負けヒロインのデート大作戦

第10話 やられ役と負けヒロインの学園編、スタート

 負けヒロインの恋を成功させる。これについては希望が見えてきた。


 次は『やられ役の俺が勝つ』と『やられ役ポイントを百万稼ぐ』について進めていこう。 


 『やられ役ポイント』は俺が負ければもらえる。条件は緩いが主役のアリスに負けても100点しか稼げないのでポイントの幅が狭いのだ。


 『強烈な負け方』をすれば、高得点がもらえるのだが、これらについて分かったことがある。


 この二つの条件を達成するのに一人では難しい。

 どちらを狙うにしても、『相手』がいた方が有利である。



 そんな相手を探すのに格好の場所が存在する。それは『学校』だ。



 学校の中には、俺でも勝てそうな属性の相手や、ポイントの高い負けを貰えそうな相手がいるかもしれない。


 そんな相手を見つける事がクリアーへの近道となる訳だ。


 今回のゲームでは、俺のクラスでの環境を知ることが最重要なのだ。


 さらに、負けヒロインであるサチの恋愛の成就に関しても、周りの状況を知っておいた方がいい。


 俺のことが好きなサチ。そんな彼女と結ばれるには、まずハーレム主人公である優斗に告白して、フラれる必要がある。


 そのためには優斗がどんな奴なのか知っておいた方が有利だ。


 それに優斗の周りの人間関係はどうなっているのかも調べておきたい。


 今までクラスの事とか全く関心が無かったが、今回はそうもいかない。


 どんな属性の奴がクラスにいるのか、よく知っておいた方がいい。


「あ、かーくん。一緒に教室に行こ! もうすぐホームルームだよ」


「ああ」


 サチと一緒に教室に向かう。

 俺のミッション達成に有利な属性を持った人間を探してみよう。


「おはよう、かませ君」


 教室に入るなり、いきなりクラスメイトが俺のことを『かませ』と呼んできた。


「やあ、かませ君。今日もいい天気だね」

「元気しているかい? かませ君」

「おや、元気がないね。どうしたんだい? かませ君」


 次々と他のクラスメイトも俺を『かませ』と呼ぶ。

 いきなりこんな呼ばれ方をしたら、普通の人間ならムカっとするだろう。

 だが……


「ああ。元気だよ。おはよう」


 俺はひらひらと手を振って普通に挨拶を返した。ここで怒るわけにはいかない。


 なぜなら、俺の名字が『鎌瀬(かませ)』だからである。


 今更だが、自己紹介を始めよう。



 俺の名前は鎌瀬勝利(かませしょうり)。高校二年生、属性はやられ役です。



 つまり、クラスメイトの皆さんは俺を馬鹿にしているわけではなく、ただ俺の本名を呼んでいただけだった。


 かませなんて呼ばれるのは嫌と思うかもしれないが、名前の方の『勝利』と呼ばれるよりは何千倍もマシだ。


 まったく勝てない俺が『勝利』なんて呼ばれるのは、皮肉にもほどがある。


 小さい頃は鎌瀬って名字も嫌いだったけどな。


 そういえば昔、サチに自分の鎌瀬という名前が嫌だと愚痴った時があった。

 それからサチは俺の事をあだ名で『かーくん』呼ぶようになったんだ。

 今でも気を使ってくれているという事なのだろうか?


 まあ、でも前にも言った通り、俺は名前にはこだわらないので、別に好きに呼んでくれてもいいけどな。


「ねえ、かーくん。今年、私たちは『特別なクラス』に選ばれたって知ってた?」


「……そうだっけ?」


「うん。私たちの『Eクラス』は特別なクラスなんだって」


 実はこの学校は属性によって、クラスで優劣が分けられている。


 一番優秀な属性がAクラス。時点でBクラス。一番下がDクラスとなる。


 もちろん、去年の俺はDクラスだった。やられ役なんて最もランクの低い属性だからな。

 しかし、今年のクラス名はそのさらに下のEクラスなのだ。これはかなりヤバいクラスだと想像できる。


 凄まじく劣等クラスということだろうか。


 ただ、気になるのは、主役であるアリスや、ハーレム主人公の優斗も、俺たちと同じEクラスに分類されているという部分だ。


 主役が一番下のクラスっておかしくないか?


