第146話 辺境の村
ワープした先は、村の中…ではなく目の前に村が見える草原だった。
空は晴れ渡り、静かで優しい風が吹いている。いかにも平和な田舎という感じだ。
「なんか…のどかだな」
「ああ…」
正直もうしばらくここにいてもいいのだが、そういうわけにもいかない。
何しろ、今はこの国を救わねばならないのだ。悠長にしている暇はない。
「…で、これからどうするんだ?」
ナイアの方を見ると、「まず村に行こ」と言ってきた。
言われるまでもなくそのつもりではあったが…とりあえず、行ってみるとするか。
最初に見つけた村民に声をかけたら、一発で旅人だと見抜かれた上で「ここはビルカダールの村といいます」と教えてくれた。
龍神が「いや、知ってるよ…」と言いそうになってたが、猶がその口を塞いでいた。
村長に挨拶するため、村の中を進んでいく。
道行く人々は俺たちを特に敬遠したりせず、普通に歓迎してくれた。
彼らからは魔力をほとんど感じない。そのため、何となくだが異人ではなく人間なのだろうと感じた。
人間はほとんどの場合魔力を持っておらず、もし持っている者がいたら、それは異人になろうと努力している者である…らしい。
以前、読んだ本にそう書いてあった。
何気に本は結構有益なアイテムである。
謎の…というか人間界では見たことがない言語で書かれているものばかりだが、翻訳魔法のおかげで何となく読める。
しかも、それから得られるのはこの世界に関する知識だけではない。魔法が封じられた本、すなわち魔導書も読めるので、仮に魔力が尽きても戦える。
…そういえば、俺には専属の魔導書があったんだっけ。あと、詳しいことは忘れたが、魔導書の中に火と光以外で適性があるってわかったやつもあった気がする。
後で詳しく調べようと思って、すっかり忘れていた…今はいいだろうが。
ところで、この村でどんなイベントが起きるのだろうか。
ナイアに聞いてみたら、ここで「誰か」との出会いがあり、それがロードアを救うためのカギになる…とのことだが、具体的にどんなことが起きるのかは全くわからないらしい。
気が利かないな…と思ったが、まあ仕方あるまい。占いのようなものと思えばいい…というか、元よりナイアの異能は占いのようなものとして認識していた自分がいる。
進化したとは言うが…彼女には悪いが、あくまでも大まかな旅のナビゲート、という風に考えておいたほうがよさそうだ。
村の村長は、意外なほど若い女性だった。
なんでも先代の村長は2年前に亡くなっており、彼女はその孫娘であるという。
「この辺境の村に、一度にこんなにたくさんの旅人さんが来るなんて初めてです」と言っていたが、地図で見る限りここは首都から70キロほどしか離れていない。地図を見る限り、ここよりもっと離れた所にある集落は結構あるようなのだが。
まあ、隣国との境目が近いようだし、その意味では辺境と言えるか。
事情を話し、しばらく村に滞在させてほしいと願い出たところ、何日滞在してもらってもいいと言われた。だが、ただ居座らせてもらうのは申し訳ないので、何か困っていることはないかと聞いてみた。
そしたら、村の狩り場である東の草原に最近植物系の異形が出没しているのでこれを退治してもらえないか、という依頼を受けることができた。
クエストという形式で受けた依頼ではないので報酬などは見込めないだろうが、人助けになるならそれでいい。
それに、こうしていろいろ働いてしばらく村に滞在していれば、ナイアの言う「出会い」もあるだろう。
新たな仲間なのか、それとも…。
気にはなるが、今は依頼を完遂するのが先決だ。
「ビルカダール村の東…というと、ビルクの草原だな。最近は、あのあたりにも異形が現れるようになったのか」
道中で、イーダス王子がそんなことを言った。
「え、王子は向こうのことを知ってるのか?」
「ああ。この辺りは、我が国では貴重な人間の住むエリアだからな。国を上げて、保護に取り組んでいる」
これも本で調べたことなのだが、人間は異人より劣る存在である故、古来より異人に淘汰されてきた。しかし、割と最近になって人間を守ろうと働きかける異人や国家が増えてきた。それで、大陸のほとんどの国は人間の住む町や集落を特別エリアとして指定し、人間を保護するようになったという。
人間は確かに異人と比べると力は劣るが、それでも大半の異人の祖たる存在。故に、蔑ろにすることは許されない。全ての異人は身を挺して人間を守り、尊重する必要がある…というのが、現在の大陸諸国の考えであるらしい。
「植物系の異形…って、どんなやつらなんだろうな」
「さあね。けど、そんなに強い魔力も感じないし、大して強いやつじゃないと思うよ」
輝が言うと、イーダス王子が否定するように言った。
「異形は並の動植物を遥かに上回る力と凶暴性を持った存在だ。異人には大したことのない異形でも、人間にとっては大きな脅威となる。そもそもの力が違いすぎるんだ」
「…それもそうか。ごめん」
「謝る必要はない。僕達にとって、偉大な祖先である人間を敬い、守るのは使命…というより、同じ人類として最低限の礼儀だ。それを、覚えておいてほしい」
「はい…」
輝だけでなく、煌汰も頷いた。
元々人間であった俺としては、人間に敬意を払って大切にしてくれる異人はありがたい。
この手の人外的存在は、大抵人間を蔑ろにするものであるからだ。
この気持ちは、輝たちも同じだと思う。彼らも俺と同じ、『人間上がり』である。
しばらく進むと、誰かがいた。
後ろ姿だが、俺と同じくらいの背丈でピンクの髪をした、長髪の女のように見える。
妙に柄が長く重そうな斧を背負っていたので、異人であることはわかった。
「あれは…おそらく、僕の同族だな。もしかしたら、異形狩りに来たのかもしれない。声をかけてみよう」
イーダス王子が声をかけると、女は振り向いた。
その顔を見て、俺たちは驚いた。
なぜなら、それはかつての俺たちの同級生…
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