第64話 幽霊(1)
がたがたがたと引っかかる扉をかなえが開けて外に出ます。
電灯はつけたままにしました。帰りに迷わないようにするためです。
二人の影がお堂の外にできて、その影の頭のほうはぼんやりとなって暗がりにとけています。
開いたままの扉をのぶ
夜の空気はもう冷たくて、すっと寒さが体に入って来ます。でも、さっきまでお堂のなかで暖かくしていたので、あんまり気になりません。
芝生の広場を横切り、学校の横門の前に行きました。
ここは職員室とかがある事務の建物の入り口なので、学校に子どもたちがいる時間でもひっそりしています。
夜は一つも電気もつかず、もっとひっそりしています。芝生の広場のちょっと青っぽい白い明かりをガラスが反射していて、それがなぜかもの悲しいのです。
「夜の学校ってさ」
のぶ子がいきなり言いました。
「うん」
「ひっそりしてて、なんか幽霊みたいなのがいっぱいいそうだよね」
「うわっ。何言うの、いきなり!」
かなえは大きい声で言いました。それからこんどは声をひそめて
「のぶ子、怪談とか、そういうの好きなの?」
と言ってみます。
かなえは、きらいではないのですが、そういう物語をきくとそのあともその一部分がなんだかずっと気になって、あとで怖くなってくるのです。
この前、おじいちゃんにきいた
「ううん」
のぶ子は首を振りました。
「そうじゃなくてさ」
言いながら、いまはガラス戸が閉まっている横門の校舎の入り口をのぞきこむようにします。
「たとえば、わたしたちがさ、算数で当てられて、答えられなくて、怒られたとするじゃない?」
「うん」
「するじゃない」どころか、よくあることです。
「そのとき、なんかいやな気もちになるでしょ? 自分がちゃんと努力しなかったわけでもないのに、なんで怒られるのか、って。どこにも行かないようないやな気もちってなるじゃない」
どうしてそんな話をするのでしょう。
「それはするけどさ」
でも、そんなのを気にしていては、かなえは気にしなくてはいけないことが多くなりすぎて、
「でも、そういうのは、その日のうち、っていうか、学校から帰るまでに忘れることにしてる」
言って短く笑ってしまったのは、そうやっていちいち忘れているから、いつまで経ってもおんなじようなまちがいをして、ますます先生が怒るんだな、と思ったからです。
でも、のぶ子はかなえが考えていなかったようなことを言いました。
「だとしたら、その忘れちゃった気もちはどうなるの?」
「はいっ?」
何のことかよくわかりません。
「どうなる、って?」
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