第38話 主役はテストでも絶対に勝ちます
支配者の襲撃から三日。まだ俺は誰にも勝利することができていない。
今度はちょっと別方面から攻めてみよう。新しい作戦の開始だ。
「サチ。今度こそ、俺はアリスに勝てるぞ」
「おお! ほんと?」
「ふっ。また小細工を思いついたようだね」
興味津々のサチと、楽しそうな目をしている解説者。
「テストの点数で勝負すればいいんだよ。テストは最高の値が『100』だからな。今回は猛勉強したので、俺の自己採点は100点だ!」
テストの点数で勝っても『勝利』という課題は達成できるんじゃないだろうか。
「なるほど。テストだけはあくまで自分がとった点数。つまり、対戦相手は答案用紙というわけだね。人には勝てない君だが、答案用紙に負けることはない」
テストで100点を取れば、負けにはならない。アリスの点数がどれほどか知らんが、100点より上は無いだろう。
同点の可能性はあるが、かなり勝率は高いと言える。
「今回は、今から帰って来るテストの結果で勝負だ。アリス、いいな?」
「ふふ、いいよ。たまにはこんな戦いもありかもね」
相変わらず自信満々のアリス。学力にも自信があるようだ。
「では前回のテストの答案をを返すぞ」
ちょうど、先生が到着して皆にテスト用紙を返却していく。自己採点では確実に100点だ。
「んっ!?」
しかし、返してもらったテストを見て俺は驚いた。なんと99点だったのだ。
「馬鹿な、一つ空欄がある!?」
明らかに書いたはずの答えが消えていた。ひょっとして、これもやられ役の能力?
嫌な予感がして、アリスの答案に目を向けた。
「アリス。お前は何点だ?」
「ふふふ……100点だよ♪」
普通に100点だった。
「お前、頭良かったのか……」
「えっとね。よく分からないけど、答えが勝手に頭の中で閃くんだよ」
「なんだそりゃ!? それも主役の能力か?」
「うむ、そのようだな。アリス君は全ての問題を直感で書いても、正解となるようだ」
解説者が嬉しそうに語る。テストでも主役の能力は発揮されてしまうらしい。
「ち、そういう事か。だが、俺の答えが消えてしまったのはなんでだ?」
「どうやら、それもやられ役の能力のようだ。鎌瀬君が勝負をした瞬間、正しい答えを書いても、因果が捻じ曲がって答えが空欄へと変化してしまうのだ。逆に相手は因果の力で自然に100点となるんじゃないだろうか」
「なんだよそれ。じゃあアリスに限らず、俺はテストでも誰にも勝てないって事か。あと、何を書いても正解になるなんて、アリスは反則だろ」
「そうだね。彼女の属性のレベルは『チート』だからね」
「なに!? やっぱりアリスはチーターだったのか!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。どういうこと? 私、そんなの知らないよ?」
チーターと呼ばれて慌てるアリス。本人は至って普通のつもりらしい。
「属性にはランクがあってな。アリス君は勝利という『因果率』を操作できる能力なので、最高ランクなのだ。この呼び名が『チート』だな」
「……なるほど、公式にチーターだったんだな」
「ちなみに鎌瀬君。君も最高レベルの『チート』に属するんだぞ」
「はあ!? 俺がチーター!?」
「なんだ。君もズルしているんじゃないか」
アリスに睨まれる。他人を散々チート扱いしていた俺がチーターだと!?
「やられ役のどこがチーターなんだよ!」
「やられ役だって『因果律』を変化できる能力だからな。絶対に勝てる勝負でも、どんなに弱い相手でも、無理やり『負け』という運命にすることができる。因果に干渉できるという部分で考えると、やられ役も主役と同じ最強レベルなのだよ」
「…………嬉しくない最強だな」
例えるなら、絶対に誤爆する最強の爆弾ってとこか。使えないにもほどがある。
『ピコン。あなたは100点のやられ役ポイントを得ることができました♪』
そうしてアリスに負けることでポイントをゲットした。ポイント稼ぎだけは順調である。
やはり、ポイントの課題をコツコツと進めていくのが、一番有効かもしれない。
「うーん。本当にアリスちゃんは凄いよね。アリスちゃんに勝てる人なんているのかな?」
「それがだな。実は『主役』でも負けると言われている属性も存在するのだ」
「おいおい、本当か? どんな属性だよ」
「……私も気になる」
俺とサチ、そしてアリス本人も解説者の意外な言葉に興味を惹かれた。
「それはな。『破壊王』と呼ばれる属性を持った奴だ。あまりに危険な属性だから、今は封印されているらしい」
「封印……か」
「ああ、主役を倒せるレベルの危険な奴は、家族の許可を得ることができた場合に限り、神様が封印するらしい。その封印を解けるのも、家族だけだとか……」
以前、代理ちゃんが言っていたような気もする。
危険だから封印される……か。本格的に危ない奴なんだな。
しかし、その破壊王って奴は最強の主役ですら倒せるのか。どんな奴なのか気にはなる。
「ここがEクラスね!」
その時、勢いよく教室の扉が開いた。
そして教室に入ってきたのは、長い黒髪を靡かせた清楚な美少女だ。
清楚であると同時に、少しきつい印象も感じられた。
誰だ? こいつ。
「おや、生徒会長殿ではないか」
解説者の言葉で分かった。こいつがあの生徒会長か。
Eクラスを敵視しているんだっけ?
