第13話 負けヒロインはどうしてもハーレム主人公に告白できない!?
ついに現れたハーレム主人公、六条優斗。
奴の周りには様々な属性のヒロインが集まっていた。
ハーレム主人公はいつでも美少女に囲まれている。
「ねえ、優斗~。こっち向いてよ~。私のこと、好きなんでしょ?」
「あー! なに言ってるのよ! 優斗はあたしのことが好きなんだからね! そうだよね? 優斗!」
「フフッ。あまり見苦しい真似はよさぬか。優斗が好きなのは妾じゃよ」
「ま、勝手にすれば? べ、別に私は優斗の事なんて、好きじゃないんだからね!」
しかも次々とヒロイン達から口説かれていた。
すげえな。まさにハーレム状態だ。
「ふふふ。相変わらず優斗はモテるな。そう、『ハーレム主人公』という属性を持った男は必ずモテるのだ。ヒロインはそんなハーレム主人公に吸い込まれるように惚れていく」
必ずモテる……か。本当に羨ましい限りだな。
ざっと見るだけで、デレデレ系ヒロインにやきもちヒロイン。仙人系幼女ヒロインにツンデレヒロイン。これらの属性の女の子が優斗の元に集まっている。
なんだこれ。ヒロイン多すぎだろ! 特に仙人系幼女ヒロインってなんだよ。
ちなみに優斗本人の反応は……
「まあまあ、喧嘩しないでよ。はあ~。僕って本当に不幸だな~。やれやれだぜ」
ため息をつきながら、自分の事を不幸だと言っている。
な~にが『やれやれだぜ』だ! 殴りたい。すごく殴りたい!!
彼に真の不幸というものを教えてやりたい。
なんなら俺と変わってみるか?
やられ役な上、一年以内に死ぬというこの現状は、ハーレム主人公では決して体験できないような、極上の不幸を味わえるぞ。
「……優斗君」
サチはそんな優斗のことを真剣な眼差しで見ている。その目には決意が込められていた。
彼女が本当に好きなのは俺だ。
だが、サチが俺と結ばれるためには、まずは主人公格である優斗に告白して、フラれなければならない。これが我々の勝利の鍵となる。
「よし、かーくん。私、優斗君に告白してみるよ。見ていてね!」
「ああ、頑張ってこい。失敗したら、俺が慰めてやる」
「うん。絶対に慰めてよね。約束……だからね?」
フラグは完成。後は行動に移すだけだ。
これより作戦を開始する。
告白してフラれる。たったこれだけのことで、サチも俺と結ばれることができるし、俺の命も助かる。全てがハッピーエンドとなるんだ。
全く勝機の見えない他のミッションより、こちらを進めた方が話は早いだろう。
おまけに彼女が出来るという最高のプレゼントもついてくる。
ちなみに優斗がサチの告白を受け入れてしまう危険性も考えておかねばならないが、その可能性はゼロだ。奴は確実にサチを受け入れない。
理由は優斗が『ハーレム主人公』だからだ。奴は常に『ハーレム状態』を作っておかねばならない属性だ。
逆に言えば、誰か一人を選ぶなんてことはあり得ない。
変な言い回しになるが、フラれるのは簡単だという事だ。
この作戦の有利な部分だな。
告白して成功するならいざ知れず、フラれるだけならそれほど難しくない。
このミッションの達成は目前だと言ってもいい。
もうすぐ俺たちは幸せな未来を掴める。
「でも、そう簡単にいかないんだよね。かーくんが思っている以上に負けヒロインだって大変なんだよ」
「そうなのか?」
告白してフラれるだけ。この作戦は簡単に達成できると思っていたが……
「そうだね。とにかく、かーくんは負けヒロインがどういうものか、よく見て欲しいんだ」
「あ、ああ?」
そういえばサチの負けヒロインの能力をしっかり確認したことはない。いったい何が起きるのだろう。
「じゃ、行くよ。優斗君! 好きだよぉぉぉぉぉ!」
いきなりサチが大声で叫んだ。
なんと大胆な奴だ!
