第145話 修行の結果
セニアは倒れはしないまでも、大きく仰け反った。
そしてすぐに立ち直り、俺の方を見て微かな笑みを浮かべた。
「見事だ…!」
俺が斧を収めると、セニアは表出させる魔力をきれいさっぱり消し去って言った。
「お前の勝ちだ。太陽術に関して、これ以上私が修行に付き合う必要はない。試験は文句なしで合格だ」
「え…」
嬉しかったが、正直あっけなかった。
なんか、術の修行ってもっと長くて過酷なイメージがあったし、試験ともなるとさらに厳しいイメージがあったのだが。
すると、セニアはそれも見透かしてきたのか「術の修行が厳格なものになるか、易いものになるかは適性と努力次第だ。お前はどちらも人並み以上にあったから、そこまで過酷な思いをしなかったのだ」と言ってきた。
「俺、そんなに努力したかな…?」
思わず、そうつぶやいてしまった。
「真の努力というのは、している自覚がないものだ。そしてそれは、成長も同じだ」
成長…か。
俺は、今回の修行でどれくらい成長できたのだろうか。
「でも、どうして初歩的な術ばかり教えたんだ?」
それは、聞かずにはいられなかった。
「技と同じだ。自力で閃き、使い、鍛錬を積んでこそ本領を発揮できる。それにお前は、私が教えるまでもなく上位の術を閃いたではないか」
そう言われて、はっとした。
「さあ、戻るとしよう。皆が待っているぞ」
部屋…もとい空間を出ると、すでにみんなが出揃っていた。というか、なんかみんなもたった今出てきたという顔をしていた。
チラッと聞いてみたら、やっぱりみんな今出てきたところらしい。セニアの力で、みんな同じ時間に出揃ったのだろうか。
セニアは俺と同じ空間の出口から出てきて、杖を掲げて全ての空間の出口を閉めた。他のみんなに修行をつけていた分身は、既に消してあったようだ。
「ふむ…全員、いい顔になったな。星術を歩む者として、恥ずかしさのない顔だ。…忘れるな、私がお前たちに教えたのは星術の初歩に過ぎない。この先は、お前たち自身で学んでいくのだ」
皆は、力強く返事をした。
「よろしい。ところで…」
セニアは振り向くことなく語りかけた。
「苺、それに吏廻琉。お前たちも、彼らの成長を一言祝ってやってはどうだ?」
それを聞いて、後ろにいた2人がこちらへ歩いてきた。
苺は、俺たちの顔を見て目を見開いた。
「母さん…」
「苺。やはり、お前の目に狂いはないな。彼らはみな、優れた魔力と才を持っていた。これだけの数の未来有望な者に星術の入り口を施せたこと、私は誇りに思うぞ」
「いえ、私は…」
ここで苺は目を閉じ、瞳の色を変えた。
「私は何もしていないわ。彼らには、どんな魔力よりも強い力がある。彼らは自然と引き寄せられ、仲間と己のために術の才を身につけた。ただそれだけのことよ、母さん」
言っている意味がわからなかったが、セニアは感心したようだった。
「そうか…確かに、そうかもしれんな」
吏廻琉は、俺たちの顔を見て固まっていた。
「すごい…あの短時間で、ここまで魔力を高められるなんて…」
「娘の言葉を聞いていなかったか?彼らにはどんな魔力より秀でた才が、力がある。それをもってすれば、決して不可能な事ではない」
吏廻琉は俺を見、セニアを見て言った。
「そう、ですね…私は少しばかり、彼らを見くびっていたのかもしれません」
彼女にも、セニアの言っている「力」の意味がわかったのだろうか。
凡人には、一体何のことかわからない。
「母さん、ありがとう。もし私たちが彼らに術を教えてたら、こんなにすぐにはできなかったわ」
「ふむ、私はそうは思わんな。彼らなら、お前たちが教えても十分だったと思うが」
「そう?…でも、結果として彼らはとても早いペースで星術を習得できた。これが母さんが彼らに術を教えてくれたおかげなのは、間違いないわ」
「そうだな。私も久しぶりにいい思いができたし、いいとしよう」
