第15話 ハーレム主人公の最強技はラッキースケベ!?


「あ、あのさ。わ、私もその同盟に入れてくれないかな?」


 最強の能力と美貌を持つ『主役』のアリス。

 そんな彼女が俺たち底辺同盟に入りたいと申し出てきた。


 クラス一の……いや、学園一の人気者であるアリス様だぞ。

 いったいどういうことだ?


「なあ、これがどういう同盟か知っているのか? お前を倒すための同盟でもあるんだぞ」


 別に主役に勝つ必要はないのだが、やはりやられ役の敵は主役だろう。

 アリスに勝てば因果は歪みまくりだ。

 絶対に勝てんけど。


「え? 私を倒す同盟? そうだったの!?」


 って、知らずに同盟に入りたいとか言ってきたんかい!?


「そっか。でもいいよ。どんな挑戦でも私は受けて立つよ!」


 凄まじい自信だ。自分が負けるとか全く思っていない。

 逆にちょっと面白そうにしている。


「でもさ。これってサチさん……だっけ? 彼女が優斗に告白するための同盟じゃないの?」


「ああ、そっちね」


 さっきまでの会話を聞いていたのだろう。

 だが、アリスはこの作戦が、実は『優斗にフラれるための作戦』というのを知らない。


「私さ。サチさんのことを応援したいんだよ」


「なにっ!?」


 なんと。アリスはサチの告白を応援してくれるらしい。

 それは何とも心強い。


 いや、待てよ。なんか怪しいぞ。

 アリスにそんなことをするメリットがどこにある?


「なあ、なんでアリスがサチの応援なんてしてくれるんだ?」


「私ね、優斗のハーレム能力の『被害』にあっているんだよ」


「被害?」


「そうなんだよ。ちょっと聞いてよ! この前の事なんだけどさ!」


 アリスが怒りに満ちた表情で語りだす。

 こいつが他人に対して怒りを持つなんて珍しい。


「優斗の奴、私の裸を覗いたんだよ!」


「な、なんだとぉ!?」


 なんて奴だ。

 あいつ、ハーレム生活だけでは飽き足らず、覗きまでしやがったのか!

 しかも、学園一の美少女であるアリスの裸を覗いた。これは大罪だぞ!


「何を考えてるのか知らないけど、私が着替えている最中に、いきなり部屋に入ってきたんだよ! 本人によると、事故らしいけどさ」


「あー」


 俺は今の言葉を聞いて納得した。とても納得した。


 はいはい。『あれ』ね。


 アリスよ。それは残念ながら、本当に『事故』なのだ。



 これはハーレム主人公の最強技にして究極技、『ラッキースケベ』だ。



 優斗君が開けた扉には、何故かいつも美少女の裸体がある。

 彼には女子更衣室という文字は目に入らないようになっているのだ。


 そんな奴は訴えられて、刑務所にでも行けばいいのだが、なぜかそうはならず、逆に覗かれた方がちょっとうれしそうにしているパターンが多い。


 ちなみに俺が覗いていたら、確実に刑務所行きね。

 俺なんかいつも女子に対しては、最大の警戒心を持って生きているんだぞ。

 下手をすれば、触れただけでセクハラだと言われかねんからな。


 俺はこんなに慎重に立ち回っているのに、優斗の奴め。あっさり覗きとかしてんじゃねーよ。

 我が爪の垢を煎じて飲ませてやりたい!


「私はつい、優斗を部屋の外まで蹴り飛ばしちゃったんだ」


「そうか。蹴り飛ばしたのか。よくやった!」


「いや、さすがにやりすぎたと思ったよ。でもあいつ、その時なんて言ったと思う? 『僕って不幸だな。やれやれだぜ』だよ!? 不幸なのはどっちだよ! これは許せないよ!」