「…………」
あれ? でもみんな無反応だ。
おいおい。あんな大声で叫んだんだぞ。
「……? 誰か僕に声をかけた?」
「いや、あたしは聞こえなかったよ。誰か聞こえた?」
「わしも聞いておらぬ」
「私もー」
サチの声は優斗どころか、俺以外の誰にも届いていなかったようだ。
そんな馬鹿な。あのボリュームで誰も聞こえていないのか?
「そっか。気のせいだったね」
そうして、優斗は周りの女子との会話に戻る。
優斗や周りの女子だけでなく、クラスメイト全員がサチの告白に気付いていない。そこが何とも不気味で恐ろしい。
じっくりとサチのことを観察していた俺だけが聞くことができたようだ。
「やっぱりね。負けヒロインだから、ハーレム主人公君には普通に告白しても、気づかれないんだ」
考えてみれば、サチはいつも妙に存在感がない。
非常に高いルックスの持ち主であるが、誰もそのことに気付いていないのだ。
業務連絡の時に「誰? あんな可愛い子いたっけ?」なんて会話を聞いたことがある。
『告白が認識されない』。負けヒロインの能力を初めて目にしてしまった。
さらに優斗が『ハーレム主人公』なのもポイントだ。
ハーレム主人公とは鈍感なのだ。
普通の告白をされても『気付けない』。これもハーレム主人公の能力の一つである。
「どうにか告白が聞こえるようになる方法は無いのか?」
「しっかりと雰囲気を作れば、告白も聞こえると思う。デートに誘ってみるよ」
普通に告白しても聞こえないようだが、デートなどで雰囲気を作れば、告白は聞こえるらしい。
「さて、かーくん。ここに二枚の映画のチケットがあります。今から優斗君をデートに誘いますね」
なぜか説明口調のサチ。その目には諦めに近い感情が見えていた。
これも失敗するのか?
「それじゃ、行ってくるよ」
サチは真っ直ぐに優斗の方へ向かって行って、声をかけようとする。
「あ、あの! 優斗君!」
その瞬間……
「ひゃあ!」
突然、サチの頭上から『金タライ』が落ちてきた。
彼女は間一髪で、その金タライを避ける。
「は、はああああ!?」
思わず声が出た。
なんだ今の異常現象は?
いきなり空間から金タライが落ちてきたぞ。
あんなのどこにもなかっただろう。
しかも、地面に落ちた金タライは、いつの間にか幻のように消えていた。
『告白の妨害』。
それが、あの天から降って来る金タライという事なのか。
おまけに、またしてもクラスの誰もそのことに気付かない。
これも認知されないのか。
サチは諦めずに優斗の元に向かおうとするが、やはり天井から降ってくる金タライに阻まれる。
そんなことをしているうちに、更なる追い打ちが彼女を襲った。
「ねーねー優斗。今日は私と二人だけで映画を見に行く約束だよね。早く行こっ!」
「ああ、そういえばそんな約束だったね。ふう、忙しいんだけどな。本当に僕って不幸だな。やれやれだぜ」
「あー抜け駆け!? ずるい!」
他のヒロインたちが優斗を誘い始める。しかもそれは映画を見に行くという約束だった。
さらにその映画は、今からサチが誘おうとした映画でもあった。
極めつけは、その約束が前々から決まっていたという事だ。
つまり、優斗にはすでに先約があったのだ。
これではサチが今さら優斗を映画に誘ったところで、意味が無いだろう。彼女の努力は完全に徒労へと終った。
「う……」
ガクリと首を落とすサチ。自分の持っている二枚のチケットを寂しく見つめている。
これが負けヒロインの能力か……。
でも、今回はよく観察していたので知ることができただけだ。
ひょっとして、俺も知らないうちに、サチに対して同じような対応をしていたのだろうか。そう考えると恐ろしい。
今までやられ役が一番不幸だと思っていたが、負けヒロインも同レベルだよな。
少し思い上がっていたかもしれない。
「……うう、かーくん」
サチがこちらを向いたと同時にその目から涙が溢れてきた。
「と、とりあえず屋上に行くか」
いたたまれなくなった俺はサチに手を引いて、屋上へと向かった。
クラスの属性についてはおおよそ把握した。後はこの先どうするかだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます