第39話 やられ役、ブーメランを放ってしまう

 意気揚々とEクラスに強襲してきた生徒会長だが、アリスによって論破されてしまった。


「ほら、生徒会長。謝りましょう?」


「……うう」


 さすがの生徒会長もAクラスの人達から言われると弱い。身内には逆らえないらしい。

 そもそも、Aクラスは生徒会長自身が最も優秀だと判断した人たちの集まりだ。

 Aクラスを否定することは、自らを否定するのと同じである。それは彼女も望まないだろう。


 この生徒会長。何気に人を見る目だけは確かなんだよな。

 本人はちょっとアレだけど。


「ダメよ。どうしても、Eクラスが許せない!」


「だいたい、なんでそこまでEクラスを敵視するんだよ」


「それはね。貴方たちEクラスの誰かが、私の妹に『いじめ』をしたからよ。そのせいで妹は深く傷ついたわ!」


「なんだと、いじめ!?」


 その言葉を聞いて、俺は怒りが込みあがってきた。そういう事だったか。


「なるほど、確かにあんたの言い分も一理あるようだ。いじめだけは許してはならない」


 俺はクズ君だが、人として絶対に許せないことがある。

 それがいじめだ。

 人をいじめる奴なんて、そいつはクズ以下だ。人ですらない悪魔である。


「だからEクラスを憎んでいるのか。でも、無差別に退学させるのはやりすぎだ。俺たちが犯人を見つけ出して、そいつを断罪する。それで手打ちにしないか?」


「貴方たちが妹の仇を取ってくれるってこと? Eクラスにもまともな奴がいるのね」


「ああ、身内のゴミは、同じEクラスの俺たちが処分する!」


「かーくん。怒ってるね」


「当然だ。俺はいじめだけは絶対に許せない。アリス、犯人を見つけたら、問答無用でそいつに雷を落とせ!」


「えっ? でも話くらいは聞いてあげてもいいと思うんだけど……」


「いじめをする奴の言い訳なんて聞く必要はない。そういうのがいじめ助長に繋がるんだよ」


「わ、分かったよ。君がそこまで言うなら、そうするよ」


 同じEクラスだろうが、容赦はしない。いじめをする奴は滅する。

 そして俺は犯人には心当たりがあった。

 そいつに向かって勢いよく指を指す。


「紫苑、お前が犯人だな。観念しろ!」


「いや、Aクラスの子には手を出していないわよ。それに私がいじめた子は、それが幸せとなるはずよ。傷つくなんて、あり得ないわ」


「……む」


 それはそれで恐ろしい気もするが、言っている事は間違っていない。

 どうやら紫苑が犯人では無いらしい。


「生徒会長。誰が犯人なのかは、分かっていないんだよな。Eクラスで間違いないのか?」


「ええ、間違いなくEクラスの奴よ。妹がそう言っていたわ。私はあなた達が全員で、あの子をいじめたと思っているけどね」


「それはない。といっても信じてもらえないか。とりあえず、妹さんの証言を聞いた方がよさそうだな。妹さんのことを教えてくれ」


「いいわ。私の妹の属性は『支配者』よ。クラスはAクラスね」


「…………ん?」


 支配者? なんか最近、そんな名前の属性を聞いたことがあるような……。


「あの日、支配者の属性を持つ妹は、泣きながら家に帰って、こう言ったのよ。『Eクラスのクズのような奴にいじめられた』……と」


 ……………………あ。


「それが犯人の手掛かりよ! さあ、このクラスにクズのような奴がいたら、教えて頂戴!」


 その言葉を聞いたEクラスの皆は、一斉に俺を見た。


「どうしたの? 全員でこいつのことを見て……ん? クズのような奴……」


 生徒会長も、まじまじと俺の顔を見る。


「お前かぁぁぁぁぁ!」

「ちょっと待てぇぇぇぇ!」


 俺と生徒会長の叫びが重なった。


「見た目でクズと決めつけんな! ……いや、正解なんだけどさ」


「やっぱり、あなたが妹をいじめていたんじゃない! このクズが!」


「いや、あれは仕方ねえだろ! なあ、アリス?」


「……え、えっと。確か、問答無用で雷を落とせばいいんだっけ?」


 アリスがオロオロしながら、俺に手を向ける。


「待て待て待て! ちょっと、話を聞け!」


「いじめをする奴の言い訳は聞いちゃダメ……それがいじめの助長に繋がる」


 虚ろな目のアリスがブツブツと呪詛のようにつぶやいている。

 しまった! 何気に俺の言葉がブーメランになっていた!

 クズ君ではよくある事です。

 でも、今回はマジで勘違いだからね! 確かに印象は良くなかったけどさ!