「ちなみに生徒会長の属性は、言うまでもなく『生徒会長』ね」
分かりきったことを自慢げに語る解説者。そりゃそうだよな。
つまり、目の前にいる彼女は生まれながらにしての生徒会長だってことだ。
そしてその生徒会長の後ろには、育ちの良さそうな生徒がズラリと並んでいる。
高級感溢れる制服……こいつらはAクラスの生徒か。生徒会長の護衛だろうか?
「あ、先輩だ! やっほー!」
小悪魔が手を振ってきた。こいつもAクラスだったな。
生徒会長が鋭い目つきでEクラスに向かって口を開く。
「貴方たちEクラスの生徒は、今日で全員が退学よ!」
「はあああ?」
突然の退学宣言にクラス全員が声を上げる。
退学はまずい。非常にまずい。
なぜなら退学になってしまうと、ポイントの支給が無くなってしまう。
今、一番好調な課題が『やられ役ポイント百万』だ。
退学になって、これを封じられてしまうと、課題達成が不可能になる。
それはつまり『死』に繋がる。
「意味わかんねえよ。理由を言え」
「ふん。退学の理由は簡単よ。Eクラスは全員普通じゃないわ。この学園の恥さらしよ」
「普通じゃないのは認める。だが、変わっている事が罪だなんて法律は存在しない」
「おお! 鎌瀬君、いいことを言うな!」
俺の言葉にEクラス全員が感動していた。
いいぞ。流れが俺に向いている。
「なにそれ。気持ち悪い。だから、Eクラスは学園の恥じなのよ」
しかし、目の前の生徒会長はこの意見を認められないらしい。
「生徒会長。一つ聞きたいことがあります。なぜ、アリス様がEクラスだったのですか?」
アリスファンの一人が生徒会長に尋ねた。俺もずっと気になっていた部分だ。
「私たちが退学なのはいいです。でも、アリス様が退学なんて、おかしいです!」
涙ながらに訴えるファンの皆さん。
うわ、凄くいい奴らだ。俺なんて自分の事しか目に入っていないのに……。
「ふざけないで。主役こそが一番の害悪なのよ!」
「害悪? どういうことだ」
「主役のせいで、他の人はみんな脇役になる。主役がいるから、周りは誰も輝けない。彼女は人に迷惑をかけている存在よ」
生徒会長の目には憎しみが宿っていた。つまりは嫉妬か。
「なんでもうまくいくからって、勝手にチーター扱いしているって事か。醜いな」
「……あんたも普段は散々言っているけどね」
相変わらずツッコミの鋭いひねくれ女子。
「そうだ! 僕もハーレム主人公だからって、Eクラスなのはおかしい!」
ここぞとばかりに優斗も乗り出してくる。
「いや、あんたは妥当でしょ? 犯罪者だし」
「なんでだよ!」
ちなみに優斗君は女の子が着替えている最中に更衣室に乱入したり、事故でおっぱいを揉んだりした回数が、通算で100を超えている。
うん、犯罪者だ。
「逆らうなら腕ずくよ。私の後ろには最も優秀なAクラスの生徒がいるからね。さあ、Aクラスの生徒たちよ。こいつらを少し痛い目にあわせてやりなさい!」
生徒会長がAクラスに命令する。最強のAクラスを使って俺たちを粛清するつもりか!
「え~。嫌ですよ。私はEクラスの人達が好きです」
「無理やりは、さすがに気が引けます」
「退学なんて、可哀そうだよね。人はそれぞれ違うからいいんだよ」
と思ったら、小悪魔を始めとしたAクラスの人たちは、生徒会長の命令を拒否した。
おいおい。こいつら、めちゃくちゃいい人たちじゃねえか!?
「こ、こら。私の言う事を聞きなさい!」
「まあまあ、ちょっと落ち着きましょうよ。生徒会長」
むしろ逆に生徒会長が宥められている。Aクラスの皆さんは良識を兼ね備えているようだ。
さすが優秀で育ちの良いAクラスである。ここはEクラスも見習わねばいかんな。
「私もさすがにこんな理不尽には納得できない。でも、力ずくなら望むところだよ」
ギラリとアリスが生徒会長を睨む。
「な、生徒会長の私に逆らうつもり? 私はこの学園で一番偉いのよ!」
「関係ないよ。偉くても、『悪』なら私が裁く!」
アリスに睨まれた生徒会長は恐怖のあまり凍り付く。
主役に睨まれてしまってはどうしようもない。この学園では生徒会長などより、主役の方が圧倒的に格は上なのだ。
きっとこの生徒会長は、そこが許せなかったんだろうな。
「生徒会長。主役のアリスさんが相手なら、Aクラスの私たちでも勝てませんよ」
言われてみればそうだ。主役であるアリスがいる時点でこちらに負けはなかった。
さすがAクラス。よく分かっている。彼女らは頭もいいようだ。
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