こうして並んでるのを見ると、セニアと苺は顔立ちと目つきがよく似ているのがわかる。
雰囲気に関しては、苺が優しく包みこみ、全ての人を助けるような感じであるとすれば、セニアは厳しいが相手の事を思っており、本当の意味で助ける…というような感じだ。
種族も生きた年月も全く違う親子というのは、人間界ではあり得ない。それだけに、彼女らの親子仲には言葉にならないロマンを感じる。
まあ、この世界では珍しくないのかもしれないが。
「さて、それでお前たちはこれからどうするつもりだ?」
セニアは、俺の方を向いて言った。
「ロードアに戻って、殺人鬼を倒して…」
そこまで言って気づいた。ここから戻るとなると、またあの荒野を通り抜けなければならない。無理ではないだろうが、時間的な意味でもちょっとキツい。
それに殺人鬼を倒すにしても、どこにいるのか見当もつかない。
そうこう考えていると、セニアからこんな言葉を賜った。
「困った時は、他者に頼るのも重要なことだぞ」
それで、俺ははっとした。
気づいた時には、こう口走っていた。
「セニア!あなたの力で、俺たちをロードアまで送ってもらえないか!」
少々図々しいかとも思ったが、セニアは笑顔で答えた。
「ふむ、よかろう。我が娘共々、お前たちをロードアの郊外まで送ってやろう」
「ありがたい…えっ、郊外?」
ここは、普通に考えて首都に送ってもらうものだと思うのだが。
もしかして、何か理由があるのだろうか。
「もちろん、理由ならある。…」
セニアは、視線を横に反らした。
その方向には、俺の同族でもあるナイアが…
「あれ…?」
その姿を見て、疑問を感じた。
いや、別に変わったところはないが…何やら、雰囲気が明らかに変わっている。
「ん?」「どうした?」「え?」
猶や龍神、煌汰も目線を彼女に移したが、何が起こったのか理解していないようだった。
当のナイアは、両手を後ろにやってニヤけている。
他に誰も気づいていないようなので、俺は言った。
「ナイア、昇格したのか!」
「へへ、あったりー!セニア様に修行をつけてもらったついでにね、
「ええ…そんなことあるか…?」
猶や龍神は引き気味だが、セニアはそれに関してこう説明した。
「彼女は守人への昇格を望んでおり、現に防人としては十分なほどの経験を積んでいた。だが、通常の方法で昇格できる防人は数少ない。故に、私が彼女を昇格させた」
「そういうこと。そして、異能だって進化させてもらったよ…これから起きる事がわかるくらいにはね!」
「え、それって…」
「セニア様は、初めから私たちをロードアに送ってくださるつもりだったの。でも、ここで私が異能を使って未来の事を調べたんだ。それで、郊外に行ったほうがいいってわかったの!」
ナイアは、得意げに言った。
「ロードアの郊外、ビルカダールの村。そこでとある人に出会う。その人こそ、事件の真相に辿りつくカギ。二つの怪人に気をつけて。…これが、私が受けた託宣の内容。何が起こるかはわからないけど、とにかく次の私達の目的地はロードアの郊外で間違いないよ」
「そうか…わかった、信じよう」
進化がどうのこうのは別にしても、、これまでにもナイアの異能は役立ってきた。今度も、信じていいだろう。
最後に、苺は母に別れを告げた。
「母さん、ありがとう。またね」
「うむ。…苺。彼らを最後まで助けてやるのだぞ」
「ええ。あいつにも言っておくわ」
『紫』の苺はそう言っていた。
彼女の本人格は『青』のほうだそうだが…セニアは、彼女ら『二人』のことをどう思っているのだろう。
実の娘なのだから悪く思っているわけはないが、気になった。
そうして、俺たちはセニアの術でワープした。
もちろん、外に停めていた馬車も一緒に。
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