第31話 主役VS炎使い

 絶対絶命の危機だったが、その場にアリスが現れた。

 よかった。なんとか間に合ってくれたか。


「ふう~やっと見つけたよ。『合図』ありがとね。おかげで場所が分かったよ」


 アリスはすでに一仕事終えたかのような顔をして、息をついている。


「ギリギリだったな」


 どうやら『仕込み』が上手くいっていたらしい。


「鎌瀬君、合図なんて送っていたのか?」


「ああ。わざわざでかい音を鳴らしていたのはそのためだよ」


「おお! そうか!」


 不思議そうな顔をしていた解説者の目が輝く。


「初めに小石を銃で撃ったのは脅しの為ではなく、大きな音を鳴らすためだったのか。そして爆弾による攻撃も、音と閃光で場所を伝えるのが目的だったのだな。全てはこちらの『位置』をアリスに教えるための作戦だったのだ!」


「解説、ご苦労。お前、本当に説明してる時は嬉しそうだな」


 今までのは勝つという目的に加えて、音を鳴らしてアリスに位置を知らせるという作戦を同時進行していた。


 俺の改造エアガンはとにかく音がでかい。爆弾の音も非常に大きな爆音だ。

 アリスがここに間に合うかどうかは賭けだったが、うまくいったようだ。


「よくも私の仲間を……。炎使い、君は許さないよ!」


「おお、アリスちゃん、かっこいい!」


 俺の仕事もここまでだ。後はアリスに任せよう。


「なんだてめえは? 女ごときが偉そうにしやがって」


 アリスの態度が気に入らないのか、炎使いが敵意をむき出しにしている。


「あれ? 私のこと知らないの? ダメだよ。犯罪をするなら、きちんと相手の勉強をしないとさ。ま、そっちの方が面白くていいんだけどね」


 敵と話をしているアリスもどこか嬉しそうだ。

 主役だけあって強敵との対峙は本人にとって喜びとなるのかもしれない。


「俺には嫌いなものが二つある。一つは情熱の無いからっぽの人間。もう一つは女だ。女は情熱を持たないクズのような生物だからな。特に偉そうな女は燃やし尽くす!」


 炎使いがその手に持っている炎をアリスにぶつけた。

 豪炎がアリスを燃やし尽くす。


「これが10000度の炎だ。調子に乗るからだよ。バカ女」


 最大級の火力。

 普通に見れば、これは確実に死んでいるが。


「なんだ。君の炎はその程度か。これなら、私の情熱の炎の方が上だよ」


 しかし、アリスは普通ではない。

 炎の中から平然とその姿を現した。

 どういう原理か服すら全く燃えていない。


 全ての攻撃を自動で回避する『絶対回避』。

 主役の能力の前では10000度の炎も通用しない。


「な、なんだ。お前、どうなって……ぎゃああああああああああ!?」


 アリスが手をかざした瞬間、特大の雷が炎使いに落ちた。

 黒焦げで倒れる炎使い。

 爆弾によるダメージもあったし、今度こそ完全に戦闘不能だ。

 その後に手慣れた手つきで炎使いを拘束するアリス。まさに一瞬の出来事であった。


「それじゃ、帰ろうか。みんな、お疲れさん」


 これにて解決らしい。

 アリスが来た瞬間、拍子抜けするほど簡単に終わってしまった。


 いや、これが普通なんだよな。

 本来ならアリスの活躍を黙って見ているだけでよかったのに、とんだ災難だった。


「よかった。かーくん、助かったね。怪我は大丈夫?」


「ああ、もう治ったよ。やられ役は怪我の治りが早いからな」


「さすがやられ役だ。まあ、私もたくさん解説ができて満足だよ」


 すっかりいつもの調子に戻った解説者。

 さっきのしおらしい態度は何処へ行ったのやら。


『ピコン。あなたは5000ポイントのやられ役ポイントを会得しました♪』


 ポイントの通知が来た。

 結構痛い目を見たから高ポイントが貰えたらしい。


 まあ、自爆までしたしな。戦利品は中々豪華だ。

 とりあえずはこれで良しするか。

 でも、しばらくは戦場に出るのはやめだ。危険すぎる。


「でも本当にみんなが無事でよかった。君が時間を稼いでくれたおかげだよ。ありがとう」


「いや、礼を言うのはこっちだろ。助けてもらったしな」


「そんなことないよ。やられ役の属性なのに、諦めなかった君の方が凄いよ」


 アリスから太陽のような笑顔を向けられて、つい顔を逸らしてしまう。


「うん。順調に好かれ始めている。よかったね、かーくん」


 サチは笑っていた。

 それは嬉しそうでもあり、どこか寂しそうでもあった。

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