やられ役、モテ始める?

第32話 やられ役、興味を持たれ始める?

 前回の戦いから三日が過ぎた。

 学校はいつも通りの日常が戻っている。今は平穏な休み時間である。


 この前は頑張ったが、勝利することは出来なかった。

 どこかに俺を勝たせてくれるような奴はいないものかね。


「ねえ、鎌瀬君。私とキスをしない? ものすごく濃厚なやつ」


 そんな時、いきなりボマーちゃんが妖艶な笑みで語り掛けてきた。


「嫌です」


 俺は即決で断る。

 俺にフラれてしまったボマーちゃんはシュンと項垂れた。


「どうして? 私のキスはとても気持ちいいのよ。自信があるわ」


「死にたくないからです」


 彼女にキスをされてしまった人間が大爆発してしまうのは、すでに確認済みだ。

 前回の戦いから三日。あの恐怖の映像が記憶からなくなるには、まだ日が浅すぎる。


「本当に気持ちいいキスなんだけどな。特に相手が爆発した瞬間が最高に気持ちいいわ。私が」


「爆破する気満々じゃねえか」


 なぜか最近になって、ボマーちゃんは俺にばかり誘惑を仕掛けてくる。


「ふふ、ボマーちゃんに目をつけられてしまったみたいだね。鎌瀬君」


 いつの間にか俺の隣で、腕を組んで立っているのは解説者だった。

 前回あんなに解説したのに、まだ解説したりないのだろうか。


「君はやられ役だから、ボマーちゃんにとって、爆破しやすそうに見えるようだね」


「マジか。いい迷惑だな。俺なんかじゃなくて、優斗の所に行けよ。みんな大好きハーレム主人公だぞ。ちょうどリア充だし、爆発させるのならあいつが適任だろう」


「彼に興味はないわ。私は鎌瀬君が好きなの」


「簡単に爆破できそうだから?」


「うん♪」


 全く否定しない。むしろ目を輝かせている。

 本当にボマーちゃんの頭の中は爆発の事しかないようだ。


「ふっ。優斗君は主人公属性なので、爆発などの攻撃は当たりづらい。ボマーちゃんは手っ取り早く仕留められそうな鎌瀬君の方をターゲットにしているということだね。彼女の為に爆弾になってあげたらどうかね? キスをしてくれるらしいぞ」


「そんなもんで、人生を投げ捨ててたまるか」


「むー。つまんない」


 俺の爆破に諦めたのか、睡眠に入るボマーちゃん。危機は去ったようだ。

 ちなみに俺は口では強がっているが、実は内心ではものすごく我慢している。


 今まで女性経験が皆無な俺にとって、美少女であるボマーちゃんの誘惑はあまりに魅力的だ。抗うのには非常に大きな労力がいる。


 もはやこれは拷問に近い。

 これなら相手にされないほうがまだマシである。


「そういえば解説者。お前も最近、ずっと俺の周りにいるな」


「ふふふ。君がこのクラスに興味を持ってからまだ日が浅いからね。たくさん解説できそうだから、君の近くにいるんだよ。分からないことがあったら、何でも聞いてくれたまえ」


「でも、この前みたいに、余計なことを言うのは止めてくれよ?」


「う……。そ、そのことは忘れてくれよ。これでも気にしているんだからさ」


 申し訳なさそうな顔となる解説者。

 こいつの弱みを一つ握ってやったな。


「ん?」


 気付いたら、俺の隣に座っている少女がいた。

 彼女は『コミュ障』の属性を持つ女の子、コミュ障ちゃんである。

 本名は不明だ。


「また、勉強を教えてほしいのか?」


 俺の質問に、こくりと頷くコミュ障ちゃん。

 実は最近この子に勉強を教えるのが日課となっている。

 コミュ障ちゃんが悩んでいたところに、気まぐれでヒントを与えてやったのがきっかけだ。


 そして、その時から俺の苦悩の日々が始まった。

 コミュ障ちゃんは会話ができない。

 意思疎通が非常に困難なのだ。


「ここは分かるか?」


 頷くコミュ障ちゃん。分かるようだ。


「じゃあ、ここは?」


 首を振る。今度は分からないらしい。


「ここが分からないんだな。いいか。ここは……」


 こうして、身振り手振りで何とか教えている。

 だが、こうやって何度も勉強をしているうちに、コミュ障ちゃんの目を見るだけで、なんとなく彼女の考えることが分かってきた。


「なあ。俺なんかより、優斗に教えてもらった方がいいんじゃないか?」


「っ! (ブルブル)」


 全力で頭を振るコミュ障ちゃん。

 こんなやられ役に教えてもらっても、特に嬉しくないと思うんだが、違うのだろうか。


「……優……君……張……す……から……鎌……がいい」


 あー『優斗君は緊張するから、鎌瀬君がいい』かな。

 まあ、ハーレム主人公みたいな上位属性が相手なら、コミュ障ちゃんが緊張するのは当然だな。

 周りのヒロインたちの牽制とかもあるかもしれないし。

 まだやられ役と一緒にいる方が平穏か。


 ……今の会話でここまで想像できるなんて、俺もかなりレベルアップしたな。

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