第29話 やられ役VS炎使い

 ボマーちゃんが暴走モードに入ったので、避難した俺たち。


「ふう、無事か? サチ」


「うん! 大丈夫だよ! かーくんは大丈夫?」


 とりあえず、かなり遠くまで逃げてきた。

 まだ爆音が聞こえてくるが、さすがにここまで来れば、爆発の範囲外だろう。


「うむ。心配ない。ボマーちゃんの爆発範囲はきちんと頭に入っている」


 なぜか解説者も一緒にいた。

 紫苑に連れて行ってもらったんじゃなかったのかよ。


「みんなとはぐれてしまったな」


 現在、一緒にいるのは俺とサチと解説者だ。

 早くアリスたちと合流しないとまずい。

 『やられ役』と『負けヒロイン』と『解説者』だけのこの状況で、敵と出会ってしまったらお終いだ。


 特に『炎使い』とかいう属性を持った奴に出会ってしまったら俺なんかじゃ、全く勝ち目はないだろう。

 そんな強敵は主役であるアリスに任せて、俺は早く帰ろう。



「おい、そこのお前。お前に『情熱』ってやつはあるか?」



 移動しようとしたら、一人の男に話しかけられた。


 異様な風貌だ。


 赤い髪に赤茶けた肌、服装もほぼ赤に染められている。

 まるで炎の化身のような男だ。


「あん? 俺に情熱なんてもんはねえよ」


「そうか。俺は情熱を持たないからっぽの人間が嫌いだ。そんな奴に生きる価値は無い。俺の炎で灰になりやがれ!」


 男が魔法のように手から炎を出す。つまり……


「む! 鎌瀬君、こいつが『炎使い』だぞ!」


 嫌な予感が的中した!

 しかも、なんか思いっきり敵視されてないか?


「あー、今の嘘ね。僕、本当は情熱の塊のような人間です。だから、灰にしないでください」


「危ないと思ったら、あっさり手のひらを返しやがった。お前はクズだな。俺はクズが嫌いだ。クズに生きる価値はない。俺の炎で灰になりやがれ!」


 どっちにしても燃やすんかい!


 こいつもボマーちゃんと同じく、燃やせるなら何でもいいというタイプらしい。

 ち、めんどくさい奴だ。


「奴の炎は厄介だぞ。その熱量は最大で10000度とも呼ばれている。直撃を食らえば、我々は一瞬で黒焦げとなるだろう!」


 なぜか目を輝かせて語る解説者さん。

 嬉しそうに説明してる場合かっつーの。


「仕方ない。相手をしてやるか」


 できればこんな強敵とは戦いたくなかったが、そうも言ってられないようだ。

 それに一応、強敵に勝つための『作戦』も考えてある。こいつで試してみよう。

 俺は懐から、『あるもの』を取り出した。


「なに! 銃だと!?」


 俺が手に持ったのは二丁拳銃だった。それを見た炎使いは驚きの声を上げる。

 まあ、いきなり、そんなものが出て来るとは思わないよな。


 特殊な能力を持たない俺は、普通に戦っても、こんな強敵には勝てない。

 だが、武器を使えば、少しは勝てる可能性も上がるだろう。


 俺が最も得意なのは射撃だ。どれだけ離れていようが、確実に的へと当てる自信がある。


「いや、待て。それはエアガンか? ……なんだよ、脅かしやがって!」


 俺の手に持っている銃をよく見た炎使いが気付いた。ち、バレたか。

 その通りで、俺が手に持っているのは銃に見せかけたリボルバー式エアガンだ。

 学生の俺に拳銃なんてものが持てるはずがない。

 ま、ちょっと考えたら分かるか?


「そんな玩具で俺の炎に勝てる訳がねえだろが」


 エアガンだと確信した炎使いが笑う。

 確かに俺が持っているのはエアガンだ。普通なら脅威とはならないだろう。

 だが、これは普通のエアガンではない。


「あまり舐めると痛い目にあうぞ。こいつは俺が改造した特殊エアガンだからな。お前の首ぐらい吹っ飛ばすことはできる」


 このエアガンは俺が改造して、本物の拳銃も顔負けなほどの破壊力を叩き出せるエアガンである。

 学生の俺には拳銃なんてものは持てない。だが、こういったエアガンなどを改造することは俺の特技の一つだ。


「試してやろう」


 やや大きめの石を三つ拾って、真上へと投げた。

 手に持った二丁拳銃を右、左、右と順番に三発連射。

 轟音と共に、全ての石は粉々へ砕け散った。

 改造エアガンなので、とにかく音が大きい。


「な、なんだと」


 炎使いが驚く。当然だろう。

 それほどの大きさでないとはいえ、エアガンで石を粉々にしたのだ。

 炎使いにとって、予想以上の破壊力だったのだろう。


 さらに一発も外さなかった俺の命中精度も、相手にとっては脅威に映ったはずだ。

 極めつけは、その異常に大きな銃声だ。

 この音を聞いてビビらない奴はいない。


「次は、お前に顔面にブチ当てるぞ? 嫌なら降参するんだな」


 ニヤリと口を歪ませて、炎使いに銃口を向ける。

 これこそ俺が練りに練ったやられ役流の勝ち方だ。

 『脅して相手に降参させる』。それが今作戦の概要である。


 実はやられ役には『敵』に対して『攻撃を全て外してしまう』という能力がある。

 だから、実際に戦ったら俺は勝てない。俺の攻撃は全て外れるからだ。


 しかし、相手が『無機物』であれば話は別だ。

 無機物は『敵』とは判定されないらしい。

 『石』が相手なら、存分に自分の強さを発揮することができる。


 そういった無機物に向かって、自分が強いという最高の『パフォーマンス』をすれば、それを見た相手が自然と戦意喪失するという作戦だ。


 そうすれば、俺の勝利という事になる。

 相手が勝手に降参することで勝ちとする。

 インチキのようなやり方だが、これも立派な戦略だ。


 俺の属性が『やられ役』と知られていないからこそできる。

 確実に炎使いは、今のを見て、俺がとんでもなく強い奴だと『勘違い』をしたはずだ。

 あとは奴が降参すれば、『勝利』の課題は達成である。


「さあ、降参しろ。そうすれば、身の安全は保障しよう」


「ふ、ふざけんな。誰がてめえなんかに降参するかよ!」


 炎使いに降参する気配が無い。

 ち、脅すと逆に意地になって、降参しないタイプか。

 相性が悪いのと当たっちまったな。


 あまり刺激すると、怒りに任せて攻撃してくるかもしれない。

 普通に勝負をしたら、俺は勝てないので、そうなったら終わりだ。


「……てめえ、何の属性だ。『ガンナー』か?」


「さあ? まあ、あんたの想像通りだと思うぞ」


 相手は俺の属性のことを知らない。

 おおかた射撃がうまいタイプの属性とでも想像しているのだろう。

 まさか、やられ役だとは夢にも思ってはいまい。そこが狙いどころだ。


「……もう一人のお前は見れば分かるぜ。解説者の属性だよな?」


 炎使いは、今度は俺の隣にいる解説者に目を向けた。


「その通りだよ。分からんことがあれば何でも聞いてくれ。隅々まで解説してやるぞ」


「んじゃ、そいつの属性はなんだよ?」


「やられ役だ。最強のスペックを持っているが、絶対に勝てないという能力だな。勝負になると、彼の攻撃は絶対に当たらなくなる」


「っ!?」


 悪びれもなく俺の属性を説明してしまう解説者。


「お前なあ! なんでそれを言う!?」


「はっ!? しまったぁぁぁ! 解説を求められたから、口が勝手に!」


 解説者のせいで俺の属性がバレてしまった。もう作戦は機能しない。

 どうやら、敵は解説者の能力を利用したようだ。解説者は説明を求められると、強制的に説明をしてしまうという能力があるのだ。


「はは、そうか。てめえ、やられ役の属性だったのか。じゃ、俺には勝てないな」


 ぽきぽきと腕を鳴らし始める炎使い。

 くそ、頭の悪そうな見た目に反して、意外と頭脳プレイを使いやがる。


「うう……ご、ごめん、鎌瀬君。私、そんなつもりじゃなかったんだ」


 目を潤ませて謝ってくる解説者。さすがに責任を感じているようだ。


「まあ、別にいいよ。属性のせいだしな」


「ゆ、許してくれるのか? 鎌瀬君は優しいな。うう」


「泣くなっつーの。お前らしくないから、気にすんな」


 安心したように涙を拭く解説者。

 ギャップのせいでちょっと可愛く見えたのは気のせいだろうか。

 とにかく、脅して勝つ作戦はもう使えない。次の作戦に移行しよう。


「解説者、お前は離れていろ。サチもな」


「かーくん、大丈夫なの?」


「作戦はもう一つある」


 正直、使いたくなかった最後の手段だ。


「まとめて燃やし尽くしてやるぜ!」


 炎使いが手に火を宿して近付いてくる。奴の最大火力は10000度。

 攻撃を食らうと即死だ。

 その前に俺は『あるもの』をかざした。


「ん? 消しゴム?」


 それは以前にボマーちゃんからもらった消しゴム式爆弾だ。


 俺は躊躇することなく、その爆弾を地面にたたきつけた。


 爆弾はすさまじい爆音を放って、大爆発を起こす。


「ぎゃあああああ!?」


 目の前が真っ白になり、全身に激痛が襲った。

 そして爆発に巻き込まれた炎使いが叫び声を上げていた。


 爆弾を目の前で爆発させるなど、普通なら即死だろう。

 しかし、やられ役の俺は、『耐久力』と『自然治癒能力』が高い。

 爆弾が目の前で爆発しても、一撃程度なら、耐えることができる。


 そして、これこそが試行錯誤の末に編み出した俺が敵にダメージを与える唯一の手段だ。


 その方法はシンプル。『自爆』である。


 普通に爆弾を投げても、俺の『攻撃』は相手に決して当たらない。

 だが、これは俺が『勝手に自爆』をして、相手が『たまたま』それに巻き込まれているだけだ。

 俺は『敵』ではなく『自分』に攻撃したのだ。

 だから、この方法なら相手にダメージが入る。


 これも一種の『神を欺く』ことを用いた作戦だ。

 『攻撃』という言葉の裏を突いた戦法である。


――――


 ここで小ネタです☆


 今回、鎌瀬君が使った消しゴム式の爆弾。


 いつ手に入れたかというと、実は12話でさりげなくボマーちゃんから授かったものが伏線だったりします

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