第30話 かわいい女の子がグロく殺されるのは一定の需要があるのです

 自爆により、俺と炎使いの双方へ大ダメージが入った。


「痛てえ。これは、何度も使える方法じゃないな」


 ようやく、目の前が見えてきた。致命傷は避けられたようだ。

 やられ役の能力である高い耐久力と治癒能力がうまく働いたか。


「かーくん! 無事なの!? ねえ!」


 サチが目の前まで来て俺を揺さぶる。その目には涙が浮かんでいた。


「ああ、なんとか無事だよ」


「もう、心配させないでよ」


「まったくだ。これで死なれては、目覚めが悪いじゃないか」


 解説者も安堵の息をついている。微妙にさっきのことに責任を感じているようだ。


「解説者、炎使いの奴はどうなった?」


「そこで倒れているな。爆弾の直撃を食らったのだ。確実に戦闘不能だろう」


 さて、これで『勝利』したと判定されるのだろうか? 

 俺の自爆にたまたま相手が巻き込まれたという事なので、厳密には勝ったとは認定されないのかもしれない。


「て、てめえ……よくもやりやがったな! ぶっ殺す!」


 しかしその時、炎使いが起き上がった。

 こいつ、まだ動けるのか!


「くっ、相手が『炎使い』というのが悪かったようだ。奴は『熱』に対する抵抗力が高い。爆弾も熱による攻撃だからな。爆弾の攻撃は、炎使いと相性が悪い」


 やばい。もう爆弾はない。完全に手詰まりだ。

 もはや、勝利の検証どころではない。


 やはり俺では敵を倒せないのか。

 やられ役という属性だから、勝てないって事かよ。


「ダメ! やめて!」


 その時、サチが両手を広げて、俺の前に立った。


「ま、まずい! このままでは『能力』のせいで、サチ君は確実に死んでしまうぞ!」


「は? 能力のせいでサチが死ぬ? どういう意味だよ」


「負けヒロインは戦闘を行うと、『戦闘用負けヒロイン』に変化するのだ」


「戦闘用負けヒロイン? なんだそりゃ?」


「それは戦闘中に殺される悲劇のヒロインのことだ。負けヒロインの戦闘バージョンとも言える。そうなったら、負けヒロインはグロテスクな殺され方をされるように運命が動くんだ。例えば、首が取れたり、体を潰されたり、敵に生きたまま食べられたり……」


「うん。でも、かーくんを守れるなら、私はそれでいいよ。かーくん……今までありがとう。ぐちゃぐちゃの姿になっても、私のことを嫌いにならないでね」


「アホかああああああ!」


 慌ててサチを後ろに下げた。


「サチは前に出るんじゃないぞ。絶対だからな!」


 くそ。そういうことか。

 そう。確かにバトル物において、ヒロインと思われた子がグロテスクに殺されたりすると、それが読者受けして話題となり、知名度が大きく上がったりする。


 つまり、その子は作品の知名度のために生贄にされたと言ってもいい。

 これぞまさしく『負けヒロイン』

 『戦闘用』の負けヒロインとは、うまく言ったものだ。 


 だが、俺がそうはさせない。

 サチを神どもが喜ぶ娯楽の材料になどさせてたまるか。


「お前が死んだら困るんだよ」


 それにサチに死なれると、俺のゲームがクリアーできなくなる。

 自分の命を守るためにも絶対にサチを殺させるわけにはいかない。


「でも、このままじゃ、かーくんがやられちゃうよ!」


「いいんだよ。俺は『やられ役』だ」


 だいたい『やられ役』の俺様を差し置いて、派手に殺されようとするんじゃねーよ。


 それはクズ君の俺の役割なんだよ!

 たとえ負けヒロインでもこれだけは譲れない。


 だが、もちろん簡単に殺されるつもりもない。

 こうなったら耐えるしかない。

 耐えて耐えて『時間』が来るまで粘るのだ。


「さあ、来い。やられ役の俺が相手だ」


「いい覚悟じゃねえか。望み通り、燃え尽きるがいいぜ」


 再び炎使いの手に火が宿る。

 え? ちょっと待って。


「えっと、少しくらい手加減……もとい、火加減とかする気、無いですか?」


 かっこつけておいて、いきなりビビりだすクズ君です。


「てめえのようなヘタレはフルパワーで燃やし尽くしたいんだよ」


 野郎。どうしても全力で来る気かよ。

 いくら俺の体が頑丈だからって、10000度の炎に耐えきれるんだろうか?



「はい、そこまで」



 その時、場違いなほど綺麗な声が聞こえてきた。

 そこに立っていたのはアリスだった。

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