第12話 山師(2)

 「やめなさいよ!」

 男の子たちをきつくにらみつけてから、急がないでのぶの横に行き、自分ものぶ子の机にこぶしをついて、最初に声をかけた甲助こうすけに向き合いました。

 のぶ子の顔に向けて顔を突き出していた圭助けいすけは、自分の頭の上の両側でにらみ合いが始まったので、あわてて頭を引っこめます。

 のぶ子はまた顔を伏せてしまいました。

 甲助はかなえが来てもにやにや笑っています。

 女の子や、このグループに入っていない男の子の中には、ちらちらと横見をしてこちらの様子をうかがっている子がいます。でも、その子たちのうちだれかがかなえを助けに来てくれるかというと、そうはいかないようでした。

 かなえは気にせず、言いました。

 「まずね、山で資源調査をする仕事の人のことを山師やましっていうの。だから、資源調査がかっこいいんだったら、山師ってかっこいいんだよ。わかる?」

 「そんなことなぃよ。山師ってサギ師だよ」

 甲助が言うと、

「そうだそうだ」

と圭助もはやします。

 いままで後ろで黙っていた平太へいたがかなえに言いました。

 「おまえ、山師ってことばの意味、だろ? なら黙ってろよ」

 かなえはあわてません。かえって、うまいところに自分から飛びこんで来てくれたと思いました。

 でも油断はできません。

 「あんたこそ、山師ってことばの意味、知ってるの?」

 「知ってるよばかだなぁ」

 平太が言い返します。

 平太は、甲助や圭助といっしょでないときにはいい子なのですが、最近は甲助の後ろにふらふらとくっついていることが多いのです。そして、そういうときには、甲助のまわりで目立ちたいからか、知っていることをやたらと自慢したがります。

 その平太が甲助の後ろから言いました。

 「だから、山師ってサギ師っていう意味なんだって」

 「じゃあ、山師っていわずにサギ師って言えばいいじゃない? なんで山師ってことばが別にあるわけ?」

 とっさに考えたりくつです。

 「知らなぃよそんなの!」

 平太が言い返します。そこをつかまえてかなえは言いました。

 「ね。やっぱり知らないんじゃない?」

 とっさに考えたりくつですが、うまくはまってくれました。

 甲助も圭助ももう後ろに下がっています。互いに顔を見合わせています。

 しばらくして、平太の横から甲助がかなえに向かって言いました。

 「そんなこと言うんだったら……おまえ、知ってるのかよ?」

 「知ってるよ」

 かなえは強気に答えます。

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