第150話 深夜に現る異形
そうして、深夜1時。
俺は龍神、美羽、キョウラ、ナイアをつれて村へ繰り出した。
出てすぐアラルの時と同じように、キョウラが暗視魔法を使って視界を確保してくれた。
昇格済みのメンバーばかりなのにはわけがある。
最近深夜に現れるという異形…その正体を少しでも探るため、ナイアに異能を使ってもらったのだが、その際彼女は気になることを言っていた。
「深夜の村に現れる異形は『怪人』である。その正体を知る時、きっと後悔することになる…」
後悔する、というのは意味深だが、冒険していれば後悔などいくらでもするだろう。
それより、俺は『異形は怪人である』ということの方が気になった。
ダメ元で聞いてみたら、意外にもナイアはよく知らないと言っていた。
その代わりに、美羽が答えてくれた。
「怪人系っていうのは、『軟体系』とか『獣系』と同じ異形のグループ。ただ、他の異形と決定的に違うところがある。それは、元は人間や異人だったってこと」
「え、人間とか異人が異形になるのか?」
「そう。異形に
闇堕ち、的なやつだろうか。俺はそういう趣味はないが、一部の人には色んな意味で好まれそうである。
「見た目は人型を辛うじて保ってることが多い。それでも人の心も理性も失ってるから、他の異形と同じ怪物でしかないけどね。強さはまちまちだけど、大抵は中級か上級の異形に相当する強さを持ってる。しかも人間なり異人なりだった時の力とか記憶が残ってることが多いから、普通の異形より厄介な存在なのよ」
美羽はそこまで言って、啖呵を切った。
「あいつら、何考えてんだか。異形になるなんて絶対に許されないことなのにね」
彼女は、過去に知り合いが異形になったことでもあるのだろうか。
気になったが、詮索する気にはなれなかった。
…とまあ、そのような事情があるので、上位種族に昇格しているメンバーだけを連れてきたわけである。
人間はともかく、異人が異形になったならそれだけパワーがあるだろう。こう言ってはなんだが、下級種族のメンバーを下手に出すわけにはいかない。
能力の低いメンバーを強敵との戦闘に出せば、当然だが命を危険に晒すことになる。この冒険で多くの仲間ができたからこそ、仲間を失いたくない。
それに…何故かはわからないが、まだすべきことがあるような気がする。
それが何なのかはわからない。しかし、未練が…やり残したことがある以上、自分も他人も犠牲にしたくないのだ。
「こちらから気配がします!」
キョウラが指差す方向に、俺たちは走った。
彼女の言う「気配」は、どちらかと言えば「痕跡」から推測したものらしいが、ほぼ確実と言っていい精度だと思われる。
キョウラは元々、魔力や空気の流れを目視できる異能を持っていたが、昇格の際に異能が進化した。
魔力に関わらず異人および異形の動いた跡を目視できるようになったらしく、それを「気配」として捉えるのだと言う。
ということは、彼女の言う「気配」を辿っていけばほぼ確実に気配の主に辿りつく。
なので、俺たちは彼女の後を追うわけだ。
「いました…!」
目の前に現れたのは、全身が真っ黒く異様な魔力を放つ、3メートルくらいのモノ。
見つからないよう、俺たちは手頃な家の陰に隠れた。
人型をしてはいるが、異人にしてもあまりに大きい。
帽子かフードのようなものを被っていたので顔はよく見えないが、もし見えていたら俺は震えていただろう。
それだけ、異様な迫力と魔力を放っている。
「あれ、異形…なのか?」
俺は怯えるように言った。
いや、異人だとしてもでかすぎだし、キョウラのセリフからしても異形なんだろうが…それでも、人型をしているものが異形だとは信じられなかった。
「はい。間違いなく、怪人系の異形です」
キョウラは左手に魔導書を出し、異形を見つめた。
「お、さっそく行く所か?」
龍神が刀に手をかけ、ナイアも斧を抜くが、キョウラは待ったをかけた。
「待ってください。まずはこちらを振り向かせて、目を眩ませます。皆さんはそこをついてください」
彼女は足元の小石を拾い上げ、異形の方に向かって投げた。
小石は異形には当たらず、その背後にある井戸に当たった。
異形が微かな音に反応して振り向いた所で、キョウラは飛び出した。
「[シャイン]!」
魔導書を開くと同時に声を上げ、異形の頭部に光魔法を見舞う。
異形は光をもろに食らったのか、低い唸り声を上げながら顔を覆ってふらついた。
そこへ、俺たちが飛び出して一斉に技を放った。
俺は「水平割り」を放った。
龍神は「稲光の道筋」を繰り出し、ナイアは「ドライブスピン」を繰り出した。
ちなみにナイアの技は斧を構え、高速で回転するうちに魔力を溜め、魔力と共に斧を放り投げるというものである。
体力を使うし隙も大きいが、回転の威力と使用者の属性がプラスされるためかなり高威力の技となる。使ったことは無いが、もし使う機会があるとすれば動きが遅い相手の時だろう。
わずかな隙を作り出し、連続で攻撃したわけだが、当然ながら異形は倒れなかった…
と思いきや、あっさり倒れた。
「…え?」
驚いたのは俺だけではなく、みんなそうであった。
何しろ、がたいのいい巨人の異形が、あっさりと地面に倒れて消滅したのだから。
「消えた…?もう、倒したのか…?」
龍神は困惑を隠せないようだった。
「気配が消えた…倒した、ということでよさそうです…?」
キョウラも、困惑していた。
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