第22話 主役(お人好し)とやられ役(クズ君)の最強最弱タッグ!
告白をしようとしたサチの頭上に突如として現れた金タライ。
「今だ!」
そこで俺は『能力』を全開にする。
その瞬間、サチの真上に落ちるはずだった金タライは、物理法則を無視して、俺の方向へ飛んできた。
凄まじい速度の金タライが俺に向かってくる。
「おっと」
金タライを受け止める。
こちらに飛んでくることが予想で来ていたので、俺の反射神経なら防御するのは容易だ。
そして、金タライは手品のように消え去った。
「え? ……え?」
アリスは不思議そうに、口をパクパクと開いたり閉じたりしていた。
「……?」
サチは自分に金タライが降ってくると思って、身構えていたのだろう。
何も起きないことに不思議そうな表情で、周りをキョロキョロと見まわしている。
「よし、成功だ!」
思わず声に出す。予想以上に計算通りに事が進んだので、正直嬉しかった。
以前にの属性解放で得た俺の『新しい能力』を発動させた。
内容は『不幸を呼び寄せる』という力である。
いきなり頭に金タライが落ちてくる。こんなのはどう考えても『不幸』だ。
それは俺の能力の適応範囲内と言える。
「ね、ねえ。どういう事? なにをやったの!?」
「属性解放で得た新しい能力を使って、不幸を引き寄せたんだよ」
「ああ、あの新しい能力! 使えないと思っていたけど……」
「そうでもないぞ。サチは告白しようとすれば不幸に襲われるが、俺の新しい能力なら、その不幸を俺に引き寄せることができる。その分、サチはフリーで動けるんだよ」
数多の敗北経験から使えるものは何でも使う性格となった。
不幸を呼び寄せるなんて能力は、普段は全く使い物にならないが、この場合は役に立つ。
サチを襲う不幸は、俺の能力で全て吸収してやればいい。
「ふっ、見たか? これが俺の…………痛てっ!?」
自慢しようとしたら、いきなり後頭部に痛みが走った。
見てみると、そこには小石やら野球のボールやら煙草やらが転がっていた。
「あれ~。おかしいな。キャッチボールしていたのに、なぜかいきなり変な方向にボールが飛んで行ったぞ?」
「おや? 川に投げた小石がいきなり向きを変えた?」
「はて? 煙草をゴミ箱に投げ捨てたはずなのに、宙に浮いてどこかへ飛んで行った」
公園にいる住民たちが不思議そうに声を上げていた。
嫌な予感がする。
「ねえ、これも君の能力のせいじゃない? 無差別に不幸を引き寄せてしまっているよ」
どうやら関係ない人たちの行動でも『不幸』となって俺に降りかかってくるらしい。
「つまりさ。今の状態って危なくない?」
「た、確かに。一度能力を解除しよう」
このままでは無尽蔵に不幸を吸収してしまう。
サチが不幸に襲われそうになったタイミングで能力を発動させることが重要だ。
「えっと。どうしたの? サチたん、何か言おうとしなかった?」
「はっ!?」
優斗に言われてサチが我に返った。
どうやら今なら告白できる状態だと察知したらしい。
「あ、ごめん。私、優斗君にどうしても伝えたいことがあるの」
再び気持ちを伝えようとするサチ。
いいぞ! 言ってしまえ!
「ちょ、ちょっと。あれを見て」
そんな時、アリスが俺の肩を揺さぶっていた。
なんだよ。今はいい所なんだっつーの。
あまりにしつこいので、仕方なくアリスの視線の方向に目を向けてみた。
「なっ!?」
思わず声が飛び出た。
そこには巨大な『丸太』が、空中からサチめがけて振って来ていたのだ。
神の怒りなのだろうか?
まるで金タライでは生ぬるいと言わんばかりに、襲い来る不幸がパワーアップしていた。
くそ、ふざけやがって。神め、どうあっても告白をさせないつもりか!
「ひえええええ!?」
これにはサチも叫び声を上げてしまう。
「ふっ。どうしたんだい、サチたん。僕に見とれてしまったかい?」
真後ろから丸太が迫っているにもかかわらず、ファサッと髪をかき上げる優斗。
お前、全く気付いてないんかい!?
いや、まあ『雰囲気』が壊れないから、ありがたいけどな。
今回ばかりは優斗の鈍感に感謝しなければならない。
「あんなもんがサチに当たったらシャレにならない。とりあえず、こっちに引き寄せるぞ!」
俺は再び心の中で念じて、能力を全開にした。
すると、丸太は向きを変えて、ものすごいスピードで俺の方向へ向かってくる。
だが、危険なのはここからだ。
さすがにこんなでかい丸太は、俺でも受けきれない。
仕方ない。『最後の手段』を使うとしよう。
「はっ!」
俺は『あるもの』を盾にした。
そのおかげで丸太は俺には当たらなかった。
「ふう、助かったぜ」
安堵の声をあげる俺。
しかし……
「……………………ねえ、君さ。今、私のことを『盾』にしたよね?」
そして、不満そうなアリスの声が聞こえてくる。
そう、俺はとっさにアリスを盾にすることで、難を逃れたのだ。
そのおかげで丸太は俺たちから逸れて、すぐ隣に激突した。
例によって、すぐに丸太は消えてなくなる。
主役のアリスは運命でどんな攻撃でも当たらない『絶対回避』の能力を持っている。
だからアリスを盾にすると、丸太が物理法則を無視して勝手に避けてくれるという訳だ。
しかしこれはまさにクズ君の戦略。
主役を……それも女の子を盾にする最低の作戦だ。
盾として利用されたアリスは、ジト目で俺を睨んでいた。
「悪かったよ。でも仕方ないだろ。俺があんなもん食らったら死んじまう。お前は主役だから、盾にされても、能力で丸太は当たらない。問題は無いじゃないか」
「そうだけど……盾にするなんて、酷いよ!」
「でも、実際に無事だったじゃないか。おかげで助かったよ。あ、それとも俺のこと、見捨てるか? 別にいいけど俺、アリスが守ってくれないと死んじゃうな~」
「む、ぐ……」
アリスが悔しそうに俺を睨む。
彼女は底なしのお人よしなので、人を見捨てることができない。
だから、アリスは自らの正義に従って、俺を守るしかないのだ。
これはアリスの性格を利用したクズ君の極みのような戦法である。
だが、許せアリス! そうしなきゃ本当に俺は死ぬんだ。
戦略など、選んではいられぬのだ!
……やはり、俺はやられ役(クズ君)なのかもしれん。
「あーもう、分かったよ! 私が盾になってあげるよ!」
ヤケクソのように叫んでアリスは俺の前に立った。
これで防御面は完璧だ。
『やられ役』の俺がサチの不幸を呼び寄せて、『主役』のアリスがその不幸を弾き飛ばす。
主役&やられ役。
ここに本来なら決してあり得ないはずの究極のタッグが誕生した。
主役を、それも女を盾にするという最低の手段ではあるが、効率の面で考えると、これほどよくできている作戦はない。
「主役の私がやられ役の盾になるなんて、今回だけだからね!」
「ああ、今回だけだ。頑張ってくれ。後でなんか美味しいもんでも奢ってやるよ」
「ほんと? よし! それなら、頑張るよ!」
そして、アリスは意外と単純だった。
その後も鉄球や大岩、鉄骨などがサチに降り注ぐ。
だが、全て俺が引き寄せて、アリスが弾き飛ばす。
「わ、私ね。ずっと前から……」
その間にもサチの告白が進んでいく。
あと一歩でサチの声が優斗に届くはずだ。
これはいけるか!?
「…………ん?」
その時、異常な轟音が俺の耳をよぎった。
これは……機械音?
音の方を向いた俺は、その正体を見て、絶望の声が口から出た。
「ひ、飛行機……だと」
次にサチに向かって落ちてきたのは、なんと『飛行機』だった。
その中には乗客と思われる人々もいる。
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