第18話 対ハーレム主人公攻略法

 俺がサチの代わりに優斗にデートを誘う。デート大作戦(サチ命名)の始まりだ!


 放課後、教室ではクラスの皆が帰り支度を始めている。

 そろそろ作戦を決行しよう。

 さて、優斗は今、何をしているのか。


「うわっ。躓いた!」


 その時、優斗がバランスを崩した。そしてその拍子に出された手がアリスの胸に向かった。


「っと、危ない」


 俺はとっさにアリスの手を引く。

 おかげで優斗の手はそのまま空を切った。


 あと一歩、俺の反応が遅かったら、アリスの胸は優斗に揉みしだかれていただろう。

 今のがハーレム主人公最強の必殺技、『ラッキースケベ』である。


 ここでも発動しやがったか。

 反応できてよかった。俺は反射神経には最も自信があるからな。


「ったく、優斗の奴め。アリス、大丈夫だったか?」


「う、うん。ありがと、鎌瀬君」


「ま、主役には余計なお世話だったか? お前なら簡単に避けられただろ」


「そんなことない。優斗の行動は、私でもうまく回避できない時があるんだ」


「ああ、そうか。野郎も『主人公』だからな」


 主人公の属性を持つ優斗は、属性の強さで言ったらアリスと同格だ。

 ラッキースケベはアリスでさえ完璧には阻止できないらしい。

 まったく、あの野郎もチーターかよ!


「ま、待ってくれ! 今のはわざとじゃないんだ!」


 ちなみに本人談によると、わざとではないらしい。

 でもこれは本当の事なので、余計に困る。


「ああっ!? また浮気? 優斗のバカ!」

「ふふ。本当に仕方ないな。優斗は」

「わ、私の方がおっぱい大きいもん!」


 わらわらとヒロインさんたちが優斗の元に集まって彼を罵倒していく。

 いや、訂正しよう。これは罵倒とは言わん。

 いちゃいちゃしているだけだ!


