第16話 やられ役の真の能力、解放!?

 最強の協力者を得て大きく戦力アップをした我が同盟。

 これでやれる事も増えてきたのだが……


「そういえば、鎌瀬君。君は『属性解放』をしていないのか?」


 いきなり先生からそんな指摘をされた。今は授業中である。


 『属性解放』か。


 属性が設定されて、一年が過ぎると属性解放というものができるようになる。

 これは簡単に言うと、属性の強化だ。新しい能力を得ることもできる。


 いいこと尽くしと思われる属性解放だが、俺はまだそれをしていない。

 属性に慣れていない最初の一年は封印されているのだが、一年が過ぎると、その封印を解くことが可能だ。

 俺はもう二年なので、とっくに解放はできるのだが……


「やってませんね。やるつもりもありません」


「なぜだ?」


「意味がないからです」


 やられ役の俺が属性を強化しても、何の意味もない。

 いや、むしろ状況が悪くなる可能性が高い。危ないのでやらない方が無難だろう。


「こらこら。このクラスで属性解放をしていないのは、君だけだぞ。サチ君もまだだったが、三日ほど前に終えている」


「へえ、三日前ね」


 ちょうど、同盟を組んだ翌日だ。

 サチはいったいどんな能力を得たのだろうか。


「というわけで、君も属性解放するんだ。できなければ留年だ。これは校則だぞ」


「マジかよ」


 そんな校則があったのか。留年は嫌だ。


「ちょうどいい機会だ。やってしまいなさい」


「ふう。分かりましたよ」


 どっちにせよ、やられければならないのなら早い方がいい。

 変な能力なら早いうちに慣れておく必要がある。


「ふふふ。鎌瀬君がどんな風にパワーアップするか、先生は楽しみだぞ!」


 先生を始めとしたクラスメイト全員が俺に注目する。


「かーくんがついにやられ役じゃなくなっちゃうのかな?」


「ふーん。やっと君の本気を見ることができるんだね」


 サチとアリスが少しだけ嬉しそうに俺を見ている。


「くだらないわね。余計な時間を取らせないでよ」


「そう言うな、ひねくれ女子君。説明なら、この解説者に任せたまえよ」


「ふふ。もし弱くなったら、ドSとしてこの紫苑が散々いたぶってあげるわ」


「鎌瀬様。能力を試したい時は、是非ともこのドMであるミミの体をお使いください」


「強くなったらボマーの私が記念に爆破してあげるよ。素敵な花火が打ちあがるよ」


 なぜか俺を囲って騒ぎ出すEクラスの皆さん。


「……いや、お前ら、好き勝手言うなよ」


 特にボマーちゃんだよ。記念に爆破ってなんだよ。


 まあ、考えても仕方ないので、とっとと終わらせよう。


「それじゃ、先生。お願いします。はい、これ同意書」


「うむ」


 属性解放の手順は実に簡単だ。

 本人である俺が同意書を先生に渡せば後はやってくれる。


「では解放しよう。やられ役の属性よ。その真の力を発揮したまえ!」


 やられ役の真の力が目覚める!


 いや、普通に嫌なんですけど。もっと弱くなるんじゃないのか、これ。


「うおっ!?」


 そんな事を考えていると、いきなり俺の体が輝き始めた。

 これは……?


「ぬう! こんな凄まじいオーラを放つ属性解放を見たのは初めてだぞ! これはひょっとすると、凄まじい能力を得られるかもしれん!」


「本当かよ」


 先生によると、普通じゃないようだ。

 これは本当に覚醒がありえるのではないだろうか。


 やられ役の俺が、ついに下剋上をする時が来たのか!?

 ようやく、光が収まってくる。


「よし、どんな風にパワーアップしたのか調べてみよう。ちょっと失礼」


 解説者が俺の手を握る。

 解説者はこうやって、相手の能力を知ることができるのだ。


「こ、これは……凄いぞ! 鎌瀬君は新しい能力を二つ手に入れた!」


「本当か!? どんな能力だよ!」


 現段階では俺は『勝てない』という最低の能力が一つ。

 これ以上悪い能力が手に入るはずがない…………と、信じたい。

 はたして、新たな能力は、今まで勝てなかった俺の人生を覆すような能力なのか?


「うむ。とりあえず、実践してみるのがいいだろう」


 解説者は黒板から、チョークを拾い上げた。

 何かに使うのだろうか?


「鎌瀬君、今から私はこのチョークを上に投げる。君はその瞬間、能力を全開にしろ」


「全開って……どうすればいいんだよ」


「心の中で念じるだけでいいよ」


「はあ……分かったよ」


 そう言った解説者は、手に持ったチョークを真上に放り投げた。


「今だ! 属性の力を全開にしろ!」


 言われた通り、心で属性の力を全開するように念じた。

 次の瞬間、解説者が真上に投げたはずのチョークは、何故か猛スピードで俺の方へと向きを変えて、飛んできた。


「痛てえ!?」


 突然の事なので対応できない。

 チョークは見事に俺の頭に直撃する。


「うむ。やはりか。君の新たな力は『不幸を呼び寄せる』という能力だ!」


「は?」


 なにそれ。それって能力?


「君が属性の力を全開にした時、周りで起きたことが不幸として、君に向かってくるようになる。今の場合は真上に投げたチョークが不幸になって君に吸収されたということだ」


「それが俺の新しい能力かよ。いらねえ能力だな。あと危ねえよ」


 即行で念じるのを止めた。放っておくと、何が飛んでくるのか分からない。


「一つ目は使えないな。もう一つはどんな能力なんだ?」


「ああ、もう一つの能力だがな……。『敵対する相手を最強にしてしまう』という能力だ」


「敵を……最強にする?」


「うむ。君が能力の力を全開にして戦うと、たとえ相手が虫でも、それは最強の虫となってしまうのだ」


「なんだ、そのクソみたいな能力は」


 元々勝てない能力の俺なのに敵が最強になってしまったらもうどうしようもない。

 結局俺の勝ちがさらに遠のくだけの能力だった。

 ちょうど、そのタイミングでチャイムが鳴る。


「おっと。では今日の授業はここまでだ。本日も昼からは自習である。はっはっは」


 俺に属性解放をさせた張本人の先生はそそくさと出て行った。

 -……逃げやがったな。


 そして、全員が俺から目を逸らしていた。

 結局俺の得た能力は、『不幸を呼び寄せる』と『敵を最強にする』というどう考えてもいらない能力だった。


『ピコン。あなたは10点のやられ役ポイントを会得しました♪』


 その時、代理ちゃんの声が脳内に響く。

 なんだ? ポイントが貰えたぞ?


 そうか。能力の力を最大にした状態でチョークをぶつけられた。

 つまり『やられた』という訳だ。だから、ポイントが貰えたんだな。

 この能力。ポイント稼ぎには使える……のだろうか。


 そんなわけで俺は新しい(余計な)能力を手に入れました。

 やったね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る