいつはすごく気遣いができる」


 サチは妙に空気を読む能力に長けているのだ。

 口で言わなくても、こっちがやりたいと思ったことを瞬時に察知して用意してくれる。


 他にも二人でいる時、会話をしたいと思えばたくさん喋りかけてくれるし、静かにしたいと思ったら黙っていてくれる。


 きっと細かい事に気が回る性質なのだろう。本当に心でも読んでいるかの如く動いてくれるのだ。


「そうなんだ。羨ましいな……」


 少し寂しそうな目となっているアリス。


「アリスが他人を羨ましがるなんて、珍しいな」


「私、そういうのはできないんだ。こう、空気を読むってやつ?」


「あーなるほど」


 主役であるアリスには確かにそういった能力は退化しているのかもしれない。


「でもアリスにはそんな能力は必要ないな。なんたってこの世界の主役だ。空気を読む必要なんてない。むしろ周りがアリスに空気を合わせなければいけない」


 ま、俺は空気を合わせるつもりなんてないけどな。


「そう言われると、なんか情けないよね。助けられてばかりで何もできない奴みたいだよ」


「適材適所ってやつだ。アリスには主役という誰にも負けない能力があるんだから、そこを伸ばせばいいじゃないか」


「そうだけど……主役の私が空気を読めないって嫌なんだよ。空気もきちんと読めてこその主役でしょ?」


 なんというか、アリスって完璧主義なんだな。

 そのせいで余計な部分で落ち込んだりするところもあるようだ。主役らしいと言えば主役らしい。


 俺たちがそんなやり取りをしているうちに、いつのまにかサチと優斗がさらにいい雰囲気になっていた。


 気遣いがうまいサチは、雰囲気を作る事もうまい。

 ある意味で恋愛に最も有利な性格なのかもしれない。


「これはチャンスだね」


 アリスが緊張した面持ちで二人を見つめる。

 俺もじっと様子をうかがう。仕掛けるなら今だろう。

 俺の秘策はタイミングが大事なので、よく見ておかなければならない。


「あのさ。私ね、優斗君に伝えたいことがあるんだ」


「え? なにかな? サチたん」


 キラン、とサチの目が輝いた。ついに告白をする気だ。

 シチュエーションは完璧である。

 ここで『聞こえない』というのはありえないだろう。


「なっ!?」


 その時、アリスが驚愕の表情でサチの上空を見た。


「来たか!」


 俺も確認する。

 サチの真上に突如として『金タライ』が出現したのだ。

 このままではサチの真上に落ちてしまい告白の雰囲気は一気にぶち壊しとなる。


「今だ!」


 そこで俺はすかさず心の中で念じて、属性の力を最大まで出力した。

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