第51話 崩壊した世界の果てであなたに告白します
ついに俺は『勝利』した。
この戦いは俺の死の因果を変える戦いでもあった。文字通り命懸けの戦いだったのだ。
これで俺の命も助かるはずだ。
ゲームクリアー。クソゲーの攻略、完了である!!
「アリスは大丈夫か?」
「うん、止血はできたよ」
属性が修復されるまで残り5分程度。それくらいならアリスの体も持つだろう。
そんなアリスが何故か嬉しそうにこちらを見る。
「ふふ、やった……ね。努力……報われたじゃないか」
「いやいや、相手は幼女だぞ。自慢にならねえよ。こんなのは、ただのいじめだ」
話せるくらいだから、アリスは大丈夫だな。
「お、お兄ちゃん! 今すぐその主役を殺せ!!」
泣きべそをかいている破壊王が、こちらに向けて懇願してきた。
「はあ? なに言ってんだ?」
「お兄ちゃんはやられ役でしょ。それなら、そこにいる主役が許せないよね? やられ役のお兄ちゃんが主役を殺せば、世界に歪みが起きて、もうやられ役じゃなくなるのかもしれない。もしかしたら、主役になれるかもしれない。これはお兄ちゃんにとっていい話なんだ!」
破壊王に言われて、アリスの方をちらりと見る。
「…………君の、好きに……するといい」
アリスは全てを受け入れるような目をしていた。
殺されても怨むつもりは無いのか?
「お兄ちゃんはやられ役で辛かったでしょ? 凄く苦しかったんだよね? 主役を殺せば、お兄ちゃんは全ての苦しみから解放されるんだ。さあ、早く! 属性が戻る前に!」
破壊王の言葉にアリスが目を逸らした。
恐らく同意できる部分があったのだろう。
アリスを殺せば俺は『やられ役』でなくなる。
その魅力的な提案を俺は……
「嫌だよ」
普通に断った。
「ど、どうして!? 普通はやられ役なんて、主役を憎んでいるはずだ! 強力な力を……それこそチート能力を手に入れて、その力で周りを見返そうとするはずなんだ!」
「あのな。お前は何も分かっていない。そもそも、この世で一番かっこいいのは主役じゃない。まして、チート能力でもない! そんなチートに立ち向かう『やられ役』なんだよ!」
「…………は?」
「今の俺はもはや主役など眼中に無い。あくまで俺がやりたいのは『やられ役』が『主役』を倒すって事だ。だから、アリスを倒すのは今じゃない。属性が戻ってからだ」
「……何言ってんの? 属性が戻ったら負けるじゃん。お兄ちゃん、アホなの?」
「アホ言うな! 失礼な奴め」
相変わらず誰も共感してくれねえ。
これはもっとやられ役の素晴らしさを広めねばならんな。
つまり、まだまだ俺はやられ役をやめるわけにはいかんって事だ。
「お兄ちゃん。自分から主役になるチャンスを捨てるとか、絶対に変だよ」
「ふん、変わっていることが罪だなんて法律は存在しない。覚えておけ」
「…………はは、なにそれ?」
俺を見て軽く笑った破壊王は、大の字になって寝転がった。
「ねえ、どうしてお兄ちゃんは、やられ役なのにそんな風でいられるの?」
「どういう意味だよ」
「ボクもさ。破壊王でも、自由に生きていいのかな。世界の破壊や人々を苦しめて喜ぶことがボクに与えられた設定だけど、そんなのは無視してもいいのかな?」
「王ってのは我儘に生きるもんだろ? ガキなら尚更だ。神が設定した属性ごときを律儀に守る必要なんて無い。俺なんかやられ役だけど、やりたい放題だぞ」
「ふふ、確かに。お兄ちゃん、クズ君だもんね」
そこには清々しい顔をした年齢相応の少女の素顔があった。
そのまま彼女は眠りに入る。
ひょっとしたら、こいつも『破壊王』の属性に縛られた部分があったのかもしれない。
「もうすぐ、属性が元に戻るか」
「はい、そうなったら私もまたコミュ障に逆戻りですね。少しだけ、寂しいです」
