やられ役の勝利大作戦
第25話 やられ役と負けヒロインの異能バトル編、スタート?
デート大作戦から一日が過ぎた。
俺は今、学校にいる。
ホームルーム前の自由時間である。
「おい、昨日、いきなり公園に飛行機が落ちて来たらしいぜ。でもアリス様がいたから、みんな助かったらしい」
「怖いね。飛行機が落ちるなんて、普通じゃないよね。誰かの仕業だよね。世の中には酷いことをする人もいるよ」
クラスメイトの噂話を聞いて、内心ではビクビクしているが、俺がやったなんて誰も分からないだろう。
こちらも手段を選んでいる余裕は無いのだ。早く課題を達成しなければ死んでしまう。
「今度は『勝ち』を狙ってみるか」
一年以内に死んでしまう因果を持つ俺に立ち止まっている暇などない。
サチのデート大作戦は休止となった。
俺は残った『やられ役が勝利する』と、『ポイントを百万稼ぐ』の二つのゲームを主体に進めていくことにした。
この二つの課題は、同時並行することが可能である。
『勝利する』という事と『やられ役ポイントを稼ぐ』という行為は、真逆に見えて、実は繋がっている。
やり方は簡単だ。
ひたすら誰かに戦いを挑み続ければいい。
奇跡が起きて勝つことができれば、その時点でゲームクリアー。
負けてもポイントが貯まっていく。
めでたく百万に到達すれば、因果が歪んで俺の命は助かるという訳だ。
ただ、できれば勝って終わらせたい。やられ役ポイント百万というのは時間が掛かる
『必ず勝負に負ける』という能力を持つ俺が勝つためには、どうすればいいのか?
「今まで私のことをたくさん手伝ってくれたから、今度は私がかーくんを手伝うよ!」
サチも手伝ってくれるようだ。味方がいるのは心強いな。
「次は勝利大作戦だね! 勝利君なだけに」
「……自分の名前を作戦名にするとか、恥ずかしいな」
やられ役として生きていると忘れがちだが、俺の下の名前は『勝利』です。
「私がかーくんの勝利の女神様になってあげる。今度は負けヒロイン(女神ちゃん)だよ」
「それは心強い。して女神様。応援って、具体的にはどんなことをしてくれるんだ?」
「そうだね。その名の通り、かーくんが戦う時に私が『応援』してあげる。「フレーフレー」とか「頑張れ~」とか」
女神様の大作戦を聞いた俺は、その場でズッコケそうになった。
「あのな。それのどこが作戦だ。ただの声かけじゃねーか!」
こんな頭が空っぽの作戦を考えておいて、よく自分の事を腹黒とか言えるな。
サチ。実は頭もお腹も空っぽなんじゃないか? 負けヒロイン(空っぽちゃん?)だ。
「え~。でも、元気出ない? こんな美少女から応援されるんだよ?」
「自分で美少女とか言うんじゃない」
「でも、かーくん。嬉しそうだよね?」
悪戯っぽく笑うサチ。実際に嬉しいのだから質が悪い。
全てお見通しってワケなのか?
それとも純粋に俺に喜んでほしいだけなのか分からん。
やっぱりこいつは負けヒロイン(腹黒ちゃん?)かもしれない。
デート大作戦が失敗した時、サチは落ち込んでいるように見えたが、今はそんな事は無いようだ。
最強スペックを持ってしてもサチの事は理解不能である。
まあいい。せっかく応援してくれるんだし、サチの為にも絶対に勝ってやろう。
「いいだろう。サチよ、俺の記念すべき一勝を、お前に捧げてやる」
「え? 私に一生を捧げてくれる!? か、かーくん。そんな、私……」
サチが顔を真っ赤にしてモジモジとしていた。何か勘違いしているようだ。
「だが、サチ。勝利への道は険しいぞ。俺は負けまくるかもしれん。俺の事を嫌いになるかもな」
あまりに負ける姿を見せ続けてしまったら、サチが俺に失望する可能性もある。
「大丈夫だよ。かーくんがどれだけ負けても、私はかーくんのことを嫌いになったりしないよ」
天使のような笑顔。
そうだ、負けヒロインは好きになった男を決して嫌わないんだ。
自分を捨てた奴のことでさえ、許して応援してしまう。
それが負けヒロインだ。
主人公どもは、そんな優しい子をいつも捨てやがる。
俺は決してそうはならんぞ。
「なんだ、鎌瀬君。君はやられ役なのに、勝ちたいのかね?」
そんな時、クラスメイトである『解説者』の属性を持つ女が興味津々に話に入ってきた。
こいつは解説をするのが大好きという能力を持っている。
「ならば、まずはやられ役の能力について、まとめなければならんな」
「今更、まとめるようなことなんてあるか?」
「おさらいは大事だよ。最強のスペックを持つやられ役君。本来、君は誰にも負けない強さを持っているのだからね」
「え? かーくんって強いの? やられ役だから、弱いと思っていたよ」
「おやおや、サチよ。知らなかったのか? 俺は最強なんだぞ」
「へえ~」
「お前、信じてないだろ?」
「あ、ごめんね。だって、自分で最強とか言う人って、弱いイメージがあって……」
「……ぐ。まあ、正解だ」
サチさん、言う時は結構はっきり言いますよね。
「はっはっは。サチ君はいい線をついているね。捕捉すると、やられ役は最強の方が見栄えが良くなる。例えば最強の強さを持っている鎌瀬君が、最弱主人公などに負けるから絵的に面白くなるのだ。だから、やられ役は最強でなければいけないのだよ」
『負ける側』が最強の方が物語的には盛り上がる。
もっとも、最近は主人公が最強で敵を一方的にぶちのめした方が爽快だという傾向もあるがな。
最強の能力を持つアリスなんかはそのタイプだ。
前回、その主役様の経歴に泥を塗ってしまったわけだが。今更ながら悪い事をした。
「ほかには、やられ役は高い耐久能力と、再生能力があるのを知っているかね?」
「そうなのか。考えたら、雷に打たれても、すぐに治っていたような……」
普通に流していたが、アリスとの戦いで、いつも雷に打たれている。
普通なら重傷を負うはずなのに、俺は数分で動けるようになっていた。
「うむ、やられ役の特性でね。たくさんやられる必要があるから、君は能力で頑丈になっているんだよ」
「……全然嬉しくないな。高い耐久力は、より多くやられるためかよ」
「逆に言うなら、普通に勝負することさえできれば、君は誰にも負けないはずだ。そこが勝機となるだろう」
「その普通に戦うってのが難しいんだけどな。そこは作戦次第か」
「また面白い奇策を期待しているよ。変な奇策を思いつきやすいのは、やられ役の特性なのか、君自身の性格なのか、興味は尽きないね」
「どうだかな。ま、そうやって小細工をしてそれが仇となって負けるのがやられ役だ」
「ふふ、よく分かっているじゃないか。そこが難しい部分だね」
結局、奇策を思いついても、負けるのがやられ役の運命。
かといって正面から戦っても負ける。やはり厳しい。
「後は相手だな。対戦相手を探さないとな。アリスだと相手が悪すぎる」
「アリス君よりも弱い相手と、適当に勝負をすればいいじゃないか」
「それも難しいんだ。例えば解説者。いきなり俺みたいな奴に喧嘩を売られたらどうする?」
「逃げる。怖いからな」
「そうだよな。つまり、普通に喧嘩を売っても逃げられるんだよ。それだけならま
だいいけど、警察でも呼ばれたりしたら、終わりだよ」
「う~ん。確かに普通の人だったら、逃げようとするよね」
「何か『敵』みたいな奴がいればいいんだけどな」
そんな事を考えていると、いきなり学校内に警報音が鳴り響いた。
「お伝えします! 『属性犯罪者』が現れました! 危険なので、学生は外を出歩かないでください!」
そして、緊迫した様子の代理ちゃんの声が学校内に響き渡る。
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