第25話 灯り

 そしてこの事件は、「めでたしめでたし」で終わる。


 鳳稀梢が公子を抱えて駐車場に駆け込み、管理人に「公子の船に賊が!」と訴えた。管理人は真っ青になって港湾警察に電話を掛けた。

 あとはもう、蜂の巣をつついたようなお祭り騒ぎになったが、それはエルンストたちには関係のない祭りだ。

 意識の曖昧な公子には救急車が呼ばれ、よたよたと港を出て行く公子の船は港湾警察のモーターボートが追って行った。

 一連の騒動が一段落し、警官が重要参考人として『ベルツ電気店の楊明』から話を聞こうとした頃には、駐車場からビートルは消えていた。

 後日、駐車場の駐車客控えに記載されたナンバープレートから、わざわざレクセアの職場まで警官が事情聴取にやってきたが、「水曜に車を盗まれ、木曜にはなぜか元の月極駐車場に乗り捨ててあった。だれかが悪戯でやったんだろうと思っていた」というレクセアの話だけをメモして帰っていった。

 ついでに駐車場からはT4も消えていたが、もちろんそんなことはだれも気がつかなかった。問題になったのは船に乗っていた「賊」の一人、足の腱を損傷する大怪我をした男が、「自分の車のT4は返却してもらえるのか」と尋ねたときだ。

 猫に鍵を盗まれた、などとわけの分からない供述をしていたが、念のため、と警察が所在を確認したところ、駐車場に駐めた記録は確かにあるものの、事件の晩に出庫されていた。

 二日経って、ブレーメンの駅前駐車場で鍵が挿されたままの車両が見つかり、その男に返却されることとなる。


 ブレーメンの手頃なビジネスホテルで休息し、朝になってメリナの家族とエルンストたちはめいめいに家路についた。

 メリナたちはブレーメンから鉄道を乗り継いで。

 エルンストたちは相も変わらずビートルで。

 夕刻、辿り着いた黒森の屋敷の灯りをつけたレクセアに、「やっぱり我が家は落ち着くな」と、エルンストは笑みかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る