第41話 やられ役と負けヒロインは人に教えるのが得意です

 現在、Eクラスの勉強会が開催中です。

 さて、他のみんなはうまくできているだろうか。


「アリス様。ここが分かりません。教えてください!」


「いいよ。この問題はね。ピカっと閃くんだよ。後はビシっと答えを書くんだ!」


「…………」


 アリスの解説を聞く信者の方々は、絶句している。俺も一瞬、口が開いた。

 そうか。アリスは『主役』の力で100点を取っている。

 普通に勉強するよりも、自身の特性を強化した方が点数は伸びるんだ。


 これも主役流の立派な戦法である。

 だがそれは主役であるアリスだけができる戦法。他の人がそれを真似するのは不可能だ。


「アリス様、ごめんなさい。分かりません。私たちは無能なのです。ううっ」


「うわっ。ご、ごめん! 私の教え方が悪かったよ。ちょっと待ってね。もう一度分かりやすく教えるよ!」


 落ち込むファンに責任を感じるアリス。教え方を変えようとしているが、難しいようだ。

 才能のある人間が才能のない人間に教えるのは、相手の気持ちが分からないのでうまくいかないことが多い。


「鎌瀬君、分かりやすい。教えるのうまいね」


 俺が別の生徒を教えていると、お褒めの言葉をいただいた。俺の教え方は評判がいいらしい。


「へえ。かーくんって、教えるのがうまいんだ」


「教えるのがうまい訳じゃない。効率よく点数だけを取る戦法を教えているだけだよ」


 学校のテストの場合は、やり方次第で、頭が悪くても点数を取る方法はある。

 コンセプトは『意味は分からなくても、答えだけ分かるようにする』だ。

 もしくは『いかに楽に高得点を取れるか』でもいい。

 具体的に言うと……


「ねえねえ。他にも、バレないカンニングの方法を教えてよ」


「ふふふ。よかろう」


 カンニングです。これぞクズ君流の教え方である。


「ってカンニング!? 鎌瀬君、それは卑怯じゃないか?」


「いいの。やられ役は手段など選ばないのだ」


 ちなみにこの方法は自分では使えなかったりする。やられ役の能力のせいか、俺がカンニングをしても絶対に見つかるらしい。


 リスクを考えると、カンニングも有効な作戦ではない。カンニングにも才能が必要だ。

 苦手なタイプに下手に伝授してしまうと自滅する。

 今教えている子は、ちょうどカンニングが得意そうだったので、教えただけだ。


 もちろん、カンニングが苦手なタイプには、別の必勝法も用意してある。

 今まで様々な戦法を編み出してきたから、戦略の種類には困らない。


 やられ役は悪知恵が得意だ。基本的にはその小細工が裏目に出て負けてしまう。

 しかし、逆に言うと戦略のバリエーションは、普通の人よりも非常に多い。

 つまり、色々なやり方を人に教えることが可能だ。


 俺自身はやられ役なので絶対に勝てない。

 だが、そんな俺でも『人に教える』という部分に関しては、特に制限がない。


 誰かと勝負しているわけでも、勝ち負けを決めているわけでもないからな。

 むしろ負け続けてきたからこそ、うまくいかない人の気持ちもよく分かるのだ。

 これはやられ役の意外な才能を発見してしまったかもしれない。


「よし、みんな。分からない奴は俺が全部教えてやるぞ。どんな奴でも大歓迎だ!」


「うおおおっ!」


 皆の目が一斉に輝く。

 ついにやられ役が英雄になる時が来たか!?

 と思ったのだが、集まってきたのは少数であった。全く英雄ムードじゃない。

 なぜ誰も俺の元に集まってこないのか。


「私はアリス様に教わりたいな」


「私は優斗君がいい!」


 ほとんどがアリスと優斗の周りに集まっていた。ああ、主役補正のせいか。

 確かに『本人の好み』というのも大事な要素の一つだ。好きな人から教わった方が身につく。


 あるいはやられ役に教わるのはプライドが許さないという人もいるだろう。

 結局、俺は英雄になることはできないらしい。やはり、俺にはやられ役がお似合いか。


「ねえ、かーくん。私たちも一緒に勉強しようよ。自分の勉強も必要だよね?」


「そうだな」


 俺たちが悪い点数を取ってしまったらシャレにならない。ここで一度自身の強化に努めるか。


「ふふ、やった。かーくんと一緒に勉強だね」


 サチと二人きりは久しぶりな気がする。

 まったく、俺たちは同盟だってのに最近は活動をサボっちまってるか?

 昔はこうしてよく一緒に勉強をやっていたものである。


「しかし、俺たちっていつも目立たないよな。お前も悔しいんじゃないか?」


 サチの様子もちらりと見ていたが、実は俺以上に教え方が上手であった。

 気遣いの天才であるサチにはさすがの俺でも敵わない。

 だけど『地味』である彼女は誰もその事に気付かれないのだ。


「私は別にいいよ。自分が地味なのを嫌だと思ったことは無いんだ」


「そうかのか?」


 そういえばサチが自分の地味さについて文句を言っていたのを聞いたことが無い。


「私、普通じゃないし。目立ったら、きっと嫌がらせとかされるようになると思う」


「ああ、そういえば、そんなこともあったな」


 まだサチが負けヒロインでもなかった時だ。

 好みが普通の人とは違うから、周りから浮きやすかったんだよな。

 だから、下らんいじめの対象となって、それを俺が助けようとした事もあった。

 俺がいじめを許せなくなったのも、その時からだ。

 今はそういう事も無くなった。それなら『地味』はサチにとってむしろありがたい能力なのかもしれない。


「かーくんに思いが届かないのだけは悔しいけどね。ふふ」


 俺に聞こえていないと思っているサチは、自嘲気味に天井を見上げて笑った。


「でも、かーくんは人気者になった方がいいと思うな。その方が似合っている。最近はモテて来たから嬉しいでしょ?」


「どうだかな」


 ま、一つ言えることは、皆と関わる事で発見は多かった。

 俺の『人に教える』って能力もその一つだ。まだまだ俺も成長できることが多い。


 本来は嫌われるはずのやられ役がどうしてこうも皆に好かれているのかは分からない。だが、これはチャンスであり、せっかくの機会だ。

 今のうちに色々と出来ることを試させていただくとするか。


「酷い! どうして、そんな言い方するの!」


 そんな時、一人の女子の叫び声が耳に入った。

 これは……トラブルの予感だ!

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