第3話 庚申(3)

 かなえが早く寝なさいといつも言われるのはまだ子どもだからです。大人だったら、好きなように夜更かしをしてもいいはずなのに、どうしてわざわざ「寝てはいけない日」なんかを作らないといけないのでしょう。それに、寝てはいけない日をつくるにしても、それはただ「寝てはいけない日」にしておけばいいのに、どうして、体のなかに虫が住んでいて、それが抜け出して、天の神様にその人間のやった悪いことを報告する、なんていう話をくっつけなければいけないのでしょう。

 それに、大人の人も、「六十日のあいだに悪いことはしただろう?」と言われれば「してない」とは言えないのでしょうか?

 よくわかりません。

 おじいちゃんに、迷信だ、と言ってもらっても、かなえは、それからというもの、やっぱりほんとうに体のなかにはそのサンシの虫が住んでいて、それが六十日に一度抜け出して神様にかなえのやった悪いことをぜんぶ報告しているんじゃないか、と心配になるようになりました。

 おじいちゃんは、かなえがそのサンシという虫を寄生きせいちゅうじゃないかと言ったら、すぐに「ばちが当たる」と言いました。

 もしほんとうに迷信だったなら、ばちなんか当たるはずもありません。

 だから、やっぱり何かほんとうのことがあるのだ、と、かなえは思ってしまうのです。

 夜、寝つけないでいると、そのサンシの虫のことをふと思い出して、いま寝つけないでいて、夜更かししていることもこの虫たちが神様に報告してしまうのかな、と気味が悪くなりました。そして、そういう夜は、その夜が、その六十日に一度来るという「庚申こうしん」なのかどうかが心配になるのです。しかしかなえには調べる方法がわかりません。そして、よし、今日が「庚申」だったらこわいから、今日は寝ないぞ、と心を決め、家の外から入ってくる街灯の明かりが照らす天井をじっと見つめていることにします。

 そしてそのうちふっと眠ってしまうのでした。

 それが春のことです。

 それから夏休みが来て、夏休みが終わり、五年生の二学期が始まりました。

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