 うわあ。まあ、そういう奴だもんな。

 しかも、優斗に裸を覗かれた女の子はみんな奴に惚れる。

 ハーレム主人公にとってラッキースケベは恋の始まりになるのだ。実に恐ろしい。


「あれ? アリスは優斗のことを好きにならなかったのか? あいつは超イケメンだぞ?」


「私、恋愛とか興味ないよ。主役として、みんなを守る方が大事だ。誰か一人のモノになんてなりたくない」


「ほう」


 どうやら優斗はハーレム主人公の能力でアリスを虜にしようとしているらしいが、それは主役には通じないようだ。

 今回はただアリスの怒りを買っただけである。


 つまり、これは優斗にとって、ただのアンラッキースケベ。ざまあみろ。


「優斗はハーレム状態だから、よくないと思うんだよね。誰かきちんと一人を選んで恋人を作れば、優斗もしっかりすると思うし、私に対する覗きも無くなると思うんだ」


 優斗を正しく矯正して自身へのセクハラを防ぐために、サチの恋を応援するわけか。


「なるほど。言いたいことは分かった。まあ、優斗が恋人を作ったくらいで、覗き癖を直せるとは思えないけどな」


「それでも、やってみる価値はあるよ」


「……う、う~ん」


 サチがアリスの言葉を聞いて唸っている。そりゃそうだ。

 そもそも、俺たちの目的はフラれることだから、アリスの目的とは微妙にずれている。


「あのさ。この同盟の事なんだが……きっとうまくいかないぞ。サチは負けヒロインだから、失敗の可能性が高い」


「そうなんだ。でも、その方がいいよ。難しい方がやりがいあるからね!」


 目をキラキラと輝かせるアリス。

 しまった。やる気をなくさせようと思って言った言葉だったが、逆効果だったようだ。

 主役の特性に、『目標が困難なほどやる気を出してしまう』というのもある。


「ふう。分かったよ」


 仕方ない。アリスの同盟入りを承諾しよう。

 現段階では、まだサチが告白することもできない状態だ。

 ちょうど手詰まり状態だったので、新しい戦力が欲しかった。


「サチ、アリスも同盟に加えるけどいいか?」


「う、うん。かーくんがいいなら……」


 主役であるアリスが加われば、非常に大きな戦力となる。作戦も立てやすい。

 特に俺は命が掛かっているからな。手段を選んでいる場合じゃないのだ。


「それじゃ、よろしくね! えっと……やられ役主人公(クズ君)と負けヒロイン(腹黒ちゃん?)だっけ? ……うん、酷い名前だね」


「ほっとけ」


 こうして、俺たちは最強の協力者を得ることができた。

 最底辺二人組に、突如として、学園最上級の人間が入ってきてしまったのだ。


 バランス大丈夫か? これ。


「じゃあ、私は行くよ。今日も町の見回りがあるからね」


「ああ、見回りをやってるんだったな」


 正義感の塊であるアリスは、いつもこの時間になると困っている人がいないか町の見回りを続けている。

 平均で一日に十人は人助けをしているらしい。


 俺たちとは住んでいる世界が違うな。

 本当にこんな同盟に入って良かったのだろうか。


「ふふふ」


 気付いたら、アリスが嬉しそうに笑っていた。


「いつも君とは仕事で勝負ばかりしていたよね。ずっと敵として戦ってきたけど、これからは味方として手も組めるんだね。嬉しいよ。本当は君と仲よくしたかったんだ」


 そして俺の目を真っ直ぐに見て来る。

 なぜか、その綺麗な目が潤んでいる気がした。


「ご、ごめんね。私、何言ってるんだろ。……そ、それじゃあね!」


 そうして、その美しい銀髪を靡かせて、アリスは屋上を出て行った。

 なんか少し様子がおかしい気がした。まるで、俺に惚れているかのような……?


 まさかな。主役のアリスが、やられ役の俺を好きになるはずがない。

 それにアリス自身が恋愛に興味が無いと言っていた。やはり、気のせいだろう。


 だが、俺の方も不思議な感覚を覚えた。

 妙に胸が高鳴ってしまう。

 なんだこれ?



「そっか、そうだったんだ。やっぱり、私は『負けヒロイン』なんだね」



 ふと隣を見ると、サチの顔色が悪くなっていた。


「かーくん。私も、もう行くね。用事を思い出しちゃった」


 青い顔のまま出ていこうとするサチ。

 しかし、それは一瞬ですぐに振り返って笑顔となる。


「そういえば、かーくんって、好きな人はいるのかな?」


「何だよ突然。いないよ。いても、やられ役の俺を好きになる女なんていないだろ」


 お前くらいのもんだよ。サチ。


「そっか。なら、かーくんはこれから『モテる』よ。これは私の予言です」


「なんだよ、その根拠のない予言は……。やられ役がモテるわけないだろ」


「むー。信じてないな? じゃあ、かーくんが素敵な人と結ばれたら、私のおかげだからね。感謝してよね」


 そうして出ていこうとするサチ。


「私だって負けたくない。でも私は……かーくんが幸せなら、それでいいんだよ」


 出ていく直前にそんな言葉をサチは口にしていた。

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