第9話 幸いの草(4)

 「その山師やましってかわいそうじゃない? だって、その、楽して大もうけしたい、って人たちだって、いい人じゃないでしょ?」

 「そうだ」

 おじいちゃんは、右手でほうきを持ち、左手でちょっと頭をかいてから、またつづけました。

 「たしかに、いいかげんなことを言って人をだました山師もいただろうって。それもいっぱいいただろうって。でもな、かなえ、山師のなかには、まじめに調べて結論出して、結果、まちがったってのもいっぱいいた。そうに違ぃなぃ。でも、金銀財宝がほしくて山を掘るような連中が、自分が欲を出したのがいけなかった、ってすなおに反省するような連中かぃ? そんな反省するようなら、最初から山に宝探しなんか来なぃで、まじめに畑たがやしてるよなぁ。そういうのがなぁ、かなえ、山師ってひどぃやつらだ、ひどぃやつらだって言いふらしているうちに、山師っていうのは悪いやつらだ、って通念っていうのができたんだ」

 「うーん……」

 山師にも悪い人がいたのかも知れないけれど、その山師の言うことをきいて山にその金銀財宝とかを掘りに来た人も悪いのです。いや、掘りに来るだけならまだいいとしても、自分が失敗したのを山師のせいにするのは悪いことだとかなえは思いました。

 かなえの後ろには、あの「庚申こうしん」の石や大きい「しち庚申こうしん」の碑があります。

 その人間の体のなかにいる虫は、天の神様に報告というのをするときに、山師が悪いと言うのでしょうか、それとも金銀財宝を掘りに来た人が悪いと言うのでしょうか。

 「それで、その三枝さんのお父さん、レアアースの探査たんさに来たって言ったか?」

 「ああ、うんうん」

 そうでした。あののぶ子のお父さんの話から山師の話になったのです。

 「それはだいじな仕事だぞ、とうとい仕事だぞ、かなえ」

 おじいちゃんが「とうとい」なんてことばを使うのはこれまできいたことがありませんでした。

 「どういうこと?」

 でもその前にわからないことがあります。

 「いや、その、レアアースとかいうものって何?」

 「レアアースってのは英語で、日本語では、まれな土って書ぃて希土きどって言うな」

 「ふぅん」

 英語と言われてもよくわからないし、「まれな土できど」と言われてもなおさらよくわかりません。

 「つまり、土のなかにほんのちょっとだけ含まれとる金属ってもんだ」

 「ほんのちょっとだけ?」

 「ああ」

 「うぅん」

 その、ほんのちょっとだけのものを、わざわざこのあたりまで探しに来たのでしょうか。

 かなえは、その、土のなかのほんのちょっとだけのものを見つける方法を考えて、思いつきました。

 「でも、金属っていうのなら、きらっと光るから見つけやすいんじゃない?」

 ところが、おじいちゃんはそれをきいて、大きく口を開けて笑いました。

 なぜ笑われたのかわかりません。おじいちゃんはからかうように言いました。

 「ほぅれ、かなえ、それが金銀をかんたんに見つけてすぐに大金持ちになれるっていうのとおんなじ発想だなぁ!」

 「えーっ?」

 そうだとすればかなえは山師よりも悪い人ということになってしまいます。そんなはずはないとかなえは思います。

 かなえは、あののぶ子のお父さんの仕事が楽にできるやり方を考えただけなのです。

 「そんなのわけがわからない」

 ぷりぷりして言いますと、おじいちゃんは得意そうに笑って答えました。

 「だってびてたら光ったりはせんだろう?」

 「あ……ああ。そうか」

 かなえはすぐに納得しました。

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