第4話 転校生(1)
二学期になって、そろそろ朝晩の気温が寒く感じるようになったころ、かなえの組に転校生がやって来ました。
その子は、朝、これまで空いていた教室の左後ろの机におとなしく座っていました。
女の子でした。赤っぽいチェックの柄の長袖の服に
前髪は垂らさないで上げていましたが、向かって左前の髪だけまとめきれないのか、おでこに垂れ下がったり、上にはね返ったりしています。赤ら顔で、唇をずっと少し開いていて、その唇からは白い前歯が見えています。
ぜんたいに元気がなさそうに見えるのは、初めての慣れない学校で緊張しているのでしょうか、それとももともとなのでしょうか。
教室にいる子のだれも、この子に声をかけようとはしません。まるでこの子はいないように、仲間どうしでお話ししたり、勉強の本を読んだり、図書室から借りてきた本を読んだりしています。この子のほうもそれに混じろうとする気配は見せません。本を読むでもなく、窓の外を見るでもなく、ただ机の前の縁ぐらいに目を向けて、そのままじっとしています。
そこの席はかなえの斜め後ろです。なんだか仲よくなれそうにないな、と思いながら、かなえは元気に声をかけました。
「おはよう!」
その子はしばらく重そうなまぶたの下からじっとかなえを見つめていました。かなえが、返事は返ってこないのか、しようがないな、と思って、窓際の自分の席に座ろうとしたとき、その子はようやく
「……おはよう」
と小さい声で返事しました。
かなえの体がぶるっと震えたのは、窓が開いていて、外から冷たい風が入ってきたからでしょうか。かなえの席は窓のすぐ横なのです。
つづけて、名まえは、ときこうとして、この子なら自分が先に名のったほうが答えてくれそうだなと思いました。それで
「わたし、
とききます。ききながら、ほかの子に向かって「あなた」なんてことばを使うことはこのあともうないだろうな、と思いました。いつもは勢いよく「あんた」と言うのです。でもそうするとこの子はいまよりびくびくしてしまいそうでした。
「さいぐさ、のぶこ」
その子は短く答えました。その、小さい、低い、くぐもった声に、
その「さいぐさのぶこ」は、さっきよりも頭を深く下げて、いまは、机の上の、自分の頭の真下あたりをきょろきょろと見ています。でも、かなえは、まだ話が続けられそうな気もちになりました。
「わたしさ、
そこで、ひとりでに笑いがこぼれます。
「学校からすぐだよ。家から学校の門まで来るのより、学校に入ってから教室までのほうが長いくらい」
ただし、それは「横門」をはいったときのことで、学校で決められているとおりに正門を通ると家から学校のほうが遠くなりますが、それは言いません。つづけて「あんたは」ときこうとしたところに先生が入って来ました。
先生はかなえと同じ女の人ですが、やっぱり大人だからか、教室の扉を開けるときも勢いがよく、そのごろっという音だけで先生が来たとわかります。教室のあちこちに散らばっていた子たちは、それでもがやがやいいながら自分の席に着きました。
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