第149話 妙な噂
草原の異形狩りはすぐに終わった。
美羽が強かったのもあるが、そもそもの数も多くなかった上に弱い異形ばかりだったので簡単に終わらせられた。
そして、美羽の素材集めもまた…。
「だいぶ早く終わったけど…かなりいい感じに集めれたわー」
ここまでに出てきた異形の素材、花びらやドロドロの液体等を採ったビンや謎の容器を見て、美羽は満足げな表情を浮かべた。
「それ、全部薬に使うのか…?」
美羽が集めたものの中には、スライム状の異形の体内から取り出した骨みたいな物や、大きな口と牙があるが目がない丸い異形の頭に咲いていた青い花などがある。
使うから集めたのだろうが、後者はともかく前者はあまり気持ちのいいものではない。
それに、衛生的にも大丈夫なのか?と思ってしまう。
「一気に使うわけじゃないけどね。異形の素材は、基本的に天然の素材と同じくらい痛みやすいから、定期的に新しいものを回収しないといけないのよ」
「痛みやすい…って、いい保存方法とかないのか?」
「うん…あ、もしかして冷蔵しておけばいいとか思ってる?まあそれはそうなんだけど、全部はそれでごまかせないのよね」
どういうことだろう?冷蔵庫的なものがないのだろうか。
うちの馬車にもあるのだが。
「異形の素材の中には無駄に敏感なものがあって、変に冷たくなったり湿気を吸ったりするとたちまちダメになる。だからいつも常温で、かつ乾燥した特別な容器に入れとく必要があるの」
「異形の素材を保管するのも難しいんだな」
「そうよ…まあ魔法道具があれば簡単なんだけどね」
そうして村に戻った俺たちだが、程なくしてある村民のセリフが耳に入ってきた。
「早く帰らないと…あの異形が出てくる前に…!」
いくら何でも、村の中に堂々と異形が現れるなんてことあるのだろうか。
そもそも、このあたりに異形なんているのか?村の周りでは、異形は見かけなかったのだが。あの草原に関しても、最近になって異形が現れるようになったと聞いた。
だが、村民がああ言っていたということは、実際に異形が姿を見せているのだろう。
ここは、村長に聞いてみるのがいいだろう…と思ったので、村長に依頼の完了を報告すると同時に聞いてみた。
「え…?おかしいですね。私が村長になって以降、この村に異形が入ってきたことは一度もないはずですが」
「ありゃ、そうなのか?」
信じられない…とは行かないまでも、意外な回答に拍子抜けした。
実は村に異形が出没しているのだが、何かの理由があってひた隠しにしてて、実は…っていう可能性も一瞬考えたのだが、彼女は嘘を言うような人間には見えない。
「ええ。何か、関係ない話を聞き間違えたのではありませんか?」
「そうかな…」
「きっとそうですよ。それより、異形を退治してきてくれてありがとうございます。少ないですが、これはお礼です」
村長に渡された袋の中には、500円玉くらいの大きさの金貨が3枚…合計で6000テルンが入っていた。
美羽が言うには、「村にあるお金としては結構な額」らしい。まあ金貨だし、それなりの価値があるのは何となくイメージできるが。
馬車に戻ってくると、何やら樹の他数人も今帰ってきたようだった。聞けば、村の中で魔法薬を配ったり、村民の手伝いをしたりしていたらしい。
この村には異人が住んでいないため、生活を大きく楽にするような魔力を持つ者もいなければ、魔法薬を作る者もいない。そのため、少しでも彼らの手助けをしようと、樹や康介が力仕事を手伝い、キョウラやメニィ、セルクが魔法薬を配っていた…とのことだ。
ちなみに、それらはすべて無料で行ったらしい。その理由に関してはそれぞれ意見が違い、メニィは「善意で行ったことですから」、セルクは「人間の人達は、どうしても魔法薬や魔法道具の恩恵を受けそびれがちです。だから、僕たちはそれを助けようと思ったんです」と言っていた。
一方、苺と吏廻琉親子の意見は違っていた。
苺は「ここのような集落では、魔法薬は滅多に手に入らないもの。それを提供する代わりに対価を要求するというのは、物を買い占めて高値で売るような悪質な商人と同じです」と言っていたし、吏廻琉とキョウラは「売る形式では、すべての人々に届かない可能性がある。それでは良くないし、何より私達の目的はお金ではない」と言っていた。
言い分は違うにせよ、結局は「村の人達を平等に助けたい」という気持ちなようだ。
まったくもって、否定する理由はない…というか、実に聖職者らしい素晴らしい考えである。
修道士系種族は、みんなこんな感じで物事を考えるのだろうか。
夕食の時、龍神がこんなことを言った。
「昼間酒場で、この町に夜な夜な異形が出るって噂を聞いたんだが…誰か、聞いたか?」
他に誰も答えなかったので、俺が答えた。
「聞いたよ。ちらっとだけどな。てか、何だ…夜な夜なってことは、夜中に出てるのか?」
「らしい。まあ、言ってくれた奴がすぐに『あっ、やべっ…』って感じで黙っちまったから、それ以上は聞けなかったけどな」
「へえ…」
気になる話である。
すぐに会議になり、今日も出るかはわからないが、深夜に張り込んでみよう、と結論が出るまでにそう時間はかからなかった。
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