第8話 負けヒロインはやられ役が好きだった!!
俺の死亡フラグが分かってから、一日が過ぎた。
俺はいつものように、学校の屋上で寝ている。
一度、状況をまとめよう。
やられ役である俺は、これから一年以内に死ぬ。
生き残るためには、以下のどれかを達成しなければならない。
一つ、『勝利する』。
二つ、『やられ役ポイントを百万貯める』。
三つ、『サチの恋愛を成就させる』。
やられ役や負けヒロインの能力を考えると、これは普通なら、達成不可能な矛盾した条件だ。
ゲームで例えると、完全にクソゲーである。
だが、どんなゲームでも裏技というものがある。
不可能に見えても、ルールの穴がどこかに存在するはずだ。
それを見つけ出すんだ。
これまで、ひたすらやられるだけの人生だった。
しかし、敗北とは何も悪い事ばかりでもない。
別に敗北したところで、何か犯罪になるわけではない。
むしろ、敗北こそが最も大きな勉強となるだろう。
この一年で凄まじい数の敗北経験を積んだ。精神力も鍛えられた。
まあ、おかげでクズとなっちまったけどな。いや、クズなのは元々か。
とにかく、この経験値は膨大な知識量となっているはずだ。
これらの知識を全て使って、この超難関ゲームに挑むのだ。
「あれ? かーくん、どうしたの? 今にも死にそうなくらい深刻な顔をしているよ?」
「サチか」
いつの間にか隣にいたサチが、俺の顔を覗き込んでくる。
死にそうなくらい……か。こいつ、鋭いな。
サチとは、つい先日に同盟を組んだばかりだ。
これは非常に有利である。協力者がいるのはありがたい。
同盟なので、サチは俺の勝利を応援してくれる。これに死の未来は関係ない。
同盟だから応援してくれているだけなので、反則じゃないのだ。
さらに俺もサチの恋愛を応援するという事になっている。
ちょうど、これが俺の命が助かる達成条件だ。
サチの恋を成就させる。つまり、俺はサチの恋のキューピットにならなければいけない。
ただのキューピットではない。『負けヒロイン』のキューピットだ。
『恋愛が成功しない』という運命を持つ、負けヒロインの恋を成功させなければならない。
これも、非常に難易度が高いぞ。
だが、実はこれが一番達成しやすい課題だと思う。
この課題に関して言えば、俺は圧倒的に有利なのだ。理由がある。
まずは聞くべきことを聞いておこう。
「サチ。お前は負けヒロインだから、告白しても、うまくいかないんだよな?」
「うん。運命に邪魔されちゃうんだ。告白できても、相手に聞こえなかったりするんだよ」
「告白の相手は優斗(ゆうと)か?」
「え? ああ、あの『ハーレム主人公』君ね」
この世界には『主役』のアリスとは別に、もう一人『主人公』の属性を持った男が存在する。
そいつの名は六条優斗(ろくじょうゆうと)。その属性はなんと『ハーレム主人公』だ。
つまり、モテモテになる能力である。
特に『ヒロイン』の属性を持った女の子は、みんな優斗を好きになるという噂だ。
ちなみに『主役』や『主人公』という名のつく属性が一人なのに対して、『ヒロイン』の属性は複数人存在する。
『活発ヒロイン』とか『お嬢様ヒロイン』。
中には『ツンデレヒロイン』とか『ヤンデレヒロイン』なんて属性もある。
ヒロインだけたくさん作りすぎだろ、神様。
サチも『負けヒロイン』なので、ヒロインの一人だ。つまり、必然的にハーレム主人公である優斗に惚れると考えるべきだろう。
「モテモテでイケメンのハーレム主人公が好きなんて、サチも普通の女の子らしい所があるじゃないか」
「あー」
サチが複雑そうに目を逸らした。
そう、普通なら、サチはハーレム主人公を好きになるはずなんだ。
だが、サチも俺と同じく普通ではない。
「違うんだよ。私が本当に好きなのは、かーくんなんだよ」
なんと、サチは俺のことが好きだったのだ!!
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