「あれはいじめじゃねえよ!」


「出たわ! いじめっ子の言い訳よ! 『いじめているつもりは無かった』これぞ、よく見るいじめ側の苦しい主張ね! クズめ!」


 まるで話を聞く様子は無い。あれは支配者の方から仕掛けてきたことなんだけどな。


「は!? コホン、鎌瀬君の言う通りだよ。あの件については、Eクラスを支配しようとした支配者に問題があると思う。彼は自分の身を守っただけだよ」


 我に返ったアリスが俺に向けていた手を降ろした。

 よかった。なんとか正気(?)を取り戻してくれたか。


「なんてこと……いじめを正当化するなんて。やはり貴方たちEクラスは最低のクラスね」


「ま、まあ、生徒会長、落ち着きましょう。支配者ちゃんも、いい経験になったと思います。あの子、少しわがままな部分があったし」


「納得がいかないわ。どうしてもというなら、Eクラスも優秀だという証拠を見せなさい」


「見せなさい、と言われても……どうすればいいんだよ」


「そうね。じゃあ貴方たちEクラスが、Aクラスに勝てばこのクラスの存続を認めるわ」


 ……結局、戦いですか。


「ふーん。いいよ。じゃあ、勝負だね。さ、かかって来なよ」


 両手を広げるアリス。

 悪いが生徒会長、主役がこっちにいる限り負けはないぞ。

 あんたも懲りない人だな。


「何を野蛮なことを言っているのよ。勝負と言っても暴力じゃないわ。テストの総合得点で勝負よ」


「む?」


 その言葉を聞いて、俺は危機感を覚える。

 これはまずいんじゃないだろうか。


「AクラスとEクラスの全員の平均点で勝負よ! 平均点の低い方を負けとするわ」


 そうして、生徒会長はアリスを見て、ニヤリと笑う。


「ふふ、貴方は100点をとるだろうけど、周りはどうかしら? 主役一人に頼るせいで周りがどんどんダメになる。そうなれば、貴方たちのクラスが不必要だと証明できるわね」


 ち、この生徒会長。流石というべきか、意外と考えてやがる。

 確かの『クラスの平均点』で勝負なら、分が悪い。

 主役であるアリスは『本人が勝つ』という能力を持っているだけで、周りはその影響を受けない。


「ん?」


 その時、小悪魔が俺に耳打ちしてきた。


「ね、先輩。それなら、私たちがわざと負けてあげましょうか?」


 そうしてウインクをする小悪魔。俺たちの味方をしてくれるという訳か。

 これはまさに渡りに船! わざと負けてくれるんなら、そうした方がいい。

 少し屈辱的かもしれないが、クラスの存続が掛かっているこの状態で、プライドなんて気にしている場合じゃない。


「よく言った。俺に相談したのは、分かっているじゃないか」


「ありがとうございます。でも、先輩。私を信じてくれるんですか?」


 確かにこれが罠だという可能性もある。

 『小悪魔』の属性から持ち掛けられた同盟なんて、疑うのが当たり前だろう。

 だが……


「ああ、お前のことはよく見ていたからな」


 俺はあれから小悪魔のことをよく観察していた。

 どうやら自身が言う純粋というは本当らしい。

 この前は、捨て猫に餌をあげているのも目撃した。それがいいか悪いかは別として、純粋なのは間違いない。


「小悪魔の私を信じるなんて、先輩もお人好しですね」


「ま、別に騙されても別にリスクは無いからな。使えるもんは使う」


 これが罠だとしても、特にやることは変わらない。どちらにせよ、勉強はするつもりだ。


「ふふ、本当に変な人。でも嬉しいです。私、信じてもらえたのは初めてです」


 嬉しそうに笑う小悪魔。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 え? 泣いてる? そこまで純粋なのか? 小悪魔なのに……。

 普段からこの子は勘違いされて、皆から勝手に想像の性格を押し付けられていたのかもな。

 属性と性格は、必ずしも一致するわけではないかもしれない。

 でも、こんなところで泣いているとまずいぞ。


「ちょっと! 何やってるの? まさか裏切るつもり!?」


 やっぱり、生徒会長に気付かれてしまった。


「あ……しまった。ご、ごめんなさい」


 慌てて謝る小悪魔。その後、ちらりと俺の方を見て手を合わせる。

 生徒会長に謝っているのではなく、聞かれてしまって作戦を実行できなくなった俺に対する謝罪でもあるようだ。


 もう、この作戦は使えないか。

 普段なら、こんなミスはしなさそうな小悪魔だが、今回は感極まって話を長引かせてしまったせいで失敗してしまったらしい。


「そうね。勝負は正々堂々としようよ!」


「ふふふ。面白い。これぞ試練に相応しい!」


 いつの間にか話を聞いていた先生とアリスはやる気満々だ。

 正方向で勝てればいいが。


「じゃあ。テストは明日よ。いいわね?」


「明日かよ!」


 これでは対策も満足にとれない。

 やばい。Eクラスのみんなって頭良かったっけ?


「よーし。みんな、頑張ろう。全員の力で勝利を勝ち取るんだ。オー!」


 クラス全体が手を上げる。


「あはは、まあ仕方ないね。かーくんも一緒にがんばろ? オー!」


「……おー」


 俺一人が覇気のない返事で手を上げていた。

 果たして、学園で最も優秀と言われるAクラスに、テストの点数で勝てるのだろうか?

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