~幕間~ 『特別な生誕日』
第1話 『三つ』
「ユウ、いつでもいけるよ」
物陰に隠れながら、準備万端とばかりにミツキが小太刀を構える。
「了解。なら三つで出よう」
「わかった、いっちにーのさんっ!」
「あっ、こら…!」
話を聞いていたのかいないのか。
自分だけの感覚で数えると、ミツキはそのまま本当に飛び出していってしまった。
しかし……こら、と言葉では制するユウだったが、ミツキの身に付けた戦闘技術はかなりのもの。
ともすれば、以前同じ短刀を扱っていた自分よりも達者に見える。
ミツキは、戦局を見、敵の弱点を見極める能力に長けている。これは誰に教えられたものでもなく、彼女の元来持つ力——言うなれば、野生の本能のようなものだ。
妖魔であるということも一つ、その能力が身に着いていることに起因しているだろうとも考えられるが、仔細までは分からない。
「ユウ、そっち一匹!」
「はいはい——っと」
かく言うユウも、長巻の扱いには随分と慣れていた。
咲夜の厳しい修行もそうだが、近くで紗雪の戦闘を見ることが多かったのもあるだろう。
使用している得物も、紗雪がずっと使っていたものだ。
豪快な振りが性に合わないユウには、元々こちらの刀術の方が合っていたのだろうとさえ思える程に馴染んでいる。
向かって来た獲物を一刀の内に斬り伏せると、ユウは鮮やかな所作で以って納刀を決めた。
「おぉー……」
そんな姿が、この二ヶ月間ずっと見てきたミツキは、在りし日の紗雪の姿と重なって大好きになっていた。
基礎を重んじる咲夜の教えによって、たったそれだけの期間で、現場ではあまり必要もない所作までも、強く深く染み付いているのだ。
「うん、こんなものでいいかな」
眼下で横たわる動物たちに目を降ろしながらユウが言う。
野生の動物は狩り過ぎると生態系に良くない為、それを見極めることも重要である。
「さて——」
「うん。戻ろう戻ろう!」
声高らかに答えるミツキに、ユウも頷き、その場を後にする。
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