最終章

第45話 ファーストコンタクト


 昔の夢を見ていた。

 初めて敗北した時の夢だ。

 あれは小学校の時だった。

 サチがいじめられていたから、助けようとして、負けた。


 サチは変わった性格だから、いじめの標的になりやすかったんだ。

 別にサチを助けたいなんて気持ちは無かった。単に群れている奴らが嫌いだっただけだ。


 いじめをする奴らは一人では何もできないくせに、集団になると、調子に乗って他人を攻撃し始める。

 それが許せなかったんだと思う。


 正直、悔しくてたまらなかった。

 あいつら、数で勝ったくせに俺の事を笑いやがった。


「ちくしょう! タイマンなら、あんな奴らに負けなかったのに!」


 その時、俺は誓った。


「強くなってやる! もう友達なんかいらない。ただひたすら強くなって、最強になってやるんだ!」


 そんな俺を見たサチが悲しそうな表情となった。


「鎌瀬君、私のせいでごめんね。もう泣かないで?」


「俺の泣き顔を見るな! あと、俺のことを『かませ』と呼ぶのも禁止!」


 当時の俺は『かませ』って言われるのが嫌いだったんだよな。


「えっと。じゃあ、勝利君?」


「負けたのに、勝利っておかしいだろ! それもダメ!」


「……じゃあ、なんて呼んだらいいの?」


「その二つ以外なら、なんでもいい」


「鎌瀬君だから……かーくんって呼ぶのは?」


「……それならいい」


「それでいいんだ。……かーくん。えへへ、かーくんは変な人だね!」


 思い出した。

 サチが俺のことを『かーくん』と呼ぶようになったのは、この時からだった。



「なんで……なんで君は、あいつらに立ち向かえたんだよ!」



 その時、誰かの叫び声が聞こえた。

 同い年くらいの女の子だ。

 子供ながらにすごく可愛い子だな、と思ったのは覚えている。

 そしてなぜだか、その女の子も涙で目を濡らしていた。


「わ、私だって、その子を助けたかったんだ! でも、怖くて、足が震えて、動けなかったんだ」


「しょうがねえよ。お前、女だもん。女は弱い。女はただ、俺に守られていればいい。そして、俺に惚れるのだ。お前は可愛いから、俺の女1号にしてやろう。ふははは!」


 うわっ、昔の俺、イキリすぎだろ。

 この頃からやられ役の素質があったかもしれない。


「かーくんの女1号になるのは、私だもん」


 目の前の女の子に対して煽ったはずなのに、何故かサチの方から殺気が飛んできたような気がするのだが……気のせいだろうか?


「女だからって、バカにするな! 私は将来、絶対に『主役』になるんだ!」


「ああん? 女が主役になれるわけねーだろ。主役になるのは、この俺だ!」


「じゃあ、勝負だよ! 今回は私の負けだけど……いつか必ず私の方が主役らしくなって見せる。たとえ負けるかもしれない相手でも、恐れずに戦って見せるからね!」


 そう言って、女の子はどこかへと走り去った。

 これが俺とアリスの最初の出会いだった。

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