「みんな、席に着け」


 ちょうど、そのタイミングでこのクラスの担任が教室に入ってきた。

 教卓の前に立つ先生。ものすごく美人だ。


 まだ二十代前半らしいが、ベテランの風格を出している。教え方も上手だ。さらにはスタイルも抜群ときたもんだ。


 さすがは『教師』の属性を持つ女性。さぞ生徒からの人気も高かろう。

 そう、本来なら大人気のはずだった。


 しかし、彼女の属性には教師の上に恐ろしい二文字が付いていた。


「フハハハハ! では試練を始めようか!」


 この人の正式な属性は『変人教師』だった。

 うん。すごく変人だ。いきなり大笑いしながら、試練とか言い出した。


 非常にもったいない。俗に言う残念美人である。

 この変人教師はいつも試練だとか言って、俺たちに無理難題を押し付けて来る。


 ある時は初心者である我々に甲子園を目指せとか言い出したり、何か事件が起きた時は授業を無視して、クラスメイト全員を引きいて解決に乗り出したりするのだ。


「む? 君は我がクラスでナンバーワンの愚生徒でありながら、やられ役の属性を持つ鎌瀬君ではないか。起きているとは珍しいな」


「……誰が愚生徒だ」


 普段はクラスに全く興味のないのでホームルームなどの行事は寝てばかりである。

 しかし、今日からはクラスの状況を把握しなければならない。

 だから、寝ているわけにはいかないのだ。


「愚生徒で思い出したが諸君らはこのEクラスが特別という事を知っているかね?」


 ちょうど、サチとその話をしていたところだ。いったいどの部分が特別なのか。


「なぜこのクラスが特別なのかというと、このEクラスは特殊な属性の生徒ばかりが集められているからだ」


 ああ、特殊な属性ね。だから先生も特殊ってわけだ。『変人』ですもんね。


「ほほう? 面白いことを考えているな、鎌瀬君、君には褒美に後でお仕置きしてやろう」


 なぜか俺の思考を読み取っている先生。さすがは名教師。生徒の気持ちが分かっている。


 でも、お仕置きは勘弁してください。


「ちなみにこのクラス分けを考えたのは生徒会長らしい。良き学校を作るためには、不良品はまとめて固めたい。そんな思いで我々はこのクラスに集められたのだとか。つまり、生徒会長から見た諸君らは、出来損ないという訳だな」


 ……おいおい。出来損ないだって? そんなことを先生がはっきり言うか?


 ただ、一つ分かったのが、俺たちはこの学校の生徒会長からよく思われていないってことだな。敵視されていると思っていいだろう。


 噂では生徒会長は完璧主義と聞く。そんな生徒会長からすると、俺たちは厄介者って事だ。こっちからは関わらん方が身のためだ。


「だが、安心しろ! 先生は諸君らの味方だぞ! そのために試練を与えているのだ。そして試練を乗り越えて、お高く留まっている奴らを見返してやろう!」


 熱く語る先生だが、生徒のみんなは目を逸らしている。

 元々は劣等属性だ。最初から向上心なんてものは無いだろう。


 もちろん、俺もその中の一人である。最低クラスに振り分けられても、気にしていない。


「先生。なぜ、主役の属性を持つアリス様もEクラスなのですか?」


 アリスファンの一人が質問する。確かにそこは俺も気になっていた。


「うむ。その部分については先生も分からんのだ。ただ、一つ言えるのが生徒会長にとっては、主役であるアリス君もEクラスとなる対象だったという事だ」


 生徒会長の独断か。本当に何を考えているのか分からんな。


「アリス君。納得できんだろうが、我慢してくれ。本来なら君はAクラスのはずだったんだがな」


「別に気にしてないよ。Eクラスの方が面白そうだし。それに主役が最弱な評価を受けるってよくある事じゃない?」


 アリス本人はこの状況を気に入っているようだ。確かに漫画とかでは主役が最弱のクラスに配属される展開などをよく見る。


「アリス様……素敵です。でも無能な私たちが、アリス様の足を引っ張ってしまっているのではないでしょうか?」


「そんなことないよ! それに、もし何かあったら、私がみんなを守るよ!」


 主役らしい台詞である。決して他人を悪く言わないのは、主役抜きでアリスらしい。


「キャー、アリス様! かっこいい!」

「アリス様と同じクラスでよかった!」

「私たちは幸せです! アリス様!」


 拍手喝采。美しさと自信に満ち溢れたその姿は、みんなから輝いて見えるようだ。


「ちょ……や、やめてよ。恥ずかしいよ」


「ああ……照れているアリス様も素敵です」


 当の本人は顔を真っ赤にして照れている。

 自信に満ちた言葉を口にはするが、そのことで褒められるのは苦手らしい。

 ファンからすると、そこがギャップ萌えなんだとか……。


「主役であるアリス君がこのクラスにいれば、周りを見返すことも夢ではないのかもしれんな。目指せAクラスだ!」


 最低クラスの俺たちがAクラスにのし上げるってことも可能という事だろうか。


 ま、俺はそんなことに興味はない。


 俺にとって重要なのは、俺個人が勝つ方法と、高い負けポイントを貰えそうな負け方、そしてサチの恋愛を成就させる方法だ。


 こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際である。よく分からん争いは他所でやってくれ。


「さて、では試練を始めようかね」


 変人教師の目がキラリと光る。

 授業という名の試練。つまり、また無理難題を押し付けてくるつもりか。


「本日の授業は…………自習だ! 丸一日自習である!」

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