第23話 主役の真の能力、発動!

 俺が不幸を呼び寄せてアリスがそれを弾き飛ばす。

 これで勝利が確定だと思ったが、次にサチに降り注いだのは『飛行機』だった。 

 中には乗客もいる。


「嘘だろ……あれも『不幸』の一部だってのかよ」


 飛行機が落ちてくるなんて、こんなのは対応できっこない。

 弾き飛ばしたら、乗客に犠牲者が出る。


「鎌瀬君! 君の能力で、あの飛行機をこっちに寄せて!」


 しかし、アリスの表情は諦めていない。

 何か策があるのだろうか。


「なんとかできるのか?」


「そうだよ! だから早く!」


 やられ役の力を全開にする。

 不幸を呼び寄せる能力により飛行機が若干距離を変えてこちらに突っ込んできた。


「なんじゃこりゃああああああ!?」


 さすがの鈍感優斗も異常に気付いたらしく、落ちて来る飛行機を見上げて驚愕していた。

 公園にいる住民も同じだ。


「私の後ろに隠れて!」


 俺を庇うように前に出るアリス。

 もう後は彼女に任せるしかない。


「フルパワーだ!」


 アリスが飛行機に向かって手をかざした瞬間、凄まじい光が彼女を包んだ。

 体からオーラのようなものが溢れてきており、銀色の髪がふわりと浮き上がる。


 そして普段は綺麗な瑠璃色の瞳が金色に輝いていた。

 こいつ、かっこいいな!


 属性の力を全開にした場合、目が輝くらしい。

 主役の場合はこんなにかっこいいのか。


「ちなみに鎌瀬君が属性解放を発動させた時は、黒く光っていたよ」


 俺は黒かよ。やられ役、だせえな!

 って、今はそんな話をしている場合じゃない。

 いくら主役のフルパワーでも、本当にこの状況をなんとかできるのか!?


『止まれ!』


 アリスが言葉を発した瞬間、落ちてきている飛行機がピタリと止まる。


『飛べ!』


 そして、次の言葉で飛行機は向きを変えて、ゆっくりと空へと飛び去った。

 そのまま何事もなかったかのように空港方面へと向かっていく飛行機。


「ふう、うまくいった」


「なん……だと」


 今、何をやったんだ?

 飛行機を操っているみたいに見えたが……


「おお、さすがアリス様!」


 公園の住民から歓声が聞こえる。

 主役という属性を持つ彼女は有名人だから、皆が知っているようだ。


「ありがとう! あなたはこの町の救世主だ!」

「お姉ちゃんは僕の命の恩人だよ!」

「あの……私もファンになっていいですか?」


 次々と賛辞の言葉がアリスに放たれる。


「や、やめてよ。私、そんなんじゃないってば……」


 アリスの顔は見る見るうちに赤くなる。やはり褒められるのは苦手のようだ。


「しかし、なぜいきなり飛行機が落ちてきたのだろう。悪魔の仕業なのだろうか」


「お姉ちゃんは魔王の攻撃から、この町を救ってくれたんだね!」


 皆が不思議な顔をしている。俺はなるべく自然を演じてコソコソと端へと移動しようとしていた。


「どうしていきなり飛行機が落ちてきたんだろうね。誰の仕業なのかな。魔王さん?」


 悪戯っぽい笑みで俺に語り掛けるアリス。

 まあ、完全に俺が不幸を呼び寄せたせいだからな。


「悪かったな。俺もこんなことになるとは思ってなかったんだよ。それより、さっきは何をやったんだ?」


「ああ、私ね。属性解放で『ある力』を使えるようになったんだ」


「ある力?」


「私の属性開放の能力は『敵対する相手を操ることができる力』だよ。だから、飛行機を『敵』として操ったんだ。それでゆっくりと空港まで飛ばせて、着陸させた」


 おいおい。マジか。

 つまり、アリスが本気になったら敵を思いのままに操れるってことだ。


「チ、チーター」


「むう、その呼び方はやめてってば」


 ぷくっと顔を膨らますアリス。

 見た目は美少女だが、こいつこそ魔王と言ってもいいのではないだろうか。


「…………」


 優斗とサチは、ぽかーんと口を開けて固まっていた。

 無理もない。


 いきなり飛行機が落ちてきたと思ったら、今度はそれが物理法則を無視して、空へと飛び去ったのだから、混乱するのも当然だ。


 だがサチよ、呆けている場合ではないぞ。今が最大のチャンスだ。

 これ以上時間をかけてしまうと、本当に何が起きるか分からない。

 それこそ、地球が爆発してしまう可能性すらあるじゃなかろうか。


 さあ! 早く告白するんだ!


 俺の念が通じたのか、サチが我に返って再び優斗と向き合う。


「あ、あのね、優斗君。私ね、ずっと前から……」


 そうだ! 言え! 言ってしまえ!




「ずっと前から、優斗君のことが……好きでした!!!!」




 言った! やったぞ!!

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