11/25 灯り


重い沈黙が下りる。あの時にはもう戻れない。

咲いた椿の花を一緒に眺めていたあの頃には、もう戻れない。

未来の灯りは何も照らさない。隔たれた道だけだ。


沈黙を破るように、インターホンが響く。

誰かが呼んだ警察が来たのだろう。


「ねえ、ユリをどうするの?」


俺が連れて行った生首が部屋に飛び込んで、彼女の下へ転がり込んだ。

文字通り転がっていった。


「警察を呼んで、彼らに引き取ってもらうつもりですよ。

ここの施設を調べてもらえれば、すべてが明らかになるでしょう。

あなたたちも自由になれる。悪夢が終わるんです」


「ねえ、どうにかできないの。かわいそうだよ」


「そうだよー」


「たすけて」


生首たちが抗議し、わらわらと彼女の周りに集まる。

彼女を守ろうとしているのだろうか。


首を斬ったそのままの姿で無理やりこの世に呼び出されたのに、彼らは抗おうとしている。あの女は生首を抱え上げ、優しく頭をなでていた。



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