第19話 主役とやられ役の努力の考え方
俺の奇策(?)が成功して、なんとかサチはハーレム主人公の優斗とデートが出来るようになった。
そのデートで告白をして、サチがフラれたらゲームはクリアーだが……
「さて、大変なのはここからだぞ」
放課後、俺たちは屋上に集まって、作戦会議を始めていた。
「デートにこぎつけるまではうまくいった。だが、問題は告白しようとするとタライが落ちてくる能力だ。これはデート中でも変わらない」
デートというのはただの手段でしかない。
我々の最終目標は告白なのだ。そして、その告白こそが最難関の壁だと言える。
告白しようとすると、『不幸』に襲われるサチの能力を何とかしなければならない。
「サチ、お前はとにかく告白するタイミングを探っていてくれ。落ちてくるタライについては、俺が何とかしてやる」
「え? 何とかできるの?」
「ああ、俺には作戦がある。うまくいく保証はないけどな」
「作戦……か。君、よくそんなに作戦が思いつくね。凄いよ」
アリスが感心した目で俺を見ている。
「まあ、『小細工』を閃きやすいのも、やられ役の能力なんだよ」
やられ役の能力の一つに『小細工が得意』というものがある。
「そうやって小細工をして主役に正面突破で負けるまでがテンプレだけどな」
「つまり、君はいつも頑張っているってことだ。努力家なんだね」
「おいおい。ずいぶん良い方に見てくれるんだな」
小細工も努力だと思ってくれるってことか。本当にアリスは底なしのお人好しだ。
「だとしても、無駄な努力だけどな。結局、勝てないし」
「無駄な努力……か。でも私は好きだな。無駄な努力」
俺のことを馬鹿にするわけでもなく、なぜか憧れるような目で見るアリス。
無駄な努力なんて無いとは言わず、『無駄が好き』という部分に興味が涌いた。
「私は結果よりも、過程が大事だと思うんだ」
「ほう、変わった主役だな。主役って、結果が全てじゃないのかよ?」
「絶対に成功するなんて、つまらないよ。それより、絶対に失敗するとか言われているのをひっくり返す方が面白んだ。そのために色々と考えたりするのが、楽しいんだよ」
アリスが少しだけ寂しそうな顔をしている。
何をやっても絶対に成功する主役。傍から見れば誰もがうらやむ属性だろう。
しかし、何の苦労もなく、成功する運命は本当に幸せと言えるのか。
アリスの表情から読み取ることはできない。
「君は以前にやられ役が好きだと言っていたよね。どれだけ失敗しても立ち向かう姿がかっこいいって。私もそう思うんだ。諦めない心こそが、本当の強さなんだよ」
「…………聞いていたのか」
同盟を組んだ日にやられ役についての愛をぶちまけたのを思い出した。
正直、自分ではかなり痛い発言だと思っていたが、まさかサチ以外に同意してくれる奴がいたとはな。
それもよりによって、天敵である主役に分かってもらえるとは思わなかった。
「やられ役か。少しだけ羨ましいかな」
「やられ役を羨ましがるとは、変わったやつだ」
「そうかもね」
「だが、変わっている事が罪だなんて法律は存在しない」
「なにそれ……ふ、ふふふふ」
口を押えて笑っているアリス。そんな風になる彼女は初めて見たかもしれない。
「やっぱり二人は面白いね」
俺とアリスのやり取りを面白そうに見ているサチ。
「でもそうだね。大事なのは頑張ることだもんね。私だってやってみるよ」
決意を秘めた目だ。失恋すると分かっていても挑もうとする負けヒロインの目。
無駄な努力というのも悪くない。
だが、できれば努力は報われた方がいい。
そして、今回は成功への布石も打っておいた。作戦もある。
一度フラれさえできれば、俺とサチは結ばれることが可能だ。
告白不可能という状態がその作戦すら阻んでいるが、こちらはそのさらに上の作戦を練っている。
俺が必ずサチを『勝つ負けヒロイン』にしてやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます