第27話 雑兵、現る

 属性犯罪者を討伐するため、町外れに向かった俺たち。

 だが、現場に到着すると同時に驚きの声が出た。


「……どうなっているんだ」


「全部燃えてるね」


 この場所は神ノ町のはずれで治安が良くない。

 俺は危ないので普段は近づかないようにしている。


 町の人達は全員避難しており、俺たち以外に誰もいないようだ。

 異常な部分は辺りの建物一面が燃えている所だ。

 どうすればこんなことができるのか。


「どうやら『炎使い』の属性を持った奴が犯人みたいだね」


 討伐経験が多いアリスが相手の属性に気付いたようだ。

 『炎使い』か。


 なんだろう。ここに来て、初めてまともな属性の名前を聞いた気がする。

 Eクラスの生徒は変な属性の奴しかいないからな。


 しかし、相手が炎使いということは、非常に攻撃的で危険な人物だな。

 そいつとは戦わないようにしよう。

 俺の狙いはあくまで雑兵だ。


「どうもっす」


 その時、誰かが俺たちに声をかけた。

 振り返ってみると、そこには数十人の男たちが立っていた。


「な、なに!?」


 そいつらを見て、つい驚きの声が出る。

 なんと、全員が同じ顔なのだ。


「お疲れ、『雑兵』さん。毎回パシリにされて、君も大変だね」


「全くその通りっす。でも仕事だから、やらないといけねーっす」


 アリスの言葉から、こいつらが『雑兵』の属性を持った奴らだという事が分かった。

 つまり、こいつらが俺のターゲットだ。

 全員がモブっぽい顔をしていて、確かに弱そうではある。

 

 というか、なんか雑兵さん。全くやる気を感じられねーな。

 まあ、『雑兵』なんて属性を与えられたのなら当然か。

 やられ役に負けず劣らずの最悪な属性だ。

 俺もこんな属性だったら同じようになっている自信がある。


 しかし、全員が同じ顔ってすごいな。こいつら同一人物なのか? 

 いったい精神構造はどうなっているのだろう。


「あれ? あんた誰っすか?」


 雑兵が俺を見て質問してくる。

 俺は相手のことを知っているが、雑兵は俺のことを知らない。


「さあな? 『最強』の属性を持った男……なのかもしれないぞ」


 雑兵にハッタリをかましてやった。

 作戦のポイントは俺が『やられ役』という事を相手に知られていないという部分である。

 今回はこの部分をうまく生かす予定だ。


「はあ……?」


 雑兵は首をかしげている。全く気にしていないようだ。

 むしろ、ちょっと頭のおかしい人みたいな目で見られている。……別にいいけど。


「ま、いいっす。じゃあ、勝負っす。ここを通りたかったら、俺たちを倒して……」


「先制攻撃!」


「ギャアアアアアア!?」


 ドSの属性を持つ紫苑がいきなり雑兵を殴り飛ばした。

 話している最中なのでズルい。


「卑怯っすよ!」


「ふふ、いいわね。その悔しそうな目」


 涙目の雑兵を見て大喜びの紫苑。

 さすがドS。相手の嫌がることが大好きだ。


「勘違いしないで。私はあなたに快感を与えてあげたいの。ねえ、今どんな気持ち?」


 クイっと人差し指で雑兵の顎を持ち上げる紫苑。


「あ……れ? なんか、気持ちいい……っす?」


「どうしてほしいの?」


「もっと……いじめてください……っす」


「ふふ、よく言えました。ご褒美よ」


「あふん!」


 どこから取り出したのか、紫苑は鞭を握って雑兵を叩く。


「も、もっとやってくださいっす!」


「いいけど、一つ条件があるわ。貴方、私の犬になりなさい」


「分かったっす! 俺は今日からお姉さまの犬っすぅぅぅ!」


 なんだこれ。いつの間にか雑兵の一人が紫苑の犬になっちまった。


「ふっ。これが紫苑の能力だ。彼女に殴られると、それが快感になってしまう。そして紫苑に殴られるだけが喜びの人生となるのだ。それが幸せかどうかは本人にしか分からない」


「いや、どう考えてもやべーだろ」


 解説者の説明を聞いて戦慄する。

 相手の人格を書き換えてしまうなんて、紫苑も相当チートな能力じゃなかろうか。


「ああ、お姉さま! その方だけズルいです! 私もいたぶってください!」


 ミミが紫苑へ駆け寄っていく。犬になった雑兵を見て、我慢できなくなったようだ。


「ふふ、いいわよ。まとめて調教してあげる」


 そうして三人のSMプレイが始まった。


「ああ、いいです。お姉さま、もっと私をメチャクチャにしてくださいぃぃ」


「おお! あの子、かわいいっすね。襲いたいっす」


 別の雑兵はそんなミミを見て、魅了されている。

 そういえば、ミミは男を引き寄せる『ドMフェロモン』を出しているんだっけか。

 確かに彼女を見ていると妙にそそられる。俺も気を付けよう。


「でもあれだな。ミミって危なくないか? 変な犯罪に巻き込まれても不思議じゃないぞ」


 男を引き寄せるドMフェロモン。しかも、ミミは何でも受け入れてしまうドMだ。


「グ、グヘへへ」


 俺の予感が的中するように、既に精神が獣となってしまった他の雑兵たちがミミに近づいて行く。


「ひっ。や、止めてください」


「そんなこと言って、本当は期待しているっすよね? グヘへヘ」


「ああ、そうなのです。私、本当は心の底ではドキドキしているのです」


「グヘへへ。もう我慢できねーっす! じゃあ、いただきまーす!」


 雑兵がミミに向かって飛びつこうとする。

 完全にオオカミ状態となってしまっていた。


 果たしてドMのミミちゃんの運命やいかに?

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