第13話 山師(3)

 「じゃあ、山師やましってなんだよ? 言ってみろよ」

 「山師の、、って、先生って意味の字を書くでしょ? ここまではいい?」

 「ああ、いいよ」

 「だから、山師っていうのは、山の先生なんだよ。山についていろんなことを知ってて、それを教えてくれる先生なんだよ。立派な仕事でしょ?」

 「あぁあ、いいかげん言ってるよ、こいつ」

 甲助こうすけが言います。続いて圭助けいすけ

「そうだ、だ、

とはやしました。

 でも、かなえは落ちついてつづけます。

 「だって、山師の「師」って先生って意味だ、それでいい、って言ったら、いいよ、って、あんたたち言ったじゃない? 自分でそこまでみとめたのに、いいかげん、って何よ? もしわたしがいいかげんなんだったら、あんたたちだっていいかげんなんじゃない?」

 「あ、ああ……」

 こういうときはへんな理屈でもなんでもこねたほうが勝ちなのですが、男の子たちはもう理屈がタネ切れになってしまったようでした。

 もの知りの平太へいたが率先して黙ってしまったのが効いたようです。もの知りの平太も黙ってしまったのに、自分が言った理屈でかなえに負けたらほかの子にばかにされる、だったら黙っていよう、ということにでもなったのでしょうか。

 かなえは、「いいかげんなことを言って三枝さいぐささんをいじめたんだから、謝りなさいよ」とでも言うつもりでした。でも、そこに先生ががらっと扉の音をさせて入って来たので、男の子たちもかなえも自分の席に戻りました。

 ごあいさつが終わって、先生がお話を始めたところで、後ろのほうから、かなえの右腕をつんつんとつつく子がいます。

 のぶが身を乗り出して、えんぴつでつついているのです。

 へえ、この子もこんなことをするんだな、と思って、振り向きます。

 てっきり、さっきのことについて、「ありがとう」と言ってもらえるのだろうと思っていたら、のぶ子は、横の子にも後ろの子にも聞こえないような小さい声で言いました。

 「かなえちゃん」

 「何?」

 「山師の師が先生で、尊敬しないといけない仕事なんだったら、サギ師の師もおんなじ字だから、サギ師も尊敬しないといけなくなっちゃうよ?」

 のぶ子はあの赤い顔で大まじめにかなえをじっと見ています。

 そう言われれば、そのとおりのようでもあり、ちがうようでもありますし、その前にありがとうぐらい言ってくれてもいいと思います。かなえは、笑っていいのか、感謝していいのか、怒ってぷいっとしていいのかわからないまま

「うん」

とだけ言って、先生のほうを向きました。

 それからかなえはけんめいに考えました。

 一時間めの授業があと十分ぐらいで終わるというころに、やっとかなえは答えを見つけました。

 山師は山の先生で、山の下に何が埋まっているか、実験を何百何千とやって調べる人だから、尊敬しないといけない。

 でも、サギ師はサギの先生で、サギというのは何かよくわからないけどだますことらしくて、悪いことだから、悪いことを教える人は尊敬してはいけない。

 それで、山師は尊敬しなければいけなくて、サギ師は尊敬してはいけない理由が説明できる。

 この結論をのぶ子に教えてあげようかと思いました。でも、のぶ子はもういつもどおりに戻って、休み時間も机の上を見てじっとしているだけだったので、けっきょく伝えませんでした。

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