第12話 Eクラスの特殊な生徒 その2

 

 もうちょっとだけEクラスの観察を続けてみるか。


「はあ~。くだらない。本当にこのクラスって、馬鹿しかいないわね」


 そんな時、隣の席に座っているショートカットの女子が席を立った。


 こいつもかなりの美少女ではあるが、そこには近寄りがたい雰囲気が漂っている。

 

 その様子を見た『解説者』が声をかけた。


「おや、もうお帰りかね? 『ひねくれ女子』君」


「ええ。馬鹿と一緒にいて、無駄な時間を過ごすのが嫌いだからね」


 そうして『ひねくれ女子』と呼ばれた女の子は、遠慮もせず、教室を出て行った。


 再び解説者の説明が始まる。


「彼女の属性は『ひねくれ女子』だ。勉強も運動もトップクラスの成績なのに、常に世の中を斜に構えている年頃の女の子さ。彼女も本名が分からないな。「名前? くだらない。属性名で呼べばいいでしょ?」というのが、彼女の自己紹介だったよ」


 ひねくれ女子か。考え方の面では俺と似ている部分が多いな。


 ただ、あいつとは絶対に仲良くできない。


 むしろ似た者同士だからこそ、話せば確実に喧嘩になる自信がある。


 お互いにそのことを分かっているのか、隣の席なのに、ひねくれ女子とは今まで一度も会話をしたことが無い。


 彼女の属性も初めて知ったくらいだ。


 とはいえ、これからはあいつのことも知っておく必要がある。

 機会を見て観察しておこう。


 しかし、あれだな。本当に特殊な属性を持った奴ばかりだよな。


 たくさん説明してくれる解説者は実に便利である。


「ん? じっと私の顔を見てどうした? 私に恋でもしたか?」


「するかっつーの。変わった属性を持った奴が多いと思って、見ていただけだよ」


「変わった属性って……君が言うかね、『やられ役』の鎌瀬君」


「……まあ、そうだな」


 確かに人のことは全く言えない。


「ま、変わっている事が罪だなんて法律は存在しない。いいんじゃないか」


「ふふ、中々に面白い持論だね。しかし、いつもクラスに興味が無さそうな君が珍しいな」


 俺を見て面白おかしく笑っている解説者。


 普段は全然話をしていないだけに、興味を持たれてしまったようだ。


「ま、色々と考えることがあってな」


 俺が生き残るためには、このクラスのこともよく知っておく必要がある。


「ふっ。だがこんなのはまだ序の口だぞ。このクラスにはさらに凄まじい属性を持った子がいる。例えばあの子だ!」


 解説者が指をさす。


「うっ!」


 その方向を見て、思わず声を上げてしまった。

 そこには一人の美少女がいる。


 赤い髪に瞳。ドレスのような衣装に包まれている彼女からは怪しい魅力が溢れ出ていた。


「はあ、はあ、はあ、もう……我慢できないよぉ」


 美少女は顔を真っ赤にして息を荒げている。はた目から見たら凄く色っぽいのだが……


「爆破したい、爆破したい、爆破したい、爆破したい!」


 などと物騒なことを彼女は一人で口走っていた。


「彼女の属性は『ボマー』だ。とにかく爆発させるのが好きらしい。爆弾好き、とかじゃなくて、なぜかボマーという名前の属性だ。この子も本名は不明だな。周りからは『ボマーちゃん』と呼ばれている」


 クラスに興味が無かった俺も、彼女のことは聞いたことがある。

 そして、その非常に危険な能力も噂になっていた。


「恐ろしいことにボマーちゃんは触れたものを爆弾に変えるという能力を持っている。物質はもちろんのこと、なんと、人間まで爆弾に変化させることが可能なのだ!」


 正直、非常に物騒で危険な能力だ。

 自分の話をされていることに気付いたボマーちゃんが、こちらを見てきた。


「ねえ、鎌瀬君。あなたの体を爆弾に変えていい?」


「ダメに決まってんだろ! 近づくな!」


 爆弾に変化させられる。そして爆発する。

 それはすなわち、死ぬという事だ。


 俺はまだ死にたくない。

 『やられ役』ならいいが、『殺られ役』になるのはごめんなのだ。


 爆発させられる。確かにこれは最高級のやられ役ポイントとなるだろう。

 しかし、そんなことをすれば、間違いなく即死だ。


 生き残るために集めているポイントなのに、その為に死ぬなんて笑い話にもならない。


「そんなこと言わないで。鎌瀬君、あなたはやられ役なのでしょう? その属性に準じて爆死するのは名誉な事だと思うよ」


「そんな名誉はいらん」


「お願い! 爆破させて! 気持ち良くしてあげるから! ……ね?」


「エロい言い方してもダメだっつーの!」


 ボマーちゃんの妖艶な赤い瞳と、透き通るような白い手が俺に触れようと近づいてくる。


 正直、触りたいくらい綺麗な手だ。だが、この手に触れた瞬間に俺は爆死する。

 まさに死神の罠。……こいつは危険だ。離れておこう。


「ああ、爆死かぁ~。気持ちよさそうですぅ」


「ダメよミミ。死にたいの?」


 フラフラとボマーちゃんに近づいていこうとするドMのミミと、それを止めるドSの紫苑。


 ドMのミミにとっては爆死すら快感に思えるらしい。恐ろしや。

 そして止める紫苑もドSなのだが、意外と面倒見もいいようだ。


「ぶ~。つまんない。分かった。じゃあ爆破はしないから、これを受け取って」


 俺の爆破に諦めたボマーちゃんが消しゴムを渡してきた。


「なんだこれは?」


「消しゴム型の爆弾だよ。思いっきり叩きつけると爆発するから何かに使ってね♪」


「危ねえよ!」


 俺に爆弾を渡して満足したのか、スヤスヤと眠りだすボマーちゃん。

 どうするんだよ、この爆弾。


 まあ、突っ返すと機嫌が悪くなるかもしれないから、受け取っておくか。

 何に使うかは分からんが……


 しかし、本当に凄いクラスだ。

 とりあえず、この短時間でこれだけ特殊な属性の方々がお見えになった。

 先生が言う特別なクラスというのも納得である。



 ドS ドM コミュ障 解説者 ひねくれ女子 ボマー



 ざっと思い出すだけこれだけ普通じゃない属性がいる。

 別クラスの人物も入れるなら『小悪魔』もその一人か。


「かーくん、やっぱりこのクラスってすごいね」


 そこに加えて、『負けヒロイン』のサチ、『やられ役』の俺か。

 後はこのクラスの中心人物である『主役』のアリスだな。


 こいつらをうまく使って俺はいずれかのミッションをクリアーしなければならない。


 勝利する。

 百万の負けポイントを会得する。

 サチの恋を成功させる。


 ふう。正直、頭が痛くなる話だ。


「おっと、肝心な奴がもう一人いたな」


 最後に俺はとある『最重要人物』に目を向けた。


 成績優秀、頭脳明晰、運動神経抜群。さらには眉目秀麗ときたイケメン。


 その男の名こそが六条優斗。


 そう、『ハーレム主人公』の属性を持つ男である!!


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