第40話 Eクラスの勉強会
格上であるAクラスとテストの点数で勝負することになった俺たち。
「よし、それじゃあ、みんなで勉強会をするよ!」
アリスの掛け声で、クラスの全員が集合した。Eクラスの集結である。
今回はいつもと違ってチーム戦。すなわち、俺だけが勝っても意味はない。
逆に言うなら、俺が負けても周りが勝てば、それは『勝利』と言える。
つまり、この勝負に勝てば、退学を免れるだけでなく、因果が歪む可能性も高いのだ。
俺にとっても重要な意味を持つ勝負だ。なんとしてでも勝ってやろう。
「では解説するぞ。最も優秀とされているAクラスは、やはり頭がいい。奴らの平均点は90点だ。我々はこの点数を超えねばならない」
解説者の話によると、Aクラスの平均点は当然ながら高いようだ。
この劣等クラスで勝つためには、かなり高度な戦略が求められる。
「とりあえず、点数が高い奴を集めようぜ。そいつらの周りに勉強の苦手な奴を振り分けて、みんなで勉強するって作戦でいいんじゃないか?」
「うむ、そう来ると思って、前回のテストのEクラス点数表を作っておいたよ」
解説者から点数表を受け取る。
こいつ、用意がいいな。意外と有能らしい。
「アリスが100点。俺は99点。他に90点を超えているのが、サチとコミュ障ちゃんと解説者にひねくれ女子か。それに優斗と愉快なヒロイン達だな。このあたりで勉強が苦手な人達を教えていこう」
「誰が愉快なヒロインじゃ!」
仙人系美少女ヒロインに睨まれた。
だってこんなに個性的だから、愉快なヒロインとも言いたくなる。
……人のことは言えないけど。
「なんであたしがそんなことをしなくちゃいけないの? 馬鹿の相手なんて、ごめんよ」
「今は力を合わせないといけないでしょ。みんなが困ってるんだよ!?」
「なにそれ? 困っている人を助けないといけない、なんて法律はないよね?」
「な、なによ! その言い方!」
ひねくれ女子が他の子と喧嘩してる!?
「まったく……なんでも法律に当てはめるなんて、本当にひねくれているな」
「いや、君もよく似たようなことを言ってるよね!?」
確かにアリスの言う通りである。やはり俺はひねくれ女子と思考が似ているようだ。
仕方ない。俺が説得するか。
「まあ、待て、ひねくれ女子。お前は頭がいいからな。手伝ってくれたら、助かるんだ」
「でも、私に手伝う義務なんてない」
「そうだな。じゃあ、お前には仕事として頼もう。今日一日、クラスの奴らに勉強を教えてやってくれ。バイト代は一万でどうだ?」
この手のタイプに精神的な無理強いはよくない。『仕事』という名目で頼めばいい。
「一万って……お金はどうするのよ。クラス全員でかき集めるつもり?」
「アホ。俺にそんな人望があるか。俺が全額負担するんだよ」
「クズのあんたが全部出すの? なんで? クラスの為?」
「俺自身の為だ。それと……俺はお前の力を借りたいんだ。お前じゃなくちゃダメなんだ」
真っ直ぐにひねくれ女子の顔を見つめる。
俺に見つめられたひねくれ女子は目を逸らす。
「は、はあ? 意味分かんない。まあいいわ。そこまで言うなら、手伝ってやるわよ」
「ありがとな。嬉しいよ。じゃあ、報酬は前払いでいいか?」
俺は財布から一万円を取り出して、ひねくれ女子に渡そうとする。
「ね、ねえ。無理にあんたが一人で払う必要はないわよ。あんたやられ役のクズだし、普段から酷い目にあっているんじゃないの?」
「そうだな。でも、俺はお前が手伝ってくれて嬉しいんだ。だから、受け取ってくれ!」
「な、何言ってのよ。もう……いいわよ。お金無しで手伝ってやるわよ」
「本当か!? ありがとう!」
俺は目に涙を滲ませて、ひねくれ女子に感謝の言葉を送った。
「……まったく」
顔を赤くして勉強の準備を始めるひねくれ女子。とりあえず手伝ってくれるようだ。
もちろん、これは全て俺の作戦である。
最近はずっとクラスの奴らを観察していたので、ひねくれ女子がどんな性格をしているのかは把握していた。
ひねくれ女子はひねくれているだけで、実は結構いい奴だったりする。さりげなく困っている人を助けている場面も何度か確認済みだ。
それでも普段はひねくれているイメージのせいで、周りからは印象が悪い。だからこそ、彼女は毎日寂しい思いをしていたはずだ。
間違いなく、心の中では必要とされたいと思っている。でも、ひねくれているから、普通に頼んでもつい断ってしまう。
逆に言うなら、ちょっと捻れば簡単に動いてくれるのだ。本人も実は自分が動くきっかけを求めているからな。
さらに『ひねくれている』という『能力』のせいで『善意』を押し付けられると、突っぱねてしまうという特性もある。
無理やり金を渡そうとすれば、受け取らないのは想定済みだ。
「ふっ、計算通りだな」
「うわあ。こいつ、本当にクズだ」
代償にクラスのほとんどから軽蔑した目で見られてしまいました。恩知らずな奴らめ。
「とりあえず、勉強会を始めるぞ」
「ふふ、がんばるがいい。これも試練だ。今日一日は自由にみんなで勉強したまえ」
勉強会が始まった。先生の計らいで、今日一日は特別に授業の時間を勉強会に当ててもいいらしい。
「あー。まずコミュ障ちゃんは喋れないから、教えるのは無理か」
俺の言葉を聞いたコミュ障ちゃんは、両手を合わせて思いっきり頭を下げていた。
誰でもわかる『ごめんなさい』の意だ。
残念ながら、コミュ障ちゃんに誰かを教えるのは不可能だろう。
となると、残りで教えていくしかないか。
それぞれの勉強の様子を確認してみる。
「あのね。解説者ちゃん? 説明が長すぎて、逆に分からないよ」
「そうか。では、もう一度最初から詳しく説明してあげよう。よく聞いてくれ」
解説者の返事を聞いた子は、げんなりとした表情となる。そりゃそうだ。
解説者は頭がいいのだが、彼女はとにかく説明が長い。
あまりにも詳しく説明するので、要点の整理が全くできない。全てにおいて、一から十まで説明するようだ。
しかも、五分で終わるような部分に、一時間くらい時間をかけて説明している。
これでは明日のテストに間に合わない。詳しく解説するその能力が仇となったか。
「さ、教えてもらおうかな。一つ教えてもらう度にあなたの頭を踏んであげればいいのね?」
「いや、いいから。普通にしろ、普通に」
俺の担当する相手はドSの紫苑である。
常にSMプレイに持っていこうとするので、勉強どころではない。
まだ俺を犬にするのを諦めていないようだ。
「変更だ。お前は教える側に回れ。成績は悪くないんだし、そっちの方が合っている」
「分かったわ。相手が問題を解くたびに、頭を踏んであげればいいのよね?」
「違うっつーの! ちょっと、そういうのから頭を離せ!」
このドS、一回自分の頭を踏んでおけと言ってやりたい。
「お姉さま、ではこのミミを教えてください! 問題が解けたら、たくさん踏んでくださいね!」
「ふふ、いいわよ。じゃあ、この問題の答えは分かる?」
「分かりません」
「ダメな子ね! お仕置きよ!」
「ああん! いいです! お姉さまぁぁぁ!」
ダメだこいつら。勉強がいつの間にかSMプレイになってやがる。
勉強している時に限って、気晴らしで漫画なんかを読むと、それがなぜか面白くて、ついつい読みふけってしまうという事がある。
この人達の場合は、恐らくSMプレイがそれに該当するのだろう。心なしか、いつもよりノリノリに見える。
ちなみにこのクラスで一番成績がヤバいのはボマーちゃんとミミである。二人共平均が10点台だ。
この二人を何とかしないと勝ちは難しい。
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