第46話 サチの真意
目が覚める。
辺りを見渡すと、周りが薄暗かった。
もうすぐ最終下校時刻か。
昨日は徹夜だったので、寝てしまっていたらしい。
俺自身が99点を取らなければならなかったから、必要以上に勉強する必要があった。
「あ、起きたね」
「……アリス?」
よく見ると、隣にはアリスが座っていた。
なぜか優しく俺を見つめている。
どうしても夢の事を思い出してしまう。こいつは立派な主役になったんだよな。
対して俺は無様なやられ役。勝負の結果は言うまでもあるまい。
というか俺、将来主役になる奴にイキっていたのか。
ま、アリスもあの時の勝負の事なんて忘れているだろうけど。
「みんなはもう帰ったのか?」
「どうだろう。でも今、教室にいるのは私と君だけだよ」
「そうか。……って、お前は一人で何してたんだ?」
「君の寝顔を見ていたんだよ」
「えっ!?」
予想外の言葉に驚いた。
ずっと俺の寝顔を見ていたって、それはどういう意味だ?
「それに今日のテストのお礼もしたかったからね。君のおかげで皆が助かったんだ」
そのまま、俺の目を見るアリス。
気のせいかその瞳が潤んでいるような気がする。
「やっぱり君は凄いよ。まだ、私は君に勝てないな」
「いや、いつも勝ってるだろ?」
「そんなことないよ。君はずっと昔から、私の目標だったんだよ」
「お前、あの時の約束を覚えて…………っ!?」
その時、アリスが俺の手を握ってきた。
それだけで、心臓が爆発しそうになる。
な、なんだ? これが主役補正?
それとも、別の何かなのか。
「ねえ。なんだかすごく胸がドキドキしない? 私、こんなの初めてだよ。本当は誰にも興味を持つ気なんて無かった。でも私、きっと今は君のことが……」
少しずつアリスの顔が近づいてくる。吸い込まれそうな綺麗な瞳が目の前に……
いや、待て! なんだこれは!?
何かがおかしい!
「くっ!」
「きゃっ!?」
俺は思わずアリスを突き飛ばしてしまった。
そしてそのまま教室から走って出ていった。
「あれ? 私……何を?」
去り際にアリスの困惑した声が聞こえた。
やはり彼女は普通じゃなかった。
「はあ、はあ、どういうことだ?」
屋上へ出る。
少し冷えた風に当たることで、冷静になることができた。
これまでの経験で分かる。これは異常事態だ。
本来ならこんな事はあり得ない状況なんだ。
そうだ。俺はやられ役だぞ。
これまで誰からも、まるで興味を持たれなかった。
そんな俺が少し良いことをしただけで、誰かから好かれるはずはない。
まして、全ての人間の憧れであるアリスが、俺に好意を抱いてくれるなんてあり得ないんだ。
それは去り際のアリスの言葉を聞いても分かる。
これは間違いなく、誰かの属性の力が引き起こした現象だ。なにか強力な力が働いている。
いったい誰の力だ? そして、なぜこんなことをするのか、目的はなんだ?
「あーあ。なんで逃げちゃったかな。かーくん」
「……サチ?」
サチが屋上に入ってきた。しかも、さっきのを見ていたようだ。
初めて同盟を持ちかけられた日と同じ状況だ。思えばあれから色々あったのものだ。
夕日を背にしているサチの姿はあの時のように綺麗であると同時に、今回はどこか不気味にも見えた。
「あのね。アリスちゃんは、かーくんのことが好きなんだよ。すごいよ! 誰にも絶対になびかないはずの主役のアリスちゃんを、かーくんは落とすことができたんだよ」
「お前、何を言ってるんだ?」
「アリスちゃんと付き合えばいいんだよ。かーくんはアリスちゃんを『モノ』にできたんだ。それでかーくんは幸せになれるよ! 私は、かーくんに幸せになってほしいんだ」
アリスとの交際を進めてくるサチ。
でも、それはおかしい。
サチは俺が好きなはずだ。
まあ、サチは俺がそれに気付いていないと思っているのだが……。
もう、俺のことは好きじゃなくなった、そういう事だろうか。
「……それで、お前自身は幸せなのか?」
「う、うん。私は、かーくんが幸せなら、それで……」
「嘘つくなよ」
「……え?」
サチが驚いて目を見開いた。俺の返事がよほど意外だったらしい。
もし、サチが俺のことを嫌いになっていたのなら、それでもよかった。
でも違う。
サチは単に身を引こうとしているだけだ。
これはいつもの『負けヒロインのパターン』なんだ。
それだけはダメだ。絶対に認めない。
俺は負けヒロインを勝たせたいんだ!
サチの言う通り、俺の心はアリスに向いているのかもしれない。
アリスは俺のことが好きになっているのかもしれない。
最高の美少女であるアリス。どう考えても、アリスと付き合うのが正解だ。
『主役』と恋人になれるんだから、まさしく俺の描いていた夢そのものだ。
それでも、俺は負けヒロインを選びたい。
もちろん因果を歪める目標もあるが、もうこれは俺の意地の世界になってきている。
「なあ、サチ。お前、俺に何か隠しているだろ?」
「……何のことかな?」
「誤魔化しても無駄だぞ。俺には全て分かっている。名探偵、鎌瀬君を舐めるなよ?」
近頃のサチの言動は明らかにおかしかった。そして俺の周りで起きていることも妙だ。
いきなり距離の縮まったアリス。
いや、それだけじゃない。異常と言えるレベルでやられ役の俺に関わってくる女子が増えていた。
これらは全てサチが原因である。
「最近のことは全部、お前の『属性開放』の能力だな?」
「…………」
気まずそうに目を逸らすサチ。この仕草が答えだ。
俺は属性開放で不幸を呼び寄せる能力と敵を最強にするを得た。
サチはその三日前に属性開放をしていた。
「さあ、説明してもらおうか。お前はどんな能力を得た?」
「そ、それは……」
サチが躊躇しながらも口を開こうとする。
その時……
「見つけた」
恨みの籠った声が屋上の出口から聞こえてきた。
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