「ああ、本当に僕って不幸だな。やれやれだぜ」


 しかも、本人は不幸だとか言っているし。


「なあ、アリス。あいつ、訴えてもいいんじゃね?」


「……わざとじゃないみたいだからね。そこまではできないよ」


 アリスは正義感が強いだけに、わざとじゃない行為については本気で怒れないらしい。

 本人の日頃の注意不足もあると言いたいが、優斗の場合は能力によるものなので、そこを責めることはできない。


「ハーレム主人公か。恐ろしい奴だ」


「早くあいつの性格を直さないとね。そろそろ作戦を決行しようよ」


「そうだな。じゃ、ちょっくら行ってくるわ」


 今はちょうどいいタイミングだ。優斗の周りにヒロイン達がいない。

 彼のヒロインさんたちは『もう優斗なんて知らない!』と、どこかへ行ってしまった。


 まあ、すぐに『やっぱり私たちには優斗しかいないよ♡』とか言って戻ってくるんだけどな。

 とにかく、ヒロインたちが戻ってくる前に事を済ませてしまおう。


「なあ、優斗。ちょっといいか?」


「おや? 鎌瀬君が僕に話しかけて来るなんて、珍しいね」


 普段は全く人と会話しないので、不審がられているのかもしれない。

 それでも、ここで引く訳にはいかない。

 俺は映画のチケットを優斗に見せた。


「ちょっと頼みがあるんだ。デートをしてくれないか?」


「僕と君が!? 僕にそんな趣味はない!」


「それはもういいっつーの!」


 対人経験の少ない俺は言葉足らずになることが多いらしい。

 気をつけないと変な勘違いをされてしまうな。


「ああ、悪い。サチの奴とデートしてほしいんだよ」


「サチさんって誰?」


 そうか。こいつはまだサチのことを『認知』してないんだな。


「ほら、あそこにいる子だよ」


 俺は真っ直ぐにサチを指さしてやった。


「あの~鎌瀬君? 誰もいないよ?」


 しかし、優斗は首を傾げるだけだ。

 サチの姿に全く気付いていないのだ。

 ち、この鈍感王め。やはり、認識できないか。


「そんなはずはない。ほれ! よく見ろ!」


 俺は両手で優斗のまぶたを思い切り開けてやった。


「ぎゃあああ! 痛い痛い! 目を無理やりこじ開けないで!?」


「これでも見えんのか! すぐ先に美少女がいるんだぞ。お前はそれでもハーレム主人公か!」


「び、美少女!?」


 美少女と聞いて、俺が広げるまでもなく、優斗の目が見開く。


「僕が美少女を見逃すなんて、あってはならない! はああああ!」


「ぬっ!?」


 一瞬、優斗の目が光った気がする。そして奴からはすさまじい気迫を感じた。

 それでいい。これが俺の作戦だ。


 ハーレム主人公の優斗は、無類の女好きである。


 そんな優斗が本気になったら、どんな美少女でもサーチすることができるはずだ。

 たとえそれが負けヒロインだとしても、この女好きならばきっとやってくれる。


 そうして優斗の目線がサチで止まった。

 濁っているような澄んでいるような何を考えているのか分からん瞳が彼女を捉えている。


「見えた! 美少女だ! あの子がサチさんだね? 確かに可愛いよ!」


「やったか! ついにサチの姿を認識できたんだな!?」


 優斗は間違いなくサチに向かって指をさしていた。

 どうやら本当に認識できたらしい。


「よし! 今回だけはよくやったぞ、優斗!」


「当然さ。これが僕の真の力だよ」


「さすがです! 優斗様!」


「ふっ、よさないか、鎌瀬君」


「ですが優斗様…………………………ち」


「なんで最後は舌打ち!?」


 あ、しまった。持ち上げて、奴の気分を良くしようと思ったのだが、つい本音(舌打ち)が出てしまった。

 優斗様、正直な俺を許してください。


「とにかく、優斗よ。サチとデートをしてくれるってことでいいんだな?」


「仕方ないな~。僕って本当にモテるなぁ。やれやれだぜ。また一人、女の子が僕に恋をしてしまったんだね。はあ~。やっぱり僕は不幸……って、痛たたた!? 目を広げないで! もう見えてるから!」


 どうしてもムカついたので、特に意味はないが、再び優斗の目を思いきり広げてやった。


「まあ、あれだ。デートだからって、変な真似はするんじゃねーぞ」


「当たり前だよ! そんな事するわけないだろ。僕は紳士なんだ!」


「ふん。自分で紳士とかいう野郎は、だいたい変態なんだよ」


 よく分からない捨て台詞を残して、俺は皆の元へ戻った。

 やられ役っぽさは完璧である。


「かーくん、凄い! 本当にうまくいくなんて思わなかったよ!」


「ま、力技だったけどな。俺も正直驚いている」


 優斗の『女好き』という力を強化した結果、サチの『地味』を上回ったわけだ。


「だが、まだ油断はできない。デート当日に何が起きるか分からないからな」


 俺たちは『やられ役』と『負けヒロイン』。トラブルは起きると思っておいた方がいい。


「アリス。サチのデート当日は、空いているか?」


「うん。ちょうど、その日は何もないよ。私も応援する!」


 よし。主役のアリスがいれば予期せぬ事態が起きても対応力が上がる。

 運も流れもこっちに向いてきた。

 このチャンスは是非とも掴みたい。


 俺は『やられ役』でサチは『負けヒロイン』。普通なら属性の関係で俺たちは失敗率が非常に高い。


 だが、今回は『必勝』の主役が付いてくれる。勝負は分からないだろう。

 俺たちのマイナスを主役がかき消してくれたなら、勝つ可能性は十分にある。


「かーくん、アリスちゃん。ありがとう! 私、頑張るね!」


「ああ、頑張って告白してこい」


 そしてフラれてこい。後のフォローは俺に任せろ。

 一生を掛けてしっかり慰めてやる。


 一度フラれさえできれば、俺とサチは結ばれることが可能なんだ。

 デートまではこぎつけた。この先、何かが起きる可能性も高いが、それも対応して見せよう。


 俺が必ずサチを『勝つ負けヒロイン』にしてやる。さあ、デート大作戦の開始だ!

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