第62話 百合(3)
「それに、前の日につぼみが咲きそうなのを見てるんでしょ? それが、どうしてこの朝になって、一本も咲いてないの?」
でも、それには答えがあります。
「それはこの子が取っちゃったからでしょ、咲いた百合を、大臣が来る前に」
「だから」
と、のぶ
「それじゃ、この子ども、やっぱり悪い子なんじゃない? それに、その
すかさず答えます。
「捨てたんでしょ?」
「えーっ?」
のぶ子が言い返します。
「前の日にはまだつぼみがついてたんだよ? それを大臣が見てるんだよ? それを、朝のうちに
「うん」
「じゃあ、この大臣も、その捨ててあるところを見つけて、だまって持って行けばいいじゃない? この子から買わなくても」
「じゃあ」
お母さんの茶わん蒸しに「ゆり」というのが入っていたのを思い出しました。
「食べちゃった!」
のぶ子は短く笑いました。
「おなかこわすでしょ? そんなにたくさん食べたら。それに、食べられるの、地下の部分だけだよ。花とかはそのまま残るよ」
「じゃあ、この子、根っこは自分で食べて、その残りを大臣に売ってるんだ」
「だから、それじゃ悪い子だって」
かなえが考えるとどうしてもこの百合を売った子どもが悪い子になってしまいます。
それは、男の子というと、
のぶ子はそんなかなえをちらっと横目で見て、また本を読み直します。
読んでももう何も出てこないよ、とかなえは思いましたが、すぐに、のぶ子がこうやって読む以上はやっぱり何かあるんだ、と思って、読み直しました。
さきにぜんぶ読んでしまったらしいのぶ子がかなえをまたちらっと見ました。
そのきらきらと明るい目が……。
うん?
のぶ子の目は……?
「えっとね」
かなえは、肩まで伸ばした髪の下、耳のところまで手を持っていきました。
「これ、百合じゃないんだよ、たぶん」
「うん」
のぶ子は小さく
「宝石なんだよ」
「うん」
かなえは、自分の考えを言ってしまうまで、のぶ子のほうは向かないことにして言います。
「だって、風の粉がガラスの細かい粉で、その粉が百合のつぼみの先っぽの掛け金を削って、その掛け金ががじがじがじってすり減ってさ」
「がじがじがじ」はなかったかな、と思いましたけど、でも、書いてあるのはそういうことです。
「それで、すり減った掛け金が取れて、ぱかっ、と花が開く、ってことでしょ?」
「うん」
「それって、草じゃないよ。宝石で作った何かなんだよ」
それを聞いて、のぶ子はふしぎそうに言いました。
「でも、林に生えてるんでしょ?」
「ああ、そうだ!」
かなえはふと思いついて大声を上げました。
「だから二億年前なんだ!」
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