第1話 基礎能力の高いやられ役は主役(美少女)には絶対に勝てません
「はあ~。アホらしい」
放課後。学校の屋上で寝転びながら、俺は大きなため息をつく。
ため息で幸せが逃げていく。そんな話を聞いたことがあるが、そもそも俺の周りに幸せなんてものが僅かでも残っているか疑問である。
そんな嘘くさい迷信を信じて、吐き出したいものも吐き出せないのでは、逆にストレスになるだろう。
下手な我慢はしないで、好きなだけ吐き出してしまえばいい。
むしろ、中途半端な幸せならいらない。
それならいっそ全て不幸に包まれた方がマシだ。
「はああ~」
もう一度、大きくため息。
俺がやられ役になってから、一年が過ぎた。今の俺は高校二年生だ。
神ノ町は特殊な部分も多いが、基本的には普通の町である。
つまり、一般市民である俺は普通に高校生となり、勉学に励む。
ただし、俺には『やられ役』という属性が付いている。やられ役として生活しなければならないのだ。
この一年間、ひたすら負け続けた。
やられ役という属性を与えられた以上、俺は何をどうやっても勝てない。
どんなことをしても『負ける』という因果に収束してしまうのだ。最高のスペックなんて、何の役にも立たない。
これも全部あのクソみたいな神が悪い。マジメにやるのも馬鹿らしいし、寝よ。
「やっと見つけた!」
「…………んあ?」
そうして昼寝を決め込もうとしていたら、一人の美少女が目の前に現れた。
「もう、探したんだからね!」
息を切らしている美少女。
その姿はこの世のものとは思えないくらい美しい。
真っ白な肌に、綺麗な銀髪。まるでおとぎ話の世界からやって来たかのような現実離れした美貌だ。
お人形さんみたいって誉め言葉をよく聞くが、その例えで言うなら、彼女は神が作った完璧な人形である。
「ああ、そろそろ『仕事』の時間だったな」
「うん。それじゃ、『勝負』しようか」
そして、いきなり美少女から勝負を挑まれた。今から俺と美少女の勝負が始まる。
「…………」
目の前の美少女を見て思い出す。
俺は昔、ある妄想を頭の中で描いていた。
それは最強の主役になった俺に、一人の美少女が勝負を挑んでくるというものだ。
美少女も学園最強の力を誇っているが、俺はそんな美少女にあっさりと勝ってしまう。
そして最後には、その美少女から惚れられる。
これが昔に俺が思い描いていた夢だ。
男ならば、誰もが見ている夢の一つではないだろうか?
そして今、その夢が実現しようとしている。
「ねえ、早くやろうよ」
「ふう、仕方ねーな」
やれやれ、と気だるそうに俺は身を起こす。主役っぽい演出は完璧だな。
「いつでもいいぞ。かかって来な」
「そう? じゃあ、遠慮なく……」
美少女が俺に向かって手を広げた。
「雷(いかずち)よ! 落ちろ!」
「ぐあああああ!?」
いきなり落雷に襲われる俺。回避などできるはずがなく、俺は無様に地面に沈んだ。
俺の負けである。
そう。俺はやられ役なので、絶対に勝てないのだ。
主役っぽい演出をしても同じである。
現実はそんなにうまくはいかない。当たり前だな。
「やった! 私の勝ちだね!」
無邪気に喜ぶ美少女。だがこの勝負の結果は当然であり、必然でもあった。
俺がやられ役というのもあるが、なにより、この美少女の属性が『主役』だったのだ。
『やられ役』という俺が存在するなら、当然『主役』という属性を持った奴も存在する。
目の前にいるこいつこそが、『主役』に設定されし女、神代(かみしろ)アリスその人だ。
しかし、まさか主役に選ばれたのが『女』だったとは驚いた。
先入観ではあるが、主役とは男に授けられるものだと思っていた。
男が『主役』を目指し、女は『ヒロイン』を夢見るものだろう。
だが、最近はそうでもないらしい。
主役のアリスは『絶対に勝つ運命』を持っている。
どんな攻撃でも決して当たらないし、仮に当たったとしても、その傷は一瞬で治る。
名付けるならば、絶対回避と超回復だ。
さらには魔法や異能も使えるようで、超能力でも超現象でもやりたい放題である。
さっきのは雷を呼び寄せて俺にぶつけたらしい。
この世にステータスがあれば全てカンストしてそうだ。
いや、まあ逆なんだけどね。
スペックで言うなら俺が上。力や速さなどの基本能力は俺がカンストしている。
言うならば俺は『運』の数値だけマイナスに振り切っているのだ。
『最強だけど確実に負ける』。これがやられ役だ。
俺が本来夢見ていたのと全く逆である。
『最弱だけど絶対に勝つ』とかだったら、かっこよかったし、楽なのにな。
力などの基本能力は最弱だが、運の数値が異常な特化型。これがよく憧れられる本当の主役だ。
何でもできると思われる俺は、その実何も特化していない。
基本能力を散々自慢して、結局負ける運命ってわけだ。
「だがアリスよ。これで勝ったと思うな。次こそが貴様の命日だ!」
「ふふ、相変わらず威勢がいいね。いいよ、次も楽しみにしているね」
負け惜しみを言う俺と、それを涼しい顔で受け流すアリス。まさにやられ役と主役である。
「っと、そろそろ見回りの時間か。ごめんね。急いでいるから、私はこれで……」
そうして、アリスは美しい銀髪を靡かせて去っていった。
誰もが魅了されるその美しい後ろ姿は、実に主役らしくてかっこいい。
逆に無様に倒れている俺は、本当にやられ役らしくて情けない。
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