第67話 すばる(2)

 白い服ののぶがにこっと笑ってくれたので、ほっとします。

 「おもしろい人だよ」

 そう答えてから、顔を上げて

「よくまりがけの調査に出てて、あんまり家にいないけど、帰ってきたらいろんな話をしてくれるんだ。お父さんとそういうお話するのって、好き」

と言います。

 かなえの家で言うと、おじいちゃんみたいな感じなのかな、とかなえは思います。かなえのお父さんはあんまり仕事の話はしてくれません。

 二人はあの空輪くうりんとうのところに着きました。

 空輪塔は暗く、その白い壁と、のぶ子の言う「裳階もこし」の上に出ている白いまるいところだけが、どこか遠くの街灯の明かりか何かが伝わってきて、ほんのり白く浮かんでいます。上の屋根と、その上の高い「空輪」の柱とは、黒くまっすぐに暗い夜空へと突き上がっていくようでした。

 二人は、さっき学校の幽霊さんたちにしたように、どちらからともなくその空輪塔に手を合わせ、小さく頭を下げました。

 空輪塔の公園に入って、話をつづけます。

 「そういえば、さっきみたいな話も、お父さん、してくれたこと、あるなぁ」

 のぶ子が空輪塔を見上げながら言います。

 「さっきみたいな、って?」

 「だから、宝石でできた百合とか林とか人間とかが、いまのわたしたちみたいになるために二億年かかる、ってこと、話したじゃない?」

 「ああ」

 「それとおんなじようなことを」

 のぶ子はことばを切りました。

 「二億年とかじゃなかったけどね。石とか土とかのなかに入っているものも、それぞれが何千年とか何万年とか、ときには何十万年何百万年とか、それぞれがたどってきた経験とか思い出とか、一つひとつが持ってて、しかも、それを話したがってるんだ。それに耳をすまして聞き取っていくのが、自分の仕事なんだ、って」

 そして、のぶ子は、ふいに笑いました。

 「そんなこと言うから、山師って言われるんだよ」

 ふふっと笑ってから、言います。

 「あの甲助こうすけくんも、そういううわさ、どっかできいたんだよね」

 「いやそれ」

 かなえがすかさず言いました。

 「とうとい仕事だって、おじいちゃんが言ってたよ」

 だいたい、あんな甲助に「くん」をつけるのはもったいないと思います。

 「かなえも、そう思ってくれるんだ」

 のぶ子はおだやかに言いました。

 「うん。もちろん」

 言いかたに力が入ってしまいます。のぶ子は短く笑って

「ありがとう」

と言ってくれました。

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