「……コミュ障ちゃん?」
「私、本当は鎌瀬君に伝えたい事がありました。でも、今はそれを言うのはやめておきますね」
伝えたい事? なんだろう。たくさん勉強を教わったお礼だろうか。
「ふう」
俺はなんとなく周りを見てみる。
そこには属性が無くなった状態のクラスメイト達がいた。
「ああ、私、いつも人をいじめて喜んでいた。最低の女だ」
『ドS』ではなくなったシオンは両手で顔を抑えてしゃがみ込んでいる。
こいつ、本当はここまで自分に自信が無かったのか。
ドSの属性のおかげで自分を保っていたようだ。
「何よ、みんないつも私に酷いことをして……どいつもこいつも死ねばいいのだわ」
『ドM』でなくなったミミは、恨みの籠った目で呪詛を吐いていた。
普段は何をされても嬉しそうにしていた彼女は、本来は全てを憎む性格だったってわけだ。
なんか闇を感じる。
「うわーん! 爆弾怖いよぉぉ!」
『ボマー』でなくなったボマーちゃんは、自分で作った爆弾に怯えていた。
心なしか幼児化しているような気がするボマーちゃんは、少し愛らしく見える。
彼女だけはずっとそのままでもいい気がします。
「うう、なんでみんなはもっと私を必要としてくれないの? 私を求めてよ! 私はこんなにみんなのことが大好きなのに!」
『ひねくれ女子』でなくなった女の子は、普段は絶対に言わないようなことを言っている。
お前、そんなことを思っていたのか。
正直になったら、もっとモテると思うんだがな。
「ち、どいつもこいつも馬鹿ばかり。見ていて、イライラするわ」
弱い子を『可愛い』と言っていた小悪魔は、弱者を見下す女になっていた。
自らのスペックの高さは相変わらずだが、本来は周りにイライラする性格だったようだ。
「やる気が出ないです。だれか僕にやる気を下さい」
暑苦しい炎使いも異常にテンションが低くなっている。
お前……本当はそんなローテンションな性格だったのか。
「あー人を殺したい。可愛い女の子をぐちゃぐちゃにしたいぜ」
雑兵なんかは普段からは想像もつかないほど物騒なセリフを吐いていた。
何気にこいつが一番普段と違うな。そんなやべー奴だったのか。
なんだろう。心なしか、全員が属性とは真逆の人格となっている気がする。
「ねえ、お姉ちゃん、私たちって無能で、生きている意味ないよね」
「そうね。自殺しましょう」
「なにやってんだぁぁぁぁ!?」
屋上から飛び降りようとする支配者と生徒会長を慌てて引きはがして、当身をして気絶させた。
こいつら、どれだけ自己肯定感が低いんだよ。普段の自信は何処へ行った。
「ねえ、よく考えたら、優斗って別にかっこよくないよね」
「っていうか、犯罪者だよね。むしろ、気持ち悪い」
いつも優斗にベタベタだったヒロインたちが、いきなり優斗を貶しだした!?
ハーレム主人公の力が無くなったので、ヒロイン達も無条件で優斗に惚れることはなくなったようだ。
仙人系幼女ヒロインも標準語で話している。
しかし、これはちょっと酷い。さすがに少しだけ優斗に同情する。
「なんだ。僕、本当は嫌われていたのか。はあ、やっぱり僕は不幸だな。やれやれだぜ」
優斗は両手を広げて首を振っていた。
って、こいつだけは普段と全く変わってねえ!?
やはり大物なのだろうか?
「かーくん、なんか、すごいことになってるね」
いつの間にかサチが隣にいた。アリスの方はもう大丈夫みたいだ。
「あのさ、かーくん、気付いているかな?」
「ん? なにがだ?」
「私も今は『負けヒロイン』じゃないんだよ」
「ああ、そうだな」
「だから、『告白』ができるんだ」
…………あ
「かーくん。ずっと前から、好きでした」
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