第148話 重い武器と軽い武器

そこからは、色々と話をしながら進んだ。

特にこれまでの冒険譚を話している時には、彼女は唸ったり、目を見開いたりしながら楽しそうに話を聞いてくれた。

時折煌汰、または美羽の方がおどけたりしたので笑いも消えず、なかなか楽しい時間になった。


ところで、美羽が加入して以降面白いくらいに異形が出てくるようになった。

美羽はその都度迅速に反応し、俺たちの出る間もなくそれらを倒していく。

その様はなかなかカッコよかったが、それら異形の死体の一部を回収して嬉しそうにしていたのはなんか…変な感じだった。

道中には白い薔薇みたいな異形や、青くてでかいキノコ型の異形などが出てきたのだが、美羽はそれらの花や傘、胞子などを丁寧に自前の透明な容器に採取していた。


本人は「これらは有益な素材だから、魔法薬を作る者なら集めて当然」と言っていたが、うちの軍にこのような事をする奴はいない。

メニィとかが色んな素材をぶちこんで魔法薬を作ってる所は見たことあるが、それでもこんな形で素材集めをしてるのは見たことない。

まあ、行く先々の店で買い物してるのは見たことあるから、それでやりくりしてるのかもしれないが。



「やっ!」

美羽は斧を振るい、黒くて大きいスライムのような異形を切り裂く。

俺のそれより大きな斧を軽々と振るって敵を倒すその様は、まさしく熟練の戦士である。

それにしても、美羽はそんながたいが良いわけでもないのにあんなでかいものを扱えるのか…まあ意外と軽いのかもしれないが。


「立派なもんだな。俺よりでかい斧使ってるのに、そんな軽々と動けるなんて」


感嘆の意味でそう言ったのだが、美羽はなぜか「えっ?」という顔をした。

何か変な事言ったか?と思ったが、少々違った。美羽は、「これは斧じゃないよ」と言うのである…どう見ても斧なのだが。


「私のこれは『ハルバード』っていうの。斧に似てるけど、槍に近い武器」で、あるらしい。

ハルバード、って聞くとカー◯ィに出てきた戦艦しか思い浮かばない…というのはさておき、言われてみると確かに、柄の先端が鋭くなっていて槍のようにも見える。とは言え、さっきまでの彼女の戦い方を見てた限り斧と同じような扱い方をする事が多いようだ。

斧の機能を持った槍…斧槍ってとこだろうか。


「ハルバードを使うということは、やはりあなたは相応の経験を積んだ騎士なんだな」

イーダス王子に聞いてみたら、ハルバードは多彩な戦い方ができるが扱いが難しい武器で、槍や斧、棍といった武器の経験を相応に積んだ者でないと扱えないのだと言う。


「美羽は、確か最初は槍を使ってたんだ。その次に棍、次に斧…を使ってたんじゃなかったかな」


「そうだよ。棍とか斧も強いけど、私はハルバードが好きかなーって思ってる」


確かに、長柄で突きもできる斧と考えれば強い。だが、そんなの重さもエグいことになりそうだ。


「いや、確かに強そうだけど…重さは大丈夫なのか?」


「重さ?そんなの、魔力で相殺すればいいだけじゃん?」


「え、そんなことできるのか?」


「え、逆にやったことないの?」

美羽は目を丸くしてきた。


「あー、ないかも」

煌汰が言うと、美羽はますます驚いた。


「じゃ、今までずっと腕力だけで斧を振り回してきたの?…ヤバくない?」


「いや、普通それ以外思いつかないだろ」


「そうかな?…あー、でも魔力そんなにない種族だとそうかも。あれ、そういえば姜芽って何の種族?」


「防人だ。まあ今は守人だけど」


「防人か。それなら、パワー第一でも不思議はないけど…それでもさ、魔力があるんなら、立ち回りが楽になるよう工夫しない?」


そこまで頭が回らない。魔力と言えば、術や魔法に使うものだという認識しかなかった。術を使いこなせるようになりたいがために、魔力の応用を考えてなかったかもしれない…。

それに、考えてみれば術がなくても異能を応用すれば火属性の攻撃はできる。術第一ではなく、それ以外で魔力を活かせないか考えるべきだったか。


「ま、今からでも遅くないし。魔力で武器を軽くしてみればいいじゃん。何なら、今ここで試してみれば?」


「どうやるんだ?」


「武器に魔力を込めて、軽くなるように…扱いやすくなるように念じるだけ。やってみて?」

美羽は足を止め、俺にテストを推奨してきた。


「わかった、試してみるか…」

斧を手に取り、魔力を込める。

刃以外魔力が通りづらいので少々大変だったが、なんとか全体に魔力が通った。

そして軽く…扱いやすくなるようにと念じてみたところ、見事に斧が軽くなった。


「おぉ…!」

気のせいとかではない。さっきまで3キロはあった斧が、いきなり1キロもないくらいにまで軽量化したのである。

それは、片手でもほとんど重さを感じずに振り回せるほどであった。


「本当に軽くなったわけじゃないけどね」美羽が、斧を片手で振り回す俺を見て言った。

「武器の質量自体は変わらないよ。でも手に持った時に軽くて、簡単に振り回せるのは大きなメリットになる。武器の質量が変わらないってことは、武器自体の威力が下がらないってことでもあるしね」

確かにその通りだ。つまるところ、攻撃力はそのままに機動性を上げることができるのか。それは、確かに便利だ。


「斧じゃなくても、大剣とかハンマーとか使うヤツはみんなやってるテクだからね。重い武器を使うなら、覚えておくに越した事はないよ」


「ああ。ありがとな」

そう言った矢先、俺の目の前に水色のスライム状の異形が現れた。

それの表面にはイクラのようなつぶつぶがあり、それでこちらを捉えて向かってきた。

あのつぶつぶは、目なのだろうか。…気持ち悪い。


「…」

さっそく斧を…ではなく、左手を振り上げて炎を撃ち出して倒した。


「いや、斧使わないのかよ」

煌汰がツッコミを入れてきたが、美羽は俺の行動を肯定してきた。


「いや、軟体系の異形は物理に強いことが多いから、術とか魔弾で攻撃したほうがいい。今のはむしろ正しい判断よ」


何となくだが、美羽は異形の対処においても優れているような気がする。

上位種族というのもあるが、心強い味方ができたのではないだろうか。


そう考えると、こう言わずにはいられなかった。


「よっしゃ!じゃ、さっさと片付けて帰ろうぜ!」



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