第20話 前編 デート大作戦、その1

 いよいよデートの日がやって来た。

 目の前には普段とは違って、可愛らしい服装のサチがいる。

 意外とオシャレが得意らしい。本人のセンスは変わっているのに……。


「サチさん。凄くかわいいね」


「ありがと。でも、アリスちゃんの方がかわいいんだけどな」


「そんなことないよ。私、オシャレとかよく分からないし」


 アリスはお世辞にもオシャレとは言えないシンプルな服装だ。

 だが、それでもめちゃくちゃ美人である。

 むしろオシャレをしていないのが、かえって本人の魅力を引き出している。


 アリスはどんな服を着ても美少女に見える補正があるらしい。

 服が勝手に彼女に合うようになるのだ。恐ろしい女である。


「ねえ、かーくん。私、どうかな? …………かわいい?」


 上目遣いで俺を見てくるサチ。

 自身のコーディネイトに加えて、薄くメイクをしているのが自分に合っているのか不安らしい。



 言うまでもなく最高だ。



可愛くなろうと頑張っている感が特に良い。

彼女の努力の証である。


「ああ、最高に可愛いぞ。これなら、ハーレム主人公も悩殺だな」


「ほんと!? かーくんもノーサツされそう?」


「おお、もちろんだ。むしろ瞬殺だよ」


「そっか! なんかよく分からないけど、やった!」


 小さくガッツポーズ。

 サチはむしろ俺に見せるために頑張ってオシャレをしてきたようだ。


 心配しなくてもお前の可愛い姿を魅せられたら、やられ役の俺なんて瞬殺で悩殺だよ。

 だが、今は早い。

 俺が悩殺されるのは、このデート大作戦を成功させてからだ。


「午前中は映画を見て、午後は優斗と遊園地で遊ぶんだよな?」


「うん」


 そして『雰囲気』が良くなったところで、サチが告白をするという作戦である。

 すでにサチは優斗に認知された。雰囲気さえ作れば、告白もきちんと優斗の耳に入るはずだ。


「遊園地で遊んだ後は、公園に行ってサチが作った弁当を食べて、それから告白だな」


「そうだよ~。えへへ、自信作」


 サチは料理が得意だ。

 昨日に俺とアリスが試食をしたが、その味は絶品であった。


「サチさんって料理が上手だよね。羨ましいよ」


「なんだ。アリスは料理ができないのか?」


「そうだよ。悪い?」


「いや、それはいい情報だぞ。つまり料理勝負なら、俺にも勝ち目があるって事だな」


「おお! ついにかーくんに勝ち目が!?」


 思わぬ所から、思わぬ勝機が湧き出てきた。

 俺はレシピ通りの料理なら、完璧に作る事が可能だ。


「でも私が作った料理は滅茶苦茶だけど、みんな美味しいって言ってくれるんだよ。しかも気を遣ってるわけじゃないみたいなんだ。黒焦げだったり、変な色だったりするのにね」


「……そんなところにも、主役補正が現れるのか」


 主役が作った料理はどんな料理でもなぜか『美味しい』と変換されてしまうらしい。


 ちなみに俺の場合は、なぜかダメ出しを食らう場合が多い。


 一度サチと料理勝負をしてみたが、第三者が俺の料理を食べると、不満の声が多発する。


 しかも理由は主に「心がこもっていない」とか訳の分からんものだった。


 好きな奴の料理なら美味しく感じるが、嫌いな奴の料理はまずく感じる原理なのだろう。


 料理に対する最高の決め手とは、食べた人間の気持ちなのだ。


 結局、料理勝負をしても負けそうだな。


「それじゃあ、行ってくるよ。デート大作戦、開始だね!」


 嬉しそうに敬礼をして優斗との待ち合わせ場所に向かうサチ。気合は十分のようだ。


「よし、後をつけるぞ」


 ここからは優斗にバレないように二人のデートを観察する。

 サチには了承済みの作戦だ。


 もし、何か問題が起きたら俺たちがフォローするという手はずだ。


「……デートしている二人を付け回すとか、なんかすごく罪悪感があるね」


「仕方ないだろ。見なかったら、サポートできないからな」


 負けヒロインには何が起きるか分からない。

 なので、迅速に動くためにも常に見張っておく必要がある。


「よし。では、これを持つがいい。尾行の必須アイテムだ!」


 俺はアリスにアンパンと牛乳を渡した。

 尾行といえば、この二つだよな~。


「よ、用意がいいね。ふふ、ちょっと楽しくなってきたかも」


 アリスもテンションが上がって来たらしい。喜んでくれたようでなによりだ。

 主役にこんな事させるのは正直気が引けていたが、本人は意外と楽しんでいるようである。


 そうしてサチが待ち合わせの場所に到着した。優斗はまだらしい。

 場所は神ノ町繁華街。ここには町の娯楽が全て集まっている。

 周りを見ると全ての人々が笑顔だった。皆が楽しそうに休日を謳歌している。


「…………」


 こうやって笑顔の人々を見ると、色々なことが頭をよぎる。


 この神ノ町では、属性の効果によりEクラスのような例外を除いて、基本的に誰も人生に『失敗』をしないようになっている。


 『料理人』の属性なら高級レストランに勤められることが確定だし、例えば『サラリーマン』の属性なら、サラリーマンとしては順風満帆な人生が約束されるのだ。


 神から属性を設定される。

 意外な事だが最近ではこれ対して不満の声は少ないらしい。

 なぜなら、それは『成功を授けられている』と考えられているからだ。


 人は『失敗』を大きく恐れる。

 『負ける』ことで自身の価値を見失い、勝たなければ意味がない人生だと悲観する。


 自分らしくとか、なりたい自分とか、そんなのどうでもいい。

 とにかく、勝ちたい。負けたくない。

 勝利者でありたい。敗北者にだけはなりたくない。

 かつての町はそんな人々で溢れかえっていたらしい。


 だからこそ、人々は神様から与えられる『才能』……つまり、属性を欲するようになった。

 属性さえ授かれば、少なくともその分野での『勝利』が約束されるからだ。


 そんな中で敗北者確定の『やられ役』というハズレ属性に設定された俺。

 そんなやられ役を愛してしまったハズレの中でも更に異質の俺。

 異質を愛する負けヒロイン。正義のはずが異質を認めてしまう主役。

 

 こんな奴らだっているんだぜ、神様よ。

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