第144話 太陽の試験

そうは言われても、すぐには動けない…と思いきや、容易に体が動いた。

それはもはや反射的…とも言えるレベルの反応で、我ながら不自然なほどだった。


「[ヒートショック]」


吹きつける熱波を結界を張って受け止め、セニアも術を使ってきた。

「[スターフェード]」


俺の周りに無数の光点を球状に作り出し、それを収縮させて攻撃してきた。やはりというか光点は一つ一つが非常に熱く、全身を火傷してもおかしくないくらいだった。

しかし、不思議なことに実際には火傷などしていないどころかダメージも大して受けていない。…熱に関しては、だが。


そう言えば、俺は「火を操る」異能があるんだった。もちろん今は太陽術の訓練なので異能は使えないだろうが、それでも異能に由来する性質はそのままのはずだ。

俺たち「ブレイブ」のメンバーはみな、エレメントに近い性質を持つ。となると、俺は火系の攻撃…炎や熱には耐性があり、ダメージを大きく軽減できる…という説には合点がいく。

そしてそれは、熱を持っている攻撃であれば全てに共通する…おそらく。


ということは、今のように光と熱の効果で攻撃する術や技を被弾した時、ダメージをおよそ半分に抑えられるのではないだろうか。

だから、今も大したダメージを受けずに済んだのだろう。

とすると、そこまでセニアの術を恐れる必要はない、のだろうか?


…と、考え事をしている間に次の術が飛んできた。

セニアが放ったのは「炎光・プロミネンス」だったが、その炎の大きさと威力は俺が使うものとは別物だった。

幅が大剣ほどもある炎の刃がヒュッと飛んでくる様には、微かに恐怖というか威圧を感じた。

実際、術を受けたらふっ飛ばされた。俺が彼女に放ったのとは偉い違いだ…まあ、セニアが俺が放ったのを完璧に防げただけなのかもしれないが。


立ち上がる前に、セニアは再び「紅炎・プロミネンス」を入れてきた。

慌てて身をよじって回避し、なんとか立ち上がった。

同じ術を返すだけでは歯が立たないので、「ライトフィクス」を放った。しかし、光点が集中して炸裂する前にセニアは結界を張り、防いできた。


どうやら、光点が集中し始めてから炸裂するまでの間の数秒間なら攻撃を防げるようだ。威力はあるが、発動までにラグがあるといったところか。

となると、隙をついて使うのがよさそうだ。


しかし、セニアは隙など見せるだろうか。

仮に見せたとして、攻撃しても防がれるような気がする。

実際に攻撃をしてこず、睨み合いの状態になっている今も、うっすらと体を結界で包んでいるのが見える。透明で薄い結界だが、やはり感じられる魔力は非常に強い。

俺が全力でかかっても、割れないようにさえ思える。


はっきりしたことはわからないが、術の強さがことごとく違うのは、俺と彼女との魔力の違いによるものだろうか。まあ、当然ではある。

だが、退くことはしない。例え魔力が劣っていようと、勝てなくはないはずだ。それに、彼女は今大幅に手加減してくれている。


セニアは、これは試験だと言っていた。

すなわち、セニアは今、俺が太陽術をうまく扱えるようになったかを見ている。

もしここで勝てなければ、彼女を失望させるだけでなく他のみんなにも遅れを取ることになる。

だから、俺は退かないし、諦めない。


「…」

斧を両手で持ち、顔の前で構えて目を閉じる。

別に、何か術を詠唱しているわけではない。

ただ、こうすれば何か閃くかもと思ってのことである。

勿論、そんな都合よく閃きはしないだろうが。


しかし、目を閉じて5秒ほどしたとき、突然閃いた。

それはこれまでに閃いた太陽術とは違い、基本術を元にして思いついたものであった。


「…!」

斧を杖代わりにし、先端に火球を浮かべる。そして、それを崩して刃にまとわせつつ振るう。

これは、基本術の派生だ。火球を一度崩して斧にまとわせ、振るうことで斬撃のパワーとスピードをプラスする。

そして、この術の名は…。


「[炎光・フレア]」

シンプルな名だが、威力は保証できる。斧を振るう際のパワーと速度をつけ足すのだ、その威力は基本術のままとは比べ物にならない。

炎の刃はセニアの結界で防がれたが、それでも数秒間食い込んで見せた。


「ほう…もうこれを閃いたか」

セニアは感心したようにつぶやくと、杖を掲げて唱えた。

「[防衛光]」


セニアの足元から黄色い円柱状の光が吹き上げ、セニアは円柱の中にすっぽり収まる形になった。

どうやら、結界と同じような防御系の術だったらしい。

「これを破壊できたら、或いは私に傷をつけることができたら、お前の勝ちとしよう。…さあ、かかってこい!」



俺は思いつく限りの太陽術を放った。

その過程で更なる新しい術として、強い光と熱を放つ大きな球を打ち出す「シャインストライク」を思いつき、一連の術のラストにとどめとばかりに放ったが、柱を破壊するには至らなかった。


術を全て使い切り、疲労を隠せずにいたところをセニアは突いてきた。

「[赤熱線]」


セニアの頭上に赤く光る球体が現れたかと思ったら、そこから強烈な光が飛んできた。

それは体を刺し貫かれるかと思うほど鋭く、身を焼かれるほど熱かった。

これは地味にきつかった。あくまで火傷などを負わず、熱によるダメージを軽減できるというだけで、光のダメージは普通に受ける。しかも、光で目をやられてまともに前が見えなくなった。


セニアの姿がかすみ、ぼんやりとしか見えない。

この状態でまともに戦うことはできないし、半ば当てずっぽうに術を唱えたところで隙を晒すだけになる。

どうにかして、この状態を回復しないと…。

と思ったその時、また新たに閃いた。


「[修復光]!」

立ち止まって手を高くかかげ、癒やしの力がある陽の光を呼び出す。

柱状に空から降りてくる光は傷を癒やし、さらに一時的に遮られていた視界も回復させてくれた。今は気にすることではないが、他の状態異常も回復できるだろう。


そうして、俺はセニアに向かって術を繰り出す。

「[炎光・フレア]!」

先程と同じ術を唱え、柱に食い込ませる。

そして術が消える前に、素早くもう一つ術を放つ。


「[スターフェード]!」

つい先程、セニアが使った術。

それをそのまま俺が使ったことに、セニアは口と目を見開いて驚いていた。


そこへ、さらにもう一つ決める。

「[ライトフィクス]!」

スターフェードと合わせて、ほぼ同時に着弾する2連続の攻撃。どちらも相応の威力がある上に、光の柱に明らかなダメージを与えた。


そうしてセニアが驚いている間に、再び「炎光・フレア」を放つ。

今度は、受け止められなかった。


俺が放った術は光の柱を破壊し、そしてセニアの目の前でふっと消えた。







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