第33話 色々な人に絡まれるやられ役
俺は最近はコミュ障ちゃんともよく絡むようになった。
元々洞察力には自信があったが、コミュ障ちゃんと話しているうちに、それがさらに高まった気がする。
これはいつか何かの役に立つかもしれない。
それから、しばらくコミュ障ちゃんと二人で勉強をした。
話すのは一方的に俺だ。
まあ、教えるだけの作業だし、俺は静かなのは好きなので、特に気まずさはない。
「今日はここまでにするか」
「…………りがと」
『ありがとう』ね。
「こっちこそサンキューな」
「……?」
突然礼を言われて、コミュ障ちゃんは首を傾げた。
「いつも一番早く教室に来て、花瓶の水を変えてくれたり、教室の掃除してくれたりしてるだろ?」
実は彼女は見えないところで、色々とクラスの世話をしてくれている。
コミュ障ちゃんは会話が苦手だが、そういった配慮は人並み以上にできるようだ。
それなのに属性のせいで、コミュ障ちゃんの善行が目立たないのは、納得がいかない。
何人かは彼女のことを暗い性格だとか、愛想のない人間だとか言っているのも耳にした。
それは許せん。
コミュ障ちゃんと勉強するうちに得た洞察力で、彼女の善行を知ることができたことだし、俺くらい礼を言ってもいいだろう。
「……っ!」
礼を言われたコミュ障ちゃんは顔を真っ赤にして走り去っていった。
どういう反応だ?
今回は流石に何を考えているのか分からなかった。
「せんぱーい! 遊びに来ちゃいました♪」
突然の衝撃。そして柔らかい感触。
今度はなんだ!?
いや、考える必要は無い。
『小悪魔』の属性を持つ女の子に後ろから抱き着かれたのだ。
姿は見えなくても、手のカラフルなネイルを見れば、誰かは一発で分かる。
小悪魔……たくさんの男を惑わすことが生きがいの恐ろしい後輩だ。
人懐っこいが、その氷のような冷たい三白眼が彼女の性格を表現しているように見える。
「だから俺じゃなくて、優斗の所に行けって」
「え~。やられ役に行くのが楽しいんじゃないですか~」
クラスはなぜかAクラス。
属性の能力としては優秀だとカテゴリーされているようだ。
しかも最上級で飛び級でもあるAクラスの女子が、最底辺のEクラスで、さらにその中でも一番ランクの低い俺を慕ってくる珍事が発生している。
彼女がモテモテのハーレム主人公の所へいかないのは、ド底辺のやられ役が一番惑わしやすいという判断だからのようだ。
「人をからかうのもたいがいにしろよ?」
「私は本気ですよ。やっぱり先輩も私を信じてくれないんですか? 私が小悪魔だから?」
目を潤ませて俺を見てくる小悪魔。
ちょっと嘘泣きっぽい気もするが……。
「ふう、ま、いいです。じゃあ、生徒会長に呼ばれているので、私は失礼します。先輩のことは絶対に諦めませんからね!」
そう言って教室を出て行く小悪魔。
また生徒会長に呼ばれていたのか。
俺なんか無視して、別の男を落としに行ったらいいのに……。
「鎌瀬君。ちょっといいかしら」
次は『ドS』の属性を持つ紫苑が話しかけてきた。
おいおい。どうなってんだ?
今日一日で、どれだけ女子に話しかけられるんだよ。
去年なんか、一年かけても、サチ以外の女子と会話したのは数えるほどだぞ。
今日だけで、去年の一年分よりも多く女子と会話をしている気がする。
「鎌瀬君。貴方に……お願いがあるの」
よく見ると、紫苑の顔が青い。体調が悪いようだ。
……大丈夫か?
そんな紫苑は俺に向かった衝撃のセリフを口にする。
「お願い! 今日一日だけ、私の『犬』になってちょうだい!」
「…………は?」
予想の斜め上のお願いをされてしまった。
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