第8話 幸いの草(3)

 「いや、いまかなえが話してたのは、その同級生のことだろ?」

 おじいちゃんに言われて、かなえは

「あ、そうだった!」

と答えます。でもかなえだって忘れていたわけではありません。あの子のみょうじがが「幸いの草」だときいただけで、かなえはなんだかうれしいのでした。

 それより、おじいちゃんが「転校生」ではなくて「同級生」と言ってくれたので、それがこそばゆいと思いました。

 「で、さ」

 そして、かなえはもう少しその三枝さいぐさのぶの話をしていたいと思いました。

 「そののぶ子のお父さん」

 ああ、自分はあの子のことを「のぶ子」って言うんだ、と気がつきます。

 「三枝さん」ではなくて。

 「ここらへんの地面の下に、レアアースっていうのがないかどうか調べる会社のひとなんだって。資源の調査、だって」

 やっぱり、圭助けいすけが言っていたとおり、「資源の調査」というとかっこいいと感じます。

 おじいちゃんはそれをきいて、

「ああ。山師やましっていうんだな、それは」

と言い、だまって地面を掃くのをつづけました。

 「むっ……」

 思ってもいなかった答えに、かなえは眉を寄せます。

 かなえは国語は好きな科目です。そのわりに点数は低いのですが、みんながいやがって読まない国語の教科書というのを、もらったらすぐに最後まで読んでしまうくらい好きなのでした。

 その国語で習ったのか、それとも図書室か図書館で借りた本で読んだのか。

 「山師って……」

 かなえは、眉を寄せたまま、顔を伏せて上目づかいでおじいちゃんを見て言います。

 「悪い人のことじゃなかった? その、ひとをだますような。それも、なんか普通じゃないことを言って人をだますような」

 それをきいて、おじいちゃんはほうきを動かすのを止め、声を立てて明るく笑いました。

 むうっ、となります。

 かなえがまちがったことを言ったのでしょうか?

 まちがってはないと思うのですが。

 「いや。それはそれでまちがぃではなぃんだがな」

 おじいちゃんは、ほうきの先に左腕をのせて言いました。

 「でも、ほんとは、山師っていうのは、山を調べて、その山の地下に何かなぃか調べる人のことを言ったんだ。その、金とか銀とか宝石とかな、あと鉄とかだな」

 「ふぅん」

 笑われた後なので、あまり信じる気になれません。おじいちゃんはつづけます。

 「でも、山だけ見てそういうのがあるかどうかを見つけるのは、専門の知識を持っていたとしても難しいもんだ。それで、その山師っていうのがいろいろ調べて、もし金とか銀とか宝石とかがあるって結論を出しても、実際に掘ってみたら見つからなぃってこともある。そうなったら、みんなどう思う?」

 「どう、って?」

 「だって、そこに来て、金銀財宝を掘ろうって人たちは、それで大もうけができるって思って来てるわけだからな。それで、土掘り返して、石をくだいて、それで金も銀も出なかったらどう思う? 自分が悪かったとか、そう思うか?」

 どう思うだろう?

 おじいちゃんは話をつづけます。

 「そんなことはなぃだろ。その山師って言うのがいいかげんなことを言って、自分をだましたと思うだろ? 金や銀や宝石を掘り当てて、らくに大金持ちになりたぃ、その気もちが強ぃほど、山師っていうのをうらむだろ? 山師ってことばに人をだますひどぃやつって意味があるのは、そのためだ」

 「それって」

 なんだか、これまで知っていたことと違っているけれど、筋は通っていると、かなえは